現在、最も注目されている脳・心血管治療薬のPCSK9阻害薬について|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
今、注目していること
2020.5.19 掲載

現在、最も注目されている脳・心血管治療薬のPCSK9阻害薬について

なぜ今、PCSK9阻害薬が注目されているのか、そして、小型LDLコレステロールとPCSK2との関係について説明させていただきます。

脂質低減効果のある薬剤の中でも平成28年4月に日本で発売された高コレステロール治療薬エボロクマブ(PCSK9阻害薬)は、LDLコレステロールを60%も減少させるという強力な脂質低下作用を示すという2017年の報告があり、大変注目されているのです。

動脈硬化性の心血管疾患を持ち、スタチンを投与してもLDLコレステロール値が70mg/dlの患者27,564名を対象にして、エボロクマブを投与したところ、48週間後、エボロクマブ投与群はプラセボ群と比較して、LDLコレステロール値は59%低下、中央値90mg/dlから30mg/dlに低下し(P < 0.001)、3年後の脳血管疾患、冠動脈疾患の発症頻度は53%も低下する、つまり、心筋梗塞の発症を半分にするという非常に優れたPCSK9阻害薬の効果が示された報告があります。(N. Engl. J. Med. 2017 mar 17. Doi: 10.1056/NEJMoa1615664)

図1. エボロクマブ(PCSK9阻害薬)投与によるLDLコレステロールの低減
図1. エボロクマブ(PCSK9阻害薬)投与によるLDLコレステロールの低減

この報告は小型LDLコレステロールではなくLDLコレステロール値で評価しているのですが、PCSK9の血中濃度はLDLコレステロールの相関はあるものの、(図2)の単回帰分析の傾きを見ていただければ明らかなように小型LDLコレステロールとの方が強く相関していることが野末らの2016年の報告で明らかとなっています。(Nozue T. et al: Lipids Health Dis. 2016 Sep 22; 15(1):165)つまり、PCSK9濃度が高いと、小型LDLコレステロールを減少させるLDL受容体が減りやすく、その結果、小型LDLコレステロールは増えるわけです。

図2. PCSK9と小型LDLコレステロールの強い相関
図2. PCSK9と小型LDLコレステロールの強い相関

もう一度、ここでも、PCSK9の働きについて復習しておきます。PCSK9はプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型の略で肝臓のLDL受容体を減らして血中のLDLコレステロール濃度を高めるというもので、PCSK9を阻害する(減らす)とLDLコレステロールの血中濃度を下げることができます。

PCSK9は肝細胞の表面に発現したLDL受容体と結合後、複合体を形成し、LDL受容体の分解を促進することでLDL受容体数を減少させ、LDL受容体数の減少により血中LDLコレステロール濃度を上昇させます。したがって、PCSK9が減少すれば、血中LDLコレステロールも低減することになります。

図3. PCSK9によるLDL受容体の分解
図3. PCSK9によるLDL受容体の分解