ヒトケミカルで競走馬のパフォーマンスは向上する!(続き)|株式会社シクロケムバイオ
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2020.2.7 掲載

ヒトケミカルで競走馬のパフォーマンスは向上する!(続き)

前回に引き続き、『ヒトケミカルで競走馬のパフォーマンスは向上する!』というタイトルで馬にヒトケミカルを摂取させた際の影響を調べた論文を紹介します。今回も前回の二つ目の論文のαリポ酸の効果です。前回は、αリポ酸によってクエン酸シンターゼ(クエン酸合成酵素、CS)活性が増加し、競走馬のパフォーマンスが向上するというものでした。

この論文ではそのタイトル『αリポ酸サプリメント摂取は運動したスタンダードブレッド種(トロッター)のヒートショックプロテインの産生を高め、運動後の乳酸濃度を低下させる(日本語訳)』にあるようにCS活性だけではなくヒートショックプロテイン(HSP)産生に対する影響もみています。

参考:α-Lipoic acid supplementation enhances heat shock protein production and decreases post exercise lactic acid concentrations in exercised standardbred trotters, S. Kinnunen, S, Hyyppa, N. Oksala, D. E. Laaksonen, M.-L. Hannila, C.K. Sen, M, Atalay, Research in Veterinary Science, 87, 462-467 (2009)

その前に、恒例により、そのキーワードであるヒートショックプロテイン(HSP)について説明しておきます。

ヒートショックプロテイン(HSP)とは、細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に生産量が上昇して細胞を保護するタンパク質の一群で『分子シャペロン』として機能します。“シャペロン”とは、折りたたまれていない(変性状態の)タンパク質に結合し、それが適切に折りたたまれた状態(天然状態)になるのを助けるタンパク質の総称です。

通常、タンパク質がきちんと働くには「正しい立体構造」を保つことが重要なのですが、紫外線や激しい運動、物理的刺激などの様々なストレスによって、タンパク質はその立体構造が崩壊し、うまく働けなくなってしまいます。その際、ヒートショックプロテイン(HSP)はタンパク質を元の構造に戻す働きを担っています。また、どうしても戻せない場合は、他のタンパク質の邪魔をしないように、壊れたタンパク質を壊す手助けも行います。このような働きは、「自己回復力」などと表現されることもあります。

図1. ヒートショックプロテイン(HSP)によるタンパク質の修復
図1. ヒートショックプロテイン(HSP)によるタンパク質の修復

では、検討方法と結果です。5~13歳で体重が400~508kgの6頭のトロッターに5週間のコントロール期間としてαリポ酸を与えない期間を設けた後、糖蜜に混ぜたαリポ酸を25 mg/kg/日 、5週間連続してウマに摂取させています。 中殿筋の組織のサンプルでヒートショックプロテイン(HSP)のHSP70とHSP90レベルをウエスタンブロットにて測定しました。その結果、αリポ酸の摂取は中臀筋における安静時のHSP90レベルと回復期(運動24時間後)のHSP70レベルを増加させました。

図2. 運動とαリポ酸摂取がウマ中殿筋のHSP70とHSP90レベルに及ぼす影響
図2. 運動とαリポ酸摂取がウマ中殿筋のHSP70とHSP90レベルに及ぼす影響

このようにヒトケミカルのαリポ酸はヒートショックプロテイン(HSP)の産生を促し、激しい運動によるストレスでダメージを受けたタンパク質を再生させることで細胞を守り、健康を維持することが分かりました。

ところで、HSPの発現を抑える発がんや老化を進めるPAKと呼ばれる特殊なキナーゼがあります。

このキナーゼの働きを遮断するとHSPは発現することになります。人のがんの70%はこのPAKに依存していて、がんの増殖にPAKが必須であり、その一方、正常な細胞の増殖には必須でないことが明かとなっています。このPAKは老化にも関係していて、PAKを遮断すると線虫やマウスなどの小動物の寿命を延ばすことも判っていますが、その健康長寿にこのHSPの発現が関与しているわけです。

HSP誘導剤にテプレノンという胃潰瘍の治療に有効な物質がありますが、興味深いことに、胃潰瘍はがんや認知症と同じくPAKに依存した病気です。そこで、HSPを産生する能力はPAKを遮断する能力でもあり、テプレノンは健康長寿に有効な物質だといえます。

HSP誘導剤⇔PAK遮断剤

テプレノンは医薬成分ですが、健康補助食品などを含めて天然物の中からPAK遮断効果を持つ物質を探索したところニュージーランド産プロポリスにその効果のあることが確かめられ、その有効成分はコーヒー酸フェネチル(CAPE)であることが明かとなりました。つまり、CAPEが多く含まれているニュージーランド産プロポリスは抗がん作用や痛風、高尿酸血症の予防改善効果だけでなく、認知症を予防して健康長寿に大変有効な機能性食品といえるのです。