植物色素アントシアニンについて(3)食用顔料素材としてのアントシアニン|株式会社シクロケムバイオ
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2020.09.24 掲載

植物色素アントシアニンについて(3)食用顔料素材としてのアントシアニン

今回は食品の着色料の素材としてのアントシアニンの利用について紹介します。

食品の着色料とは、食品を製造、加工する際に色を付ける目的で使用するもので人工的に合成した着色料と天然の着色料があります。着色料は食品の見栄えをよくするために水に不溶性で分散できる顔料タイプであることが好ましいのです。

そこで、まず、現在使われている着色料を理解していただくために簡単に染料と顔料の違いを説明しておきます。染料は水溶性の色素の水溶液であり、紙に塗ると紙に染みて色が見えます。一方、顔料は水に不溶性の粒子ですので、紙には染み込まず、粒子が紙に乗っかった状態で色が見えます。顔料を使うと見栄えのよい絵や文字を描け、それを維持できる理由はここにあります。

図1. 顔料は染料に比べて水に強い
図1. 顔料は染料に比べて水に強い

紙の絵や文字だけではなく、食品そのものの色を長期に渡って維持することは難しいので、見栄え良く色を調節して、その色を維持するために着色料を加工食品の製造に利用しています。ただ、食肉や魚介類、野菜類には、鮮度の見分けがつきにくく、消費者が判断しにくいために着色料の使用は禁止されています。

人工的に作られたタール色素系の着色料は発色が良くて退色もしにくいので日本では菓子類、飲料、アイスクリームに利用されています。しかしながら、例えば、赤色の着色料である赤色2号アルミニウムレーキは多量摂取による発がん性が指摘され、アメリカでは使用が禁止されています。日本ではいまでも使用されています。また、青色の着色料である青色1号アルミニウムレーキもEUでは動物試験によって発がん性が確認され、EUにおいては使用が禁止されています。この着色料も日本では今でも使用されています。

このようなアルミニウムレーキの製造法は水酸化アルミニウムにタール色素を吸着させてレーキ顔料としています。よって、水や有機溶媒にはほとんど溶けず、鮮やかなくっきりとした色を出してくれています。しかし、前述のような安全性の理由から、今では、このアルミニウムレーキと同様に鮮やかな色を出しながら健康に危害を与えない安全な天然の食用顔料の開発が進められているのです。

図2. 着色料の4つのカテゴリー
図2. 着色料の4つのカテゴリー

そこで、赤色、青色、紫色の食用顔料の開発に関しては健康増進効果も期待できる天然色素であるアントシアニンが注目されました。しかしながら、アントシアニンは水溶性成分ですので水に不溶性の顔料への利用は困難でした。そのような中、私が南ドイツで知り合ったクリスチアンがCEOを務める会社のCAPOL社は、植物プロテインを用いたミクロカプセル化技術を用いてアントシアニンを含有する食用顔料の開発を進めたのでした。その結果、さまざまな植物プロテインの中から不溶性の米由来のプロテインを用いることで、水中で不溶性であり、分散性が高く、明るい鮮やかな色彩を持つ赤色、青色、紫色の食用顔料の製品化に成功したのでした。

クリスチアンの故郷近くのノイッシュバーンシュタイン城
クリスチアンの故郷近くのノイッシュバーンシュタイン城

なぜ、米プロテインを選択したのでしょうか?それは、米を主食とする国では摂取される全タンパク質の71%を米から摂っていて、米タンパクは水に不溶で、低アレルギー性のタンパク質、バランスの優れたアミノ酸プロファイル、母乳に近い消化率、グルテンフリーであること、そして、アントシアニンの赤色、青色、紫色を邪魔しないニュートラルなカラーであることからなのです。

私の故郷近くの稲田の風景
私の故郷近くの稲田の風景