第104回 α-シクロデキストリンを用いたキウイフルーツの粉末化およびプロテアーゼ活性の安定化|株式会社シクロケムバイオ
株式会社シクロケムバイオ
日本語|English
研究情報
研究成果

第104回 α-シクロデキストリンを用いたキウイフルーツの粉末化およびプロテアーゼ活性の安定化

概要

筋肉を増強したいアスリートだけでなく、美容やフレイル予防のためにもタンパク質の摂取は不可欠です。市販のプロテイン製品はタンパク質を手軽に摂取できる一方で、過剰に摂取したタンパク質は体内で消化されずに腸内で悪玉菌の餌となり、産生された腐敗産物はリーキーガットと呼ばれる腸管バリア機能の低下や、不快な体臭や肌荒れなどの原因となります。
キウイフルーツはビタミンCなどの栄養素のほか、ペクチンなどの食物繊維、さらにアクチニジンと呼ばれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を含んでいます。そのため、タンパク質とキウイフルーツを一緒に摂取すると、アクチニジンの働きにより効率的にタンパク質を分解・吸収できると考えられています1)
これまでに、α-シクロデキストリン(α-CD)を用いることで、粉末化が難しいハチミツなどの粉末を調製できることや2)、キュウリの酵素ホスホリパーゼCの活性を安定化できることが報告されています(※詳しくは、当社ホームページの最新研究成果「第81回」を参照して下さい)。
そこで本研究では、プロテアーゼ活性を安定化したキウイフルーツを原料とする粉末の調製を目的として、α-CDを用いたキウイフルーツの粉末化およびプロテアーゼ活性の安定化について検討しました。

実験

α-CDによるキウイフルーツの粉末化
果皮を含むキウイフルーツの固形分に対してα-CDを1:1(重量比)となるように量りとり、ミキサーで粉砕および混合した。得られたペーストを凍結乾燥させることによってキウイフルーツ-α-CD粉末(KAP)を得た。比較のため、α-CDを添加せずに粉砕、乾燥したキウイフルーツのサンプルも調製した。

α-CDによるキウイフルーツプロテアーゼ活性の安定化
KAPおよびキウイフルーツのみを粉砕・乾燥したサンプルについてキウイフルーツプロテアーゼ活性を測定し、粉末化工程におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の安定性について評価した。
また、KAPの保存安定性を評価するため、40℃での保存におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性について評価した。

KAPによるタンパク質の消化
高タンパク質食品であるはんぺんとKAPを水中で共存させ、はんぺんの形状の経時変化を観察した。
また、ホエイプロテインとKAPを食後の胃液を模した水溶液中で一定時間混合し、ホエイプロテインの分解(消化)の程度をニンヒドリン反応(567nmの吸光度測定)によって評価した。

プレバイオティクスとしてのKAPに関する検討
善玉菌として知られる酪酸菌(Clostridium butyricum M-II588)を含む培地へKAPを加え、37℃・嫌気下で20時間培養した後、菌の増加量は濁度で評価し、酪酸菌が産生する酢酸および酪酸の量はガスクロマトグラフィー分析により評価した。

結果と考察

3-1. α-CDによるキウイフルーツの粉末化
α-CDを添加しない場合、キウイフルーツ乾燥物として不均一な赤茶色の固体が得られたが粉末化することはできなかった。一方で、α-CDを添加したサンプルでは薄緑色の乾燥物が得られ、これを粉砕することで粉末(キウイフルーツ-α-CD粉末(KAP))が得られた(図1)。

図1. α-CDによるキウイフルーツの粉末化
図1. α-CDによるキウイフルーツの粉末化

3-2. 粉末化工程におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の安定化
KAPおよびキウイフルーツのみを粉砕・乾燥したサンプルのキウイフルーツプロテアーゼ活性を比較すると、KAPで有意に高い値を示したことから、粉末化工程におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の低下をα-CDが抑制したことが分かった(図2)。

図2. 凍結乾燥後のキウイフルーツプロテアーゼ活性
図2. 凍結乾燥後のキウイフルーツプロテアーゼ活性

3-3. 長期保存におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の安定化
次にKAPの長期保存安定性について、40℃での保存におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性を評価した結果、既存のキウイフルーツ粉末品2種と比較して、KAPの場合で6ヶ月間経過後もキウイフルーツプロテアーゼ活性が安定に保たれていることが分かった(図3)。

図3. 40℃におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の保存安定性
図3. 40℃におけるキウイフルーツプロテアーゼ活性の保存安定性

3-4. KAPによるタンパク質の消化
KAPがタンパク質の分解を促進し、消化・吸収を助けることが期待できる。このことから、ここでは高タンパク質食品であるはんぺんとKAPを水中で共存させて振とうし、はんぺんが分解される様子を観察した。その結果、水のみでははんぺんは変化しなかったが、KAP共存下では経時的にはんぺんが分解された(図4)。
 また、食後の胃を模した条件で、市販のプロテイン製品として一般的なホエイプロテインとKAPを一定時間混合し、ホエイプロテインの分解度合いをニンヒドリン反応によって評価した。その結果、ニンヒドリン反応後の溶液の吸光度について、胃内のプロテアーゼであるペプシン単独と比較してKAPを添加した場合でより高い値が示されたことから、KAPによりホエイプロテインの分解が促進されることが明らかとなった(図5)。

図4. KAPによる高タンパク質食品の分解
図4. KAPによる高タンパク質食品の分解
図5. KAPによるホエイプロテインの分解
図5. KAPによるホエイプロテインの分解

3-5. プレバイオティクスとしてのKAPに関する検討
α-CDは善玉菌である酪酸菌によって資化され、大腸に有益な短鎖脂肪酸である酪酸が産生される。また、キウイフルーツに含まれる食物繊維も善玉菌によって資化され、短鎖脂肪酸が産生されて腸内環境が改善されることが知られている。このようにプレバイオティクスとしての有用性が期待できるKAPについて、酪酸菌(Clostridium butyricum M-II588)による資化性を評価した。その結果、菌量増加量(濁度増加量)や酢酸・酪酸産生量は、糖質なし・α-CDのみと比較して、KAPで最も多くなることが分かった(図6)。

図6. KAPによる酪酸菌の増加と総有機酸量の増加
図6. KAPによる酪酸菌の増加と総有機酸量の増加

まとめ

キウイフルーツ-α-CD粉末(KAP)は、安定化したプロテアーゼを含むキウイフルーツ粉末であり、タンパク質の消化を助けることができる素材として、プロテイン製品と組み合わせたサプリメントを始めとする新たな健康食品開発にご利用いただけます。それだけでなく、腸内環境を整え様々な健康増進効果が期待できるプレバイオティクスや、酪酸菌などと組み合わせるとシンバイオティクスとしても有用である素材となっています。

参考文献

1) Montoya C.A. et al., J. Nutr., 144, 440-446 (2014).
2) 城文子ら, 第26回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集, 140-141 (2009).