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飲酒に対するハチミツの効果とマヌカハニーの肝機能改善作用

コサナでは「翌日の元気をサポート、夜のおつきあいの一本に、デザートだけど……お・さ・きにいただきます!」として『マヌカハニーとリンゴのデザート』という飲酒の前に摂取することで、二日酔いを防ぐことのできるゼリー状の機能性食品を開発しました。この機能性食品にはクルクミン、ウルソール酸、マヌカハニーが二日酔いを防ぐための機能性素材として含有されています。

アルコールに対して肝機能を保護し健康を維持する成分として、ウコンに含まれるクルクミンが有効であることはご存知の方も多いと思われますが、『マヌカハニーとリンゴのデザート』という製品名にもなっています、マヌカハニーやリンゴの皮に含まれるウルソール酸にもそのような効能があることはあまり知られていません。

そこで、今回は、オレンジハチミツとライチハチミツ含まれる果糖やブドウ糖に飲酒に対する効果と、ハチミツの中でもマヌカハニーが肝機能改善作用を有することを見出した3つの研究論文を紹介します。

先ずは、ナイジェリアのオレンジハチミツのアルコール代謝作用に関する報告です。

Effect of Nigerian citrus (Citrus sinensis Osbek) honey on ethanol metabolism
SAMJ, 94 (12), 984-986 (2004)

フルクトース(果糖)はNADH:NAD+の酸化還元反応に寄与して血中からアルコールを除去できることが判っています。(J Clin Invest 1965; 44: 817-830, Eur J Biochem 1976; 63: 449-458)

図1. エタノールの酸化反応に対するフルクトースの影響
図1. エタノールの酸化反応に対するフルクトースの影響

しかし、フルクトース単独の摂取では、摂取した人の40-80%が吸収不良や何らかの胃腸症状を訴え、50g以上で、腹部の張りや下痢の症状があらわれます。(Alcohol, 1991; 26: 53-59)しかし、そういった症状を訴えた人がグルコース(ブドウ糖)やでんぷんを同時に摂取することでフルクトースは完全に吸収されるので、それらの症状は出なくなることが知られています。そのような知見をもとに、この論文では、フルクトースとグルコースが豊富なナイジェリアのオレンジハチミツを用いて飲酒した後にハチミツを摂取することで血中アルコール濃度がどのように変化するかを調べています。

被験者は25-35歳の男性25名と女性20名で、付き合いでお酒を飲む程度の人を選んでいます。朝7:00までに軽い朝食を摂ってもらい、その後、4時間絶食して、11:00に試験を開始しました。エタノールの3倍量のオレンジスカッシュ割り(25%エタノール)を5分で飲酒してもらっています。(エタノール 0.65mL/体重1kg当たり)これは、50kgの人が焼酎(25%)を130mL飲むイメージです。そして、20分毎に5時間にわたって採血しました。そして、約1ヶ月後、ハチミツを摂取する試験を同手順で実施しました。飲酒後、男性は40分後、女性は30分後にハチミツを摂取(1.0mL/体重1kg当たり)してもらいました。その結果、男性の場合、血中アルコール濃度の最大値はハチミツ摂取によって14%減少し、アルコール濃度がゼロに達する時間は5.3時間から2.9時間へと46%も減少しました。また女性の場合でも血中アルコール濃度の最大値はハチミツ摂取によって9%減少し、アルコール濃度がゼロに達する時間は4.7時間から2.2時間へと40%減少しました。

図2. ハチミツ摂取による血中アルコール濃度の低下
図2. ハチミツ摂取による血中アルコール濃度の低下

次に、アルコール摂取による運動量の低下をライチハチミツ摂取で改善できるという研究論文を紹介します。

Honey reduces blood alcohol concentration but not affects the level of serum MDA and GSH-Px activity in intoxicated male mice models,
Complementary and Alternative Medicine (2015) 15:225

この論文では、8~10週齢マウスを用いて、アルコールを経口投与した際に低下する自発的運動量(60分間)を測定しています。尚、自発的運動量の測定ボックスは市販されていて、赤外線ビームセンサーを搭載し、動物の軌跡や距離、速度が測定できるそうです。

運動量測定ボックスに入れて1時間馴化し(慣れさせて)、ライチハチミツ(2.19g/体重1kg当たり)を経口摂取させて30分後、アルコール(0.1mL/10g体重当たり)投与し、ボックスに戻して1時間後に測定しています。その結果、アルコールによる自発的運動量の低下は、飲酒前のライチハチミツの投与で顕著に抑えることができています。つまり、ライチハチミツを摂取していればアルコールを飲んでも、アルコールを飲んでいない時と同じくらいの運動量になることが判りました。これは、ハチミツがアルコール中毒症状を防ぐのに役立つことを示唆しています。

図3. 飲酒時のハチミツ摂取による自発的運動量の上昇
図3. 飲酒時のハチミツ摂取による自発的運動量の上昇

前述の論文と同様に、血中アルコール濃度に対するハチミツ摂取の影響を調べています。アルコールを投与して5分後、ライチハチミツを与え、その30分後に採血しアルコール濃度をヘッドスペース-GC測定しています。その結果、アルコールを投与したマウスの血中アルコール濃度が4.99mg/mLに対して、ライチハチミツを摂取すると3.19mg/mLに36%低下することが明かとなりました。この結果は前述のヒトの試験と同様でした。

