R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(10)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.10.24 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(10)

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、R-αリポ酸によるミトコンドリア機能改善に関する論文です。三大ヒトケミカルの一つであるR-αリポ酸のミトコンドリアに対する影響について取り上げました。

ミトコンドリアはヒトの生命活動に不可欠であり、ひとたびミトコンドリアの機能が低下すると、様々な病気となって私たちの生命活動を妨げます。このミトコンドリア機能低下に伴い、細胞におけるエネルギー生産が困難になってあらわれる病気は「ミトコンドリア病」と呼ばれています。
ミトコンドリアとヒトケミカル(7) ヒトケミカルはミトコンドリア病治療薬

ミトコンドリア病は生体内におけるどの細胞でミトコンドリア機能が低下するかによって様々な症状としてあらわれます。たとえば、中枢神経細胞(わかりやすくいうと脳)の場合には記憶力や認知機能の低下といった症状があらわれ、骨格筋細胞であれば筋力低下や疲労しやすくなる症状があらわれます。そして、カラダの複数の部位で症状があらわれる場合と単一部位であらわれる場合がありますが、単一部位であらわれた場合はミトコンドリア病との診断は困難になります。ミトコンドリア病は、完治する治療法がいまだに見出されておらず、厚生労働省は難病に指定しています。

ミトコンドリア病の症状
ミトコンドリア病の症状

R-αリポ酸のミトコンドリア機能改善作用に関して、今回紹介する論文のタイトルは『(R)-α-Lipoic acid-supplemented old rats have improved mitochondrial function, decreased oxidative damage, and increased metabolic rate(R-αリポ酸を摂取した老齢ラットはミトコンドリア機能が改善し、酸化損傷が減少し、そして代謝速度が増加した)』FASEB J. 13, 411-418(1999)で、カリフォルニア大学のT. R. HAGENらによる研究報告です。

ミトコンドリアにおいてエネルギー産生のための補酵素であるR-αリポ酸を添加した飼料を老齢ラットに与えて、加齢によって観られる代謝低下に対して、R-αリポ酸の効果を調べています。

若齢(3~5ヶ月齢)および老齢(24~26ヶ月齢)ラットに、R-αリポ酸(0.5 %w/w)を含むor含まないAIN-93M飼料を2週間与え、解剖し、肝実質細胞を単離しました。

未処置の老齢ラットの肝細胞は、コントロールの若齢ラットに対して酸素消費量(P < 0.03)は顕著に低くなっていましたが、R-αリポ酸を摂取することで、加齢に伴う酸素消費量の減少は若齢ラットと同等にまで回復しています。つまり、老齢ラットのエネルギー産生能力がR-αリポ酸によって若齢ラットの能力まで戻ったことを示しています。

表1. 肝細胞におけるR-αリポ酸による酸素消費量の変化
表1. 肝細胞におけるR-αリポ酸による酸素消費量の変化

代謝活性の指標として歩行活性を検討しています。R-αリポ酸を摂取していない老齢ラットの歩行活性は、若齢ラットの歩行活性に対してほぼ3倍低下しましたが、R-αリポ酸を摂取した老齢ラットの歩行活性はR-αリポ酸を摂取していない老齢ラットよりも2倍向上しました。(P < 0.0005)

図1. 歩行活性の変化
図1. 歩行活性の変化

また、肝細胞における生体内抗酸化物質であるグルタチオンやビタミンC(アスコルビン酸)の生体内量はともに加齢に伴い減少していきますが、R-αリポ酸の摂取によって顕著に回復することが明らかとなりました。

図2. 生体内還元型グルタチオン(GSH)の変化
図2. 生体内還元型グルタチオン(GSH)の変化
図3. アスコルビン酸量の変化
図3. アスコルビン酸量の変化

したがって、この論文によってR-αリポ酸の摂取は、代謝活性の指標を改善するだけでなく、加齢に伴う酸化ストレスおよび損傷を低下させることができることが判りました。