脂肪酸の種類と健康への影響(5) ココナッツオイル摂取によるケトン体の補給と健康増進作用とは?|株式会社シクロケムバイオ
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2015.3.2 掲載

脂肪酸の種類と健康への影響(5) ココナッツオイル摂取によるケトン体の補給と健康増進作用とは?

お待たせしました。前々回から後回しにされていたココナッツオイルの紹介です。高齢化社会にあって、認知症予防、ダイエット効果、美容効果のあるもとしてココナッツオイルが、最近、にわかに注目され始めています。

ココナッツオイルの主要成分は、ラウリン酸などの中鎖脂肪酸。中鎖脂肪酸は母乳の脂肪分にも数%は含まれていることから、1960年頃から既に専門家の間では注目されており、未熟児の栄養補給に利用されています。それが、最近になって、米国やフィリピンでココナッツオイルに関する研究がさらに活発化しています。そして、それらの研究報告が日本のマスコミでも知られている著名な有識者の目に留まり、特に、ダイエット効果と認知症予防効果の知見が、TV等で一般の方々に伝えられ、日本でブームになりつつあるという構図です。

ココナッツオイルに含まれるラウリン酸が脂質膜を持っているウイルスに対して抗ウイルス作用を示すこと、さらには抗てんかん、動脈硬化予防、変異原生抑制、ダイエット効果、LDLコレステロール低減、認知症予防効果など実に様々な報告があります。

その中でも、注目されているのがダイエット効果とアルツハイマー病の予防と改善なのです。この脳機能改善については後で触れます。

まずはダイエット効果の説明から…

中鎖脂肪酸の利点は長鎖脂肪酸に比べ、代謝されやすくエネルギーに変換されやすいことで、ダイエットの際、また、アスリート、患者、高齢者の栄養補給源としても有用であることが分かっています。

通常、脂肪を摂取して消化管から体内に吸収されると、その脂肪は中性脂肪として蓄えられるか、エネルギーに変換されるか、という二つの経路があります。植物油の多くに含まれる長鎖脂肪酸はリンパ管や静脈を通って脂肪組織や肝臓に運ばれ、分解されて貯蔵されます。しかし、中鎖脂肪酸は小さい分子であることから膵液や胆汁がなくても速やかに吸収され、門脈を経て直接、肝臓に移動し、ミトコンドリアではなくペルオキシゾームで酸化されエネルギー変換されるのです。(図1)

図1. 長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の中性脂肪としての貯蔵とエネルギー産生
図1. 長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の中性脂肪としての貯蔵とエネルギー産生

中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を問わず、脂肪酸は、肝臓の肝細胞内のミトコンドリアでエネルギー産生に必要なアセチルCoAに変換されます。つまり、この変換はミトコンドリア内で起こるのですが、長鎖脂肪酸がミトコンドリア内に入る場合にはL-カルニチンが必要なのです。一方で、中鎖脂肪酸の場合は必要なく入っていけるのでエネルギー変換されやすいということになります。

この説明で、年齢とともにL-カルニチンの体内生産量が減って長鎖脂肪酸の多い肉類を食べてもエネルギーに変換されずに中性脂肪として蓄えられて肥満になるのがよく分かると思います…

ここで、少しだけ化学知識が必要となりますが、分かり辛いようであれば、この後の文章は飛ばして読んで頂いても全体的には理解できることになっています。

『エネルギー産生のためのクエン酸回路を回すにはクエン酸が必要です。クエン酸はアセチルCoAとオキサロ酢酸の反応によって生成します。オキサロ酢酸はピルビン酸から生成しますが、そのピルビン酸の原料はブドウ糖です。よって、ブドウ糖がなければアセチルCoAはクエン酸回路には使われず…ケトン体となるのです。』

この内容を短くまとめると…ブドウ糖を摂取しなければ中鎖脂肪酸はケトン体になる、そして、ケトン体は血液で他の組織や臓器に運ばれエネルギー源として利用できるということです。(図2)

