ヒトケミカルとヒトケミカルの組み合わせ(3) 自立高齢者と入院高齢者のCoQ10とL-カルニチンの血中レベルの違い|株式会社シクロケムバイオ
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ヒトケミカルとヒトケミカルの組み合わせ(3) 自立高齢者と入院高齢者のCoQ10とL-カルニチンの血中レベルの違い

このシリーズでは、三大ヒトケミカルの組み合わせによる様々な機能の相乗作用に関する報告を紹介しています。(1)は、コエンザイムQ10(CoQ10)とL-カルニチン(LC)による脂肪燃焼促進の相乗作用について記述しました。

LCとCoQ10を同時に摂取すると、LCによってミトコンドリア内に移動した脂肪酸からのエネルギー変換がスムーズに進行します。その結果、LC単独よりも相乗的な脂肪燃焼促進が起こり、体脂肪率、BMIが有意に減少することが成人女性(年齢20歳~40歳)60名の検討で判明していることを紹介しました。

今回は、高齢者を対象として、長期入院高齢者のLCとCoQ10の血中レベルが、自立している高齢者の血中レベルよりも有意に低いことを示し、高齢者にLCとCoQ10の摂取が必要であることを明らかとした論文を紹介します。

尚、この発表論文は和洋女子大の高橋氏らの研究グループが第35回日本臨床栄養学会総会、第34回日本臨床栄養協会総会、第11回大連合大会(2013年10月@京都)で発表しNew Diet Therapy Vol.3, No.3, P23-P33に論文化したものです。ここに示しております図はその論文の表から分りやすく改変したものです。

年々、日本をはじめ先進諸国においては、寿命の延伸に伴って介護を必要とする高齢者の割合が増加しています。この論文では、長期入院高齢者と自立高齢者のLCとCoQ10の血中レベルを比較しており、長期入院高齢者が、タンパク質やエネルギー摂取不足による低栄養状態にあることはこれまでにも指摘されてきていましたが、この論文で、LCやCoQ10の血中レベルも低いことを確認し、高齢者のQOL向上にLCとCoQ10の摂取も必要なことを指摘しています。

LCは生体内で長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への輸送に関わり、脂質代謝を促進し、一方、CoQ10は電子伝達系の補酵素としてエネルギー産生を促しています。どちらも生体内で生合成されているため、必須栄養素とみなされていないことから、一般の栄養指導や献立作成時に考慮されていないことが問題と思われます。

加齢に伴って、筋肉中のLCやCoQ10のレベルは低下します。LCは羊肉や牛肉に、そして、CoQ10はそれらの肉類や青魚に多く含まれていますが、長期入院高齢者は自立高齢者に比べ、これらの食品を食べる機会が少ないのが問題だと考えられます。さらに、栄養素を経腸栄養剤から摂取する場合はコスト面からLCやCoQ10を含まない製品を利用する場合が多いそうです。そこで、長期入院高齢者を経口栄養摂取群と経腸栄養摂取群に分け、LCとCoQ10の血中レベルを、健康な自立高齢者の値と比較して調べています。

LCの血中レベルは経口栄養入院群では自立群に対して約73%、そして、予想通り、食事からLCを摂取できない経腸栄養入院群では自立群に対して55%と低い値を示しています。(図1左側のグラフ)

図1. 血中L-カルニチンレベルの結果(群間比較)
図1. 血中L-カルニチンレベルの結果(群間比較)

脂肪酸は細胞質ではコエンザイムA(CoA)と結合したアシルCoAの状態で存在しています。ミトコンドリア内膜を通過する際にLCと結合し(アシル交換という)アシルカルニチンとなります。総カルニチンに占めるアシルカルニチンの割合はおいては、自立群が26.1%、経口栄養入院群16.5%、経腸栄養群19.5%で、アシルカルニチンの割合が高い自立高齢者は入院高齢者よりも脂肪酸代謝が活発に行なわれていると考えられます。(図1右側のグラフ)

図2. 血中CoQ10レベルの結果(群間比較)
図2. 血中CoQ10レベルの結果(群間比較)

CoQ10に関しても、経口栄養入院群における肉類などのたんぱく質摂取量が自立群に対して少ないことから、CoQ10の摂取量も少なくなっています。経腸栄養入院群に至っては、CoQ10摂取量は0mgと見積もられます。経口栄養入院群の血中CoQ10レベルは自立群の60%、経腸栄養入院群では自立群に対して47%と低い値を示しています。(図2左側のグラフ)

また、還元型CoQ10(CoQ10H)は脂溶性の抗酸化物質で生体膜を酸化ストレスから守る働きを持っていますが、CoQ10Hの総CoQ10に対する割合は自立群が96.4%、経口栄養入院群91.4%、経腸栄養入院群88.3%でした。(図2右側のグラフ)長期入院高齢者は自立高齢者に比べて酸化ストレス過多の状態にあることが分ります。そして、自立高齢者はCoQ10の還元能力が高いと考えられます。これは酸化型のCoQ10がエネルギー産生に利用された際に還元型のCoQ10(CoQ10H)に変換されるためで、自立高齢者は十分にエネルギー産生できていることを意味しています。

LCやCoQ10の補給に伴ってエネルギー産生が出来るようになれば、体脂肪の蓄積を抑えられ、筋肉を増強し保つことが出来るようになると考えられます。

以上のように、栄養状態の改善とQOL低下の予防という2つの側面から、LCやCoQ10の積極的な摂取は高齢者にとって有効と思われる結果でした。