図4. ハチミツ摂取による血中アルコール濃度変化
図4. ハチミツ摂取による血中アルコール濃度変化

アルコール摂取による自発的運動量の低下がハチミツで抑えられた理由としてハチミツの抗酸化作用が考えられます。そこで、ハチミツの酸化ストレスに対する影響を検討しています。マウスにアルコールを投与して5分後、ライチハチミツを与えました。このアルコール・ハチミツ投与を3日連続実施した後、採血してマロンジアルデヒド(MDA)とグルタチオンペルオキシド(GPx)を測定しています。尚、MDAは脂質が活性酸素によって酸化された過酸化脂質量を評価するためのバイオマーカーで過酸化脂質の二次生成物です。活性酸素が多いとMDAは高い値を示します。そして、GPxはグルタチオンを補酵素として利用し、細胞内の様々なヒドロペルオキシドを消去する主要な抗酸化酵素です。GPx値が低いと活性酸素による障害を受けやすくなります。MDAとGPxの測定結果、残念ながらライチハチミツ摂取によって酸化ストレスを低減することはできないことが判りました。この結果より、著者らはライチハチミツに含まれる抗酸化物質ではなく、フルクトースやグルコースがエタノールの吸収を抑え、エタノールの排泄を促すのではないかと結論付けています。

図5. ハチミツの酸化ストレスへの影響
図5. ハチミツの酸化ストレスへの影響

最後に、ラットのエタノール誘発性胃潰瘍に対するマヌカハニーの胃の保護作用に関する論文を紹介します。この論文では、マヌカハニーの抗酸化作用と抗炎症作用について注目し、酸化ストレスマーカーと炎症性サイトカイン産生応答の観点から胃潰瘍に対する保護機構を解明しています。

Antioxidant, Anti-inflammatory, and Antiulcer Potential of Manuka Honey against Gastric Ulcer in Rats
Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2016 (ID 3643824)

ラット(24匹)をコントロール群、エタノール群(エタノールを経口投与し潰瘍誘発)、オメプラゾール群(オメプラゾールを7日間投与後、エタノール投与)、マヌカハニー群(マヌカハニーを7日間投与後、エタノール投与)の6匹ずつ4群で検討しています。

潰瘍指数において、マヌカハニー群は医薬品の抗潰瘍剤であるオメプラゾール群と同様の数値を示し、エタノールによって誘発される潰瘍を顕著に抑制することが判明しました。

図6. マヌカハニーによる潰瘍指数の減少
図6. マヌカハニーによる潰瘍指数の減少

NOは上皮細胞や血管内皮細胞などで産生されます。エタノールによる胃粘膜損傷時に産生されたNOは粘膜保護および損傷部の修復に寄与しています。マヌカハニーはエタノールによるNO量の減少を抑制することが判りました。

図7. マヌカハニーのNO量減少抑制作用
図7. マヌカハニーのNO量減少抑制作用

抗酸化酵素に対するマヌカハニーの影響が検討されています。ここで、検討された抗酸化酵素はグルタチオンペルオキシターゼ(GPx)、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、そして、カタラーゼ(CAT)です。何れの酵素に対してもマヌカハニーはオメプラゾールに匹敵する効果を示すことが判りました。

図8. マヌカハニーによる抗酸化酵素の増加
図8. マヌカハニーによる抗酸化酵素の増加

尚、これらの抗酸化酵素は何れもアルコールの摂取によって減少するとDNAやタンパクが活性酸素の損傷を受ける頻度が高まります。大変興味深いことに、前述のライチハチミツ摂取の場合は図5を確認いただきたいのですが、抗酸化酵素への影響はありませんでしたが、マヌカハニー摂取の場合はアルコールによる抗酸化酵素の減少を抑制できることが判りました。

エタノール摂取による抗酸化物質であるグルタチオンの生体内量の低下もマヌカハニーは抑制できています。

図9. マヌカハニーによるグルタチオン(GSH)の増加
図9. マヌカハニーによるグルタチオン(GSH)の増加

また、前述しましたが、脂質が活性酸素によって酸化された過酸化脂質量の評価に利用されているマロンジアルデヒド(MDA)もマヌカハニー摂取によって抑制できています。この抑制作用も、ライチハチミツ摂取では観られず、マヌカハニーの抗酸化作用によるものであり、大変興味深い結果です。

図10. マヌカハニーによるマロンジアルデヒドの増加抑制
図10. マヌカハニーによるマロンジアルデヒドの増加抑制

さらに、マヌカハニーには抗酸化作用とともに抗炎症作用が知られていますので、マヌカハニー摂取による体内の炎症性サイトカインへの影響を調べています。その結果、図11に示しますように、マヌカハニーにはオメプラゾールと同様の抗炎症作用のあることが明かとなっています。

図11. マヌカハニーによる炎症性サイトカインへの影響
図11. マヌカハニーによる炎症性サイトカインへの影響

以上、飲酒に対するオレンジハチミツ、ライチハチミツ、そして、マヌカハニー摂取の効果を三つの論文で確認していただきました。まとめますと、血中アルコール濃度を減少させて悪酔いをしないためにはフルクトースとグルコースを含有するすべてのハチミツに効果がありますが、飲酒による胃潰瘍を予防するためにはハチミツの中でもマヌカハニーを摂取する必要のあることが判りました。