図2. 中鎖脂肪酸からのケトン体生成
図2. 中鎖脂肪酸からのケトン体生成

ブドウ糖を摂取して体を維持するための十分なエネルギーが得られている状態ではケトン体をエネルギー源として使われません。しかし、ブドウ糖を摂取しなければエネルギー源として蓄えていた中性脂肪を利用しなければなりません。そこで、ブドウ糖の元である炭水化物の摂取を控えて、ココナッツオイルを摂取すればブドウ糖がエネルギー源として使えず、体はココナッツオイルからのケトン体を利用するようになります。その際に中性脂肪からのケトン体も同じものですので、中性脂肪も同時にエネルギー消費に利用されることになるのです…

これが、ココナッツオイルに含まれるラウリン酸などの中鎖脂肪酸のダイエット効果です。

次に、認知症の予防効果に関する知見です…

脂肪酸は脳関門を通過できないため、脳は通常、脳関門を通過できるブドウ糖のみをエネルギー源としているというのが通説ですよね…

でも、実は、絶食等でブドウ糖が枯渇した場合、アセチルCoAから生成されたケトン体もブドウ糖と同様に脳関門を通過でき、通過後は、再度アセチルCoAに戻されて脳細胞のミトコンドリアのTCAサイクルでエネルギー源として利用されているのです。

脳・神経細胞は、もちろんブドウ糖を優先的にエネルギー源として利用しますが、ブドウ糖が少ないときはケトン体が脳・神経細胞の唯一のエネルギー源となっているのです。そういった理由から、米国の医師がココナッツオイルのアルツハイマー病の改善に有効ではないかと考え、臨床試験が実施されました。そして、大変良好な結果が得られたというわけです。

しかしながら、炭水化物を取らず、ココナッツオイルとともにタンパク質と長鎖脂肪酸の豊富な肉類だけを食べるダイエットや認知症予防法には落とし穴があります。L-カルニチンの生体内生産量が減少している高齢者にとっては過剰摂取した長鎖脂肪酸をエネルギーに変換できなく体内に蓄積されるという問題です。

ここで、ココナッツオイルとともに摂取すべき、すばらしい食物繊維を紹介します。α-シクロデキストリンです。この食物繊維は、長鎖脂肪酸を選択的に排泄し、中鎖脂肪酸の吸収を促進できるすばらしい機能を有しているのです。図3に示しますように、α-シクロデキストリンの濃度上昇にともない、長鎖脂肪酸の溶解度は減少し、包接体の析出が確認されています。つまり、腸管内において、長鎖脂肪酸はα-シクロデキストリンと不溶性の包接体を形成し、体外に排泄されることを示唆しています。一方、中鎖脂肪酸はα-CD濃度変化に関係なく溶解度は維持されていました。

図3. 飽和脂肪酸の炭素数の違いによる包接体の析出
図3. 飽和脂肪酸の炭素数の違いによる包接体の析出

尚、もともと生体内にある中性脂肪である長鎖脂肪酸トリグリセリドのエネルギー燃焼を助けるL-カルニチンを配合したα-シクロデキストリン製剤が市販されていますので、ダイエットや認知症予防のためにココナッツオイルを摂取される方々は、是非、こちらのものも同時に摂取されることをお薦めします。

コラム:ケトン体とは…

アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称で脂肪酸やアミノ酸の代謝産物です。解糖系やβ酸化によって生産されたアセチルCoAはクエン酸回路で消費されますが、肝臓で過剰に産生されるとケトン体に変換されるとケトン血症やケトン尿症を引き起こします。このような病状をケトーシス(ケトン症)と呼びますが、ケトン体は酸性なので血液のpHは酸性となります。そして、ケトン体が増えて血液が酸性になった状態をケトアシドーシスといいます。重度の糖尿病患者はβ酸化の過度の亢進で肝臓からケトン体が大量に産生されます。糖尿病患者の血液中のケトン体濃度の上昇は糖尿病の悪化を示す指標ですのでケトン体は体に悪いイメージがあります。しかし、一方で、インスリンの働きが正常であればケトン体は極めて安全なエネルギー源なのです。