ミトコンドリアとヒトケミカル(5) 細胞の死をコントロールする|株式会社シクロケムバイオ
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ミトコンドリアとヒトケミカル(5) 細胞の死をコントロールする

ヒトの生体を構成している60兆個の細胞には細胞内にある小器官の一つであるミトコンドリアが数百から数千個存在していること、そして、そのミトコンドリアでエネルギーが生産され、ヒトはそのエネルギーを使って生命活動を行っていることは既にこのシリーズの冒頭で述べました。

そのエネルギー産生の際にミトコンドリア内で過剰に発生する活性酸素はミトコンドリアから細胞内に漏れ出し、DNAやタンパク質を損傷し、細胞のがん化や老化を促進させます。筑波大学の研究グループは2012年にミトコンドリアより活性酸素が過剰発生するマウスを用いてミトコンドリアからの活性酸素はガンの発症だけではなく、糖尿病も発症することを突き止めています。このようにミトコンドリアで発生する活性酸素とさまざまな病気の因果関係が次々に明らかとなっています。

そこで、ミトコンドリア内でエネルギー産生のために補酵素として働くヒトケミカルであるR-αリポ酸コエンザイムQ10は抗酸化物質としても活性酸素をミトコンドリアから漏れ出す前に毒性のない水分子に変換してくれる大変重要な役割を担っています。(コラム参照

しかし、加齢に伴い、機能性の低下したミトコンドリアからの活性酸素の排出量は増加していくと同時に、ミトコンドリアから発生する活性酸素を除去してくれるヒトケミカルの体内生産量も減少することで、相乗的に細胞内の活性酸素量は増加していき、老化は進んでいくのです。そういった理由から、加齢とともに増加する細胞内活性酸素を減らすためには、さまざまな植物から得られる機能性成分であるファイトケミカルの摂取も大事ですが、コエンザイムQ10やR-αリポ酸といったヒトの体内で作られている抗酸化物質のヒトケミカルの摂取が如何に大事であるかということが分かっていただけると思います。

では、ここから、今回のテーマです・・・・・ミトコンドリアとヒトケミカルは細胞を『生かす』ために存在していますが、その一方、細胞を『殺す』ことも、つまり、【死】もコントロールしているのです。

ヒトケミカルは活性酸素によって損傷したDNAを修復する役目も担っていますが、加齢に伴いヒトケミカルと活性酸素の割合が逆転し、DNAの損傷が修復しきれなくなると、がん細胞になる可能性もあります。つぎに、ミトコンドリアは、細胞として不活性化し機能しなくなり、ガン化した細胞に対して『殺せ!』という指令を出す役割も担っているのです。具体的にはミトコンドリアは以下のように働きます。

DNA損傷が修復しきれなくなった細胞内に存在しているミトコンドリアは、ミトコンドリア自身の表面に穴を空け、『宿主の細胞を殺せ!』という指令のためにシトクロムCというタンパク質を放出します。そうすると、“殺し屋”であるカスパーゼというタンパク質が活性化し、活動を開始し、細胞を構成しているさまざまな働きを担うタンパク質を次々に分解していくのです。さらにカスパーゼの動きを察すると、DNAを分解するタンパク質も活性化し、DNAも切断されていきます。DNAの切断は細胞の死(アポトーシスと言います。)を意味します。そして、細胞はばらばらにちぎれて細かく小袋となり、マクロファージといった免疫細胞に食べられ、タンパク質から分解されたアミノ酸やペプチド、DNAから分解された核酸は体内の他の構成要素として再利用されることになります。

図1. ミトコンドリアからの細胞死(アポトーシス)の指令
図1. ミトコンドリアからの細胞死(アポトーシス)の指令

以上をまとめますと、ミトコンドリアから発生した活性酸素はヒトケミカルによって消去されますが、消去しきれなかった活性酸素は細胞を構成しているDNAやタンパク質を損傷していきます。加齢によって体内のヒトケミカルが減少し、損傷したDNAが多くなると、ミトコンドリアは修復しきれなかった損傷DNAを持つ機能性を失った細胞やがん細胞にたいして『殺せ!』という指令を出して細胞を殺すことによって、つまり、細胞死(アポトーシス)によって、がん細胞などが広がって、個体(ヒト)全体が死んでしまうのを防いでいるのです。ミトコンドリアとヒトケミカルはがんなどさまざまな病気からも身を守ってくれています。

コラム:R-αリポ酸とコエンザイムQ10の相乗的な抗酸化によるDNA損傷減少作用

R-αリポ酸とコエンザイムQ10は抗酸化物質として利用されて抗酸化機能を失ったビタミンCやビタミンEの再生にも関与して体内にある活性酸素の消去に働いています。

図2. 生体内抗酸化物質ネットワーク
図2. 生体内抗酸化物質ネットワーク

DNAが活性酸素によって損傷を受けるとデオキシグアノシン部位が酸化されて8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)に変化しますが、DNAが修復されると、この8-OHdGが切り取られて尿から排出されますので、尿中のこの8-OHdGの濃度を調べれば、そのヒトがどの程度、活性酸素に侵されてガンを発症する可能性があるか分かります。

図3. 酸化ストレスマーカー8-OHdG
図3. 酸化ストレスマーカー8-OHdG

コエンザイムQ10とR-αリポ酸を同時に毎日摂取していれば、相乗的な抗酸化作用により尿中8-OHdG濃度が下がり、ガンの発症予防になることがシクロケムグループの研究によって明らかとなっています。

図4. 酸化ストレスマーカー(8-OHdG)の推移
図4. 酸化ストレスマーカー(8-OHdG)の推移