ラクダのミルク(2)糖尿病改善効果に関する作用機序の解明|株式会社シクロケムバイオ
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2019.4.8 掲載

ラクダのミルク(2)糖尿病改善効果に関する作用機序の解明

ラクダのミルクに糖尿病改善効果のあることをまとめたシステマティック・レビューがあり、動物試験の研究報告が8報、ヒト臨床試験では、1型糖尿病患者に対する臨床試験報告が8報、そして、2型糖尿病患者に対する臨床試験報告が3報の合計19報あり、その内容について、前回、簡単に紹介いたしました。今回は、その作用機序解明のための研究報告を紹介させていただきます。

作用機序に関するレビューはアラブ大学Ayoubらの研究グループによって2018年のDiabetes Research and Clinical Practice誌に『The molecular basis of the anti-diabetic properties of camel milk』というタイトルで投稿されています。

そのレビューではラクダミルクの糖尿病改善効果には、図1に示すような、以下の3つの作用機序が推察されています。

①高含有のインスリン及びインスリン様プロテインと酸による凝固性をもたない
②ラクダのミルク由来タンパク加水分解物によるDPP-4阻害作用
③抗酸化作用+β細胞保護効果

図1. ラクダのミルクによる糖尿病改善効果に関する作用機序
図1. ラクダのミルクによる糖尿病改善効果に関する作用機序

では、それぞれの作用機序の推察に関する論文で説明していきます。

まずは、①のインスリンが酸との凝固性を持たないために、インスリンが生体内へ吸収されるのではないか、との推察です。ラクダのミルクのインスリン含有量は2001年の論文によりますと牛乳の3倍以上です。

図2. 各種ミルクのインスリン含有量
図2. 各種ミルクのインスリン含有量

通常、インスリンは経口摂取すると速やかに代謝されるため、血糖値に影響を与えないとされていますが、この論文の考察によりますと、ラクダミルクに含まれるインスリンは分解され辛く、ラクダのミルクを用いてチーズなどの加工品を作る際に、酸を加えても凝固体の生成量が少なく、その凝固体がソフトであったことから、胃酸でもラクダのミルク由来のインスリンは凝固しないで生体内に吸収されている可能性があるとしています。

次の作用機序は、ラクダミルク由来タンパク加水分解物によるDPP-4阻害作用です。2017年のNongoniermaらによるJournal of Functional Food, 34 (2017) 49-58の論文報告より説明させていただきます。
内容を理解しやすくするために、用語のGLP-1とDPP-4を簡単に説明しておきます。GLP-1は、食事によって小腸から分泌されるとβ細胞にあるGLP-1受容体に結合してインスリン分泌を増加させる作用があります。この作用は、血糖値に依存していて、血糖値が80mg/dL以下では起こりません。DPP-4阻害作用物質は、GLP-1を分解するDPP-4の作用を阻害することでGLP-1の分解を防ぎ、GLP-1の血中濃度を高めます。その結果、インスリン分泌が増強され血糖値が下がります。

図3. DPP-4阻害作用機構
図3. DPP-4阻害作用機構

この研究報告では、ラクダのミルクと牛乳のタンパク質をトリプシンで加水分解し、分画後、各分画のDPP-4阻害活性を測定しています。その結果、牛乳に比べてラクダのミルクにDPP-4阻害活性の高く、インスリン分泌が促進されることが明かとなりました。

そして、最後に、ラクダのミルクの糖尿病改善効果の作用機序として、インドのMeenaらの研究グループが、抗酸化作用によるβ細胞の保護効果について検討し、2016年にJournal of Dairy Researchに投稿した論文を紹介します。論文タイトルは『Camel milk ameliorates hyperglycaemia and oxidative damage in type-1 diabetic experimental rats(ラクダのミルクは1型糖尿病試験ラットの血糖値と酸化ストレス損傷を改善する)』です。

通常のラット(コントロール)群、1型糖尿病ラット(コントロール)群とともに、ヤギのミルクを与えた1型糖尿病ラット(ヤギミルク摂取)群、ラクダのミルクを与えた1型糖尿病ラット(ラクダミルク摂取)群、牛のミルクを与えた1型糖尿病ラット(牛乳摂取)群、バッファローのミルクを与えた1型糖尿病ラット(バッファローミルク摂取)群に分け、各種ミルクを4週間摂取による脂質(TC、HDL-C、TG、VLDL-C、LDL-C)プロファイル、血漿インスリン、HbA1cの変化を調べたましたところ、血漿インスリン値はラクダミルク摂取群のみ通常ラットコントロール群に近い値を示し、他のミルク摂取によるインスリン値の上昇は観られていません。また、HbA1c値もラクダミルク摂取群のみ低下することが判りました。

図4. 各種ミルク摂取による1型糖尿病ラットの血漿インスリン変化
図4. 各種ミルク摂取による1型糖尿病ラットの血漿インスリン変化
図5. 各種ミルク摂取による1型糖尿病ラットのHbA1c変化
図5. 各種ミルク摂取による1型糖尿病ラットのHbA1c変化

さらに、この研究では各種ミルクの抗酸化作用を膵臓、腎臓、肝臓、血液中のカタラーゼ活性、グルタチオンオキシダーゼ(GPx)活性、SOD活性、TBARS、PCsのそれぞれの量変化を検討しており、ラクダのミルクがいずれの抗酸化活性の値も最も高く、β細胞保護効果の最も高いことが確認されています。その傾向は何れも似通っています。そこで、インスリンは膵臓ランゲルハンス島内の膵β細胞から血中グルコース濃度依存的に分泌されますので、ここでは、腎臓におけるGPx活性とSOD活性の変化のみ記載させていただきます。

図6. 各種ミルク摂取による膵臓のGPx活性の変化
図6. 各種ミルク摂取による膵臓のGPx活性の変化
図7. 各種ミルク摂取による膵臓のSOD活性の変化
図7. 各種ミルク摂取による膵臓のSOD活性の変化

このように、ラクダミルクの抗酸化作用による膵β細胞の保護効果でインスリン分泌が促進され、その結果、糖尿病が改善されたものと考えられます。