R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(1)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.8.1 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(1)

これまでに何度もこのようなタイトルで現在市販されているαリポ酸ラセミ体(R体とS体が50%ずつ)の毒性問題を訴え続けてきました。生体内で働いているαリポ酸はR-αリポ酸(天然型)であってS-αリポ酸(非天然型)ではないので、現在、市販されているαリポ酸サプリメントは今すぐに廃棄してください……と。

なぜなら、糖尿病患者、糖尿病予備軍、脂質異常症患者だけでなく、肥満の方々も、ダイエットなどの目的でこのαリポ酸サプリメントを摂取すると健康に危害を与え、死に至る危険性があるという論文もあるからです。そこで、今回はその肥満ラットを用いた研究論文を紹介します。尚、この論文はArizona大学、Eberhard-Karls大学、そして、ドイツのASTA Medica社の共同研究で1997年に報告されたものです。

『肥満(インスリン抵抗性)ラット骨格筋のグルコース代謝におけるS-αリポ酸の問題』

Differential effects of lipoic acid stereoisomers on glucose metabolism in insulin-resistant skeletal muscle
R. S. Streeper et. al., the American Physiological Society 1997

インスリン抵抗性のある肥満ラットへの単回投与の検討において、100mg/kg b.w.のR-αリポ酸、もしくは、S-αリポ酸を腹腔内投与したところ、R-αリポ酸投与群ではインスリン抵抗性が軽減され、骨格筋での2-デオキシグルコース量は有意に増加しました。一方、S-αリポ酸にその効果は認められませんでした。

図1. 骨格筋での2-デオキシグルコースの取り込み
図1. 骨格筋での2-デオキシグルコースの取り込み

30mg/kg b.w.のR-αリポ酸、もしくは、50mg/kg b.w.のS-αリポ酸を10日間連続投与して体重、骨格筋重量、血漿中のグルコース量、インスリン、遊離脂肪酸濃度を調べたところ、R-αリポ酸を投与することでインスリン濃度を有意に低下させましたが、S-αリポ酸の投与は逆にインスリン濃度を投与していない肥満ラットよりもさらに有意に上昇させました。また、R-αリポ酸投与群は遊離脂肪酸量も有意に低下しました

図2. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与による血漿中インスリン濃度の変化
図2. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与による血漿中インスリン濃度の変化

また、インスリン刺激によるグリコーゲンへのグルコースの取り込み量もR-αリポ酸投与によって有意に改善されました

図3. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるグリコーゲンへのグルコース取り込み量の変化
図3. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるグリコーゲンへのグルコース取り込み量の変化

さらに、インスリン刺激によるグルコース酸化もR-αリポ酸投与によって有意に改善されました。これらのことはR-αリポ酸によってインスリン抵抗性が改善されることを意味しています。一方、S-αリポ酸にはそのような効果は示されませんでした

図4. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるグルコース酸化の変化
図4. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるグルコース酸化の変化

グルコース取り込みに必要なGLUT4量は健常ラットと肥満ラットにおいて大きな差がないにもかかわらず、S-αリポ酸を投与するとGLUT4は有意に減少しました。S-αリポ酸によるGLUT4量の減少は肥満ラットに大きく悪影響を及ぼすことは明らかです。なぜなら、R-αリポ酸はGLUT4の膜移行を促進(糖尿病を改善)するが、S-αリポ酸は膜移行を阻害する(糖尿病を悪化させる)ことが知られており、膜移行を阻害すると同時にGLUT4の量も減少することはグルコースが取り込まれなくなることを意味するからです

図5. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるGLUT4タンパクレベルの変化
図5. R-αリポ酸とS-αリポ酸投与によるGLUT4タンパクレベルの変化

以上のように、肥満や糖尿病患者はS-αリポ酸を50%含むαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことはこの論文からも明らかです。