ミトコンドリアとヒトケミカル(6) 生命誕生と長寿における男女差|株式会社シクロケムバイオ
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ミトコンドリアとヒトケミカル(6) 生命誕生と長寿における男女差

核DNAは父親と母親から1セットずつ譲り受けますが、ミトコンドリアDNAは母親からしか譲り受けません。ミトコンドリアの1000セット以上もあるDNAはすべて母親由来です。父親の精子にあるミトコンドリアは卵子にすべて食べられてしまうからなのです。

精子はオタマジャクシのような形で頭の部分に核を持ちその後ろに渦巻き状のミトコンドリアを持っています。精子と卵子が出会って、いわゆる「受精」が行われた瞬間に、精子の核とミトコンドリアは卵子の中に入り込み、そして、精子の核と卵子の核が融合して新しい生命が誕生します。

卵子は、侵入してきた精子のミトコンドリアを認識し、卵子のミトコンドリアはそのままに精子のミトコンドリアのみを選択して分解していきます。その理由は詳細まで判っていませんが、マウスの実験では、雄のミトコンドリアDNAは雌にくらべ4倍も酸化されていて、卵子に入り込んだ時にはすでにDNAは酸化を受けて変質した状態であるため、そのままでは卵子の質や機能低下を招く可能性があり、オートファジー分解システムによって除去されると考えられています。

その機構(オートファジー)は、まず精子のミトコンドリアは隔離膜に取り囲まれ、完全に包まれると球形(オートファゴゾーム)になります。そこに、細胞の掃除屋と呼ばれるリソソームが近付き、融合します。つぎに、リソソームの中にあったタンパク分解酵素が精子のミトコンドリアを分解していきます。そして、バラバラにされた部品は細胞内の成分の材料として再利用されます。尚、このオートファジーは精子のミトコンドリアの分解だけではなく、様々な細胞の中の古くなったミトコンドリア分解にも使われています。このオートファジーはマイトファジーと呼ばれています。

図1. 卵子内における父性ミトコンドリアのオートファジープロセス
図1. 卵子内における父性ミトコンドリアのオートファジープロセス

女性のみからミトコンドリアDNAを子孫に残す点でも、女性が男性よりも強いことがうかがえます。これは、人間に限ったことではなく、動物も同じです。

では次に、なぜ世界中のどの国でも女性の平均寿命は男性より長いのかという疑問にお答えします。

これもマウスの実験ですが、活性酸素を消去するミトコンドリアの中にあるMn-SOD(SODを消去する酵素)とグルタチオンぺルオキシダーゼ(過酸化水素を消去する酵素)はそれぞれ雌の方が2倍活性は高く、還元型グルタチオンも雌が2倍多いのです。この酵素活性や体内抗酸化物質の差が平均寿命に影響しているようです。

では、なぜ、女性の酵素活性が高いのでしょうか?

鍵は女性ホルモンのエストロゲンにあります。エストロゲンは核に入ってNFκBという酵素をつくっています。NFκBは遺伝子に働きかけこれらの消去酵素を多めにつくる命令を出すのです。このエストロゲンによって男性よりも女性の方が活性酸素の除去作用がしっかりとしており、長生きできるわけです。ただ、三大ヒトケミカル(R-αリポ酸、L-カルニチン、CoQ10)の体内生産量が減少し始める20歳からヒトケミカルが減少することによってエストロゲンの分泌量も減少していきます。そこで、エストロゲン分泌量を維持するためには三大ヒトケミカルの日頃からの摂取が必要です。

図2. 20歳からのエストロゲン体内生産量の減少
図2. 20歳からのエストロゲン体内生産量の減少

そして、三大ヒトケミカルはエストロゲン分泌量を維持するだけではなく、ストレスから私たちの身を守る働きを持つ抗ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールという物質の分泌量を維持するためにも必要なのです。コルチゾールはエストロゲンやテストステロン(男性ホルモン)と同様にコレステロールから作られるホルモンであり、炎症反応を抑制することからステロイド系抗炎症薬の一つとして臨床で使用されています。

長期間ストレスに晒されたり、疲労が蓄積したりすると、ストレス疲労に対する防御のためのするためのコルチゾールを分泌している副腎はオーバーワークの状態になり、必要量を確保できなくなります。そうすると、極度の疲労感や強いめまいなどの症状が現れ、仕事中に突然倒れることもあります。腎臓の上に乗っかっている副腎は様々なストレスが原因となって疲労していくのです。

図3. 副腎疲労の原因となる様々なストレス
図3. 副腎疲労の原因となる様々なストレス

ストレスに対抗するために副腎でコルチゾールを大量に生産するとテストステロンやエストロゲン生産量が減少し、男女ともに性欲が減退していきます。特に女性の場合には、30代、40代でも更年期のような不定愁訴(イライラ、うつうつ、ほてり、冷えなど)が現れます。

副腎のオーバーワークによりコルチゾールを産生する能力が低下すると、やる気や集中力が低下し、さらにストレスを感じやすくなる悪循環が始まります。

そうすると副腎疲労の状態となります。突発的に倒れる、起き上がることができなくなる、強いめまいが起こる、うつ病のような状態になるなど、社会生活が困難な状態にもなります。本来、コルチゾールは起床時に最も多く作られますが、分泌が低下するために朝起きられず、やる気のスイッチも入らなくなってしまいます。

そのような副腎が溜め込んでしまった疲労を回復させるためには、私たちの体を動かすためのエネルギー(ATP)を作るクエン酸回路と電子伝達系から成るATP生産工場を動かす必要があります。このATP生産は60兆個の細胞の中に存在するミトコンドリアで行われています。日常の食事から摂っている糖質、脂質、たんぱく質が原料となりミトコンドリア内のクエン酸回路に取り込まれ、最終的にエネルギーに変換されていますが、ストレス疲労、そして、副腎疲労を回復させるためには、効率よくこのエネルギー生産を強力に推し進めることが不可欠であり、20歳から体内生産量の減少するヒトケミカルのコエンザイムQ10とR-αリポ酸を積極的に補う必要があるのです。