R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(12)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.12.10 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(12)

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、R-αリポ酸による肝細胞の保護作用に関する論文の紹介です。

ヒトの体は外部からの紫外線や活性酸素で影響を受けると同時に、生体内では、特にミトコンドリアにおいてエネルギーを作る際に発生する活性酸素の影響を受けています。活性酸素によって細胞内のDNAやタンパク質は損傷を受け、細胞は機能を失います。しかし、ヒトはその活性酸素による損傷から身を守るために生体内にさまざまな種類の抗酸化物質や抗酸化酵素を持っています。

その抗酸化物質の中でも最も重要な物質の一つにR-αリポ酸があります。サプリメントとしては天然のαリポ酸であるR体と非天然のS体が50:50で混ざったラセミ体が販売されていますが、抗酸化作用にはS-αリポ酸ではなくR-αリポ酸が有効であることを示した論文内容です。この論文では活性酸素のモデル物質としてtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)を用い、肝細胞が活性酸素に影響を受ける際のR-αリポ酸の抗酸化作用についての生体外(ビトロ)試験と生体内(ビボ)試験による結果を示しています。

この論文のタイトルは、(R)-α-Lipoic Acid Reverses the Age-Associated Increase in Susceptibility of Hepatocytes to tert-Butylhydroperoxide both In Vitro and In Vivo(R-αリポ酸はIn VitroおよびIn Vivoにおいてtert-ブチルヒドロペルオキシドに対する加齢に伴う肝細胞の感受性の増加を逆転させる)であり、HARGENらが2000年に Antioxidants and Redox Signaling, 2, 473-483(2000)に投稿したものです。

まず、生体外(ビトロ)試験の検討内容と結果を紹介します。

若齢ラット(3~5ヶ月)、および、老齢ラット(24~28ヶ月)から肝細胞を単離し、さまざまな濃度のtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)と共にインキュベートしました。そして、2時間で50%の細胞を死滅させた時のTBHP濃度(LC50といいます)は、若齢ラットの細胞では、 721±32μMであったのに対して、老齢ラットの細胞では、391±31μMと約2分の1の濃度に低下しています。若齢ラットと比較して老齢ラットの総細胞数、および、細胞内の抗酸化物質のグルタチオン(GSH)が、それぞれ37.7%、および、58.3%と低いことから、その肝細胞が死滅しやすい理由は、加齢に伴う抗酸化物質GSHレベルの低下によるものと考えられます。そこで、次に示すように加齢や過酸化物による肝細胞生存率の低下に対するR-αリポ酸の効果を実証しています。

老齢ラットの細胞にTBHPを300μM添加する前に、R-αリポ酸、または、S-αリポ酸100μMで30分間インキュベートしました。その結果、ミトコンドリアの補酵素であり生理学的機能に関係するR-αリポ酸は、S体とは対照的にTBHPの毒性に対して肝細胞を有意に保護することが判りました。

図1. R-αリポ酸による肝細胞生存率の向上
図1. R-αリポ酸による肝細胞生存率の向上

また、生体内(ビボ)試験でも同様の結果が得られています。

老齢ラットにR-αリポ酸 [0.5% (wt/wt)] を含む飼料を2週間に渡って食べさせると、加齢に伴う肝細胞内のGSHレベルの低下を抑え、加齢に伴って増加するTBHPによる死滅細胞数は減少し、TBHPに対する耐性が増強することが明らかとなっています。その一方で、若齢ラットでは同一の飼料を摂取させても、TBHPに対する耐性は増強しませんでした。この結果は、若齢ラットの場合は抗酸化物質が充分に保護されていることを示しています。

したがって、この研究は、老齢動物由来の細胞は酸化ストレスに対して感受性が高い(弱く死滅しやすい)のですが、R-αリポ酸によって、たとえ老齢であっても細胞は酸化ストレスに対して強くなることが判りました。考察として、非天然のS体は還元されにくいのですが、天然のR体は効果的にジヒドロリポ酸に還元されるため、毒性に対して防御できるとしています。

このように、R-αリポ酸は活性酸素によって弱められた肝機能に対する保護効果のあることが明らかとなっています。