キウイフルーツプロテアーゼによる口腔ケア・口臭予防|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
今、注目していること

キウイフルーツプロテアーゼによる口腔ケア・口臭予防

キウイフルーツに関しては以前にも2度取り上げています。ご参照下さい。
フルーツの王様と呼ばれるキウイフルーツとは
難消化性αオリゴ糖を用いるフレッシュパウダーの候補(2)キウイフルーツ

「蜂蜜の王様であるマヌカハニー」と「フルーツの王様のキウイフルーツ」は不思議に何れもニュージーランド産の健康維持と増進のための食品ですが、そのキウイフルーツの特徴的な栄養成分は、ビタミンA前駆体(β-カロテン)、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、カリウム、食物繊維のペクチン、ヘミセルロースのアラビキシラン、そして、タンパク分解酵素のアクチニジンなどです。前回、注目した成分と効能は食物繊維のペクチンやアラビキシランによる腸内環境改善に関するものでした。

そこで、今回はもう一つのキウイフルーツの特徴成分であるタンパク分解酵素(プロテアーゼ)のアクチニジンに注目し、その舌苔除去による口臭予防に関する2019年に発表された論文を紹介します。

その前に、なぜキウイフルーツプロテアーゼのアクチニジンが舌苔の除去、舌苔に棲む口腔細菌の除菌、そして、不快臭防止に有効なのか、その解説のために口臭と舌苔(ぜったい)の話をしておきます。

口臭は主に口腔中の揮発性硫黄化合物(VSC)によって引き起こされます。VSCには硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドが含まれると報告されています (Tonzetich, 1971)。

舌苔は舌背部に形成される一種のバイオフィルムです。上皮細胞の破片、血球、食べカスといったタンパク質と、それを代謝する口腔細菌によって構成された白色や黄色の苔のような汚れです。この舌苔で口腔細菌がバイオフィルムという細菌の住まいを作って増殖し、含硫アミノ酸を多く含むタンパク質を分解することによって不快な口臭が発生しています(Nakano et al., 2002)。

図1. 舌苔からの不快臭発生のメカニズム
図1. 舌苔からの不快臭発生のメカニズム

歯周病に関連する口腔細菌は大量のVSCを産生することが知られています(Nakano, et al., 2002; Shibuya, 2001)。

また、歯周病患者におけるVSCの約60%は舌表面に由来するとの報告もあります(Yaegaki & Sanada, 1992)。

そこで、今回紹介する論文は『舌苔中の口腔細菌に対するキウイフルーツ粉末含有タブレットの効果:クロスオーバー試験(Effectiveness of an oral care tablet containing kiwifruit powder in reducing oral bacteria in tongue coating: A crossover trial)』というタイトルで2019年の徳島大学の研究グループの報告です。(Matsumuraら、Clin Exp Dent Res. 2019;1–10.)

舌ブラシを使用した舌苔の機械的除去法については過去に報告があります(Slote et al., 2015; Yaegaki et al., 2002)。しかしながら、舌苔に対する化学的除去法に関する報告はほとんどありませんでした。そこで、Yoshimatsuらは、キウイフルーツのプロテアーゼ(アクチニジン)を含む口腔ケアタブレットが舌苔の化学的な除去とVSCの抑制に有効であることを見出しています(Yoshimatsu, