R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(13)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.12.14 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(13)

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、R-αリポ酸の生体内抗酸化物質ネットワークにおける役割について示す論文を紹介します。

αリポ酸は生体内抗酸化物質ネットワークの中で重要な役割を果たす抗酸化物質の一つであり、NADHによって還元体となります。

図1. 生体内抗酸化物質ネットワーク
図1. 生体内抗酸化物質ネットワーク

ところが、一般にサプリメントにはαリポ酸は天然型のR体と非天然型のS体が50%ずつのラセミ体が使用されていますが、図2に示しますαリポ酸の還元経路によって還元体になるのはそのほとんどがR体であることが、ここで取り上げる学術論文によって明らかとなっています。

図2. αリポ酸の細胞内における還元経路
図2. αリポ酸の細胞内における還元経路

この論文タイトルはCYTOSOLIC AND MITOCONDIAL SYSTEMS FOR NADH- AND NADPH-DEPENDENT REDUCTION OF α-LIPOIC ACID(αリポ酸のNADHとNADPHに依存的な還元に対する細胞質およびミトコンドリアシステム)であり、Free Radical Biology & Medicine Vol. 22, No. 3, pp 535-542 (1997) に報告された論文です。

この論文を理解するために、まず、NADHについて説明しておきます。

NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、nicotinamide adenine dinucleotide)とは、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる電子伝達体であります。さまざまな脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型(NAD+)および還元型(NADH)の2つの状態を取り得えます。

NAD+は生物のおもな酸化還元反応の多くにおいて必須成分(補酵素)であり、好気呼吸(酸化的リン酸化)の中心的な役割を担っています。解糖系およびクエン酸回路より糖あるいは脂肪酸の酸化によって還元物質NADHが得られます。

この論文では細胞の細胞質内とミトコンドリア内の酸化還元反応やNADHとNADPHに依存的な酸化還元について検討していますが、図2に示していますように、αリポ酸の還元の主要経路はミトコンドリアにおけるR-αリポ酸の還元ですので、シンプルに分かりやすくするため、ミトコンドリア内のNADHによる還元についてのみ、抜粋して紹介することとします。

結論から述べますと、ミトコンドリアにおいてR-αリポ酸はジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼの高い酵素活性を示し、その還元速度はR体の方がS体より6~8倍はるかに速いことが判りました。

ラットの心臓のミトコンドリアマトリックスを用いた実験で、基質としてαリポ酸のラセミ体、R体、S体(10mM)を用い、100μMのNADHを反応の補基質として使用しました。さらに、グルタチオンは酸化型ジスルフィドの500mMのGSSG(グルタチオンジスルフィド;酸化型)を基質として用いました。その結果、R体の還元はS体よりも顕著に速いことが確認されています。

図3. ミトコンドリアマトリックス画分によるαリポ酸の還元
図3. ミトコンドリアマトリックス画分によるαリポ酸の還元

次に、単離されたラットの心臓を、Langendorff法を用いて2mMのR-αリポ酸、またはS-αリポ酸を含有する重炭酸緩衝液で灌流し、冠動脈流出液中のジヒドロリポ酸濃度を測定しています。

その結果、R-αリポ酸を含有する灌流液の場合、ジヒドロリポ酸が冠状流出液に現れ、80-130 nmol/mg/minのレベルで維持されることがわかりました。一方で、S-αリポ酸を灌流に使用した場合には、ジヒドロリポ酸の最大濃度はR-αリポ酸塩よりも6~8倍低いことがわかりました。心臓ではミトコンドリア含量が高く、NADH依存的に還元されるため、S-αリポ酸ではなく、R-αリポ酸が有効であることが確認されました。

図4. ラット心臓によるαリポ酸の還元
図4. ラット心臓によるαリポ酸の還元

生体内では抗酸化物質のネットワークは活性酸素から身を守るために大変重要なのですが、中でも、αリポ酸はグルタチオン、コエンザイムQ10、ビタミンC、ビタミンEなどさまざまな生体内で必要な抗酸化物質の再利用を可能とする物質として働きます。この論文の紹介によって、その役割を果たしているのは、S-αリポ酸ではなく、R-αリポ酸であることがご理解いただけたと思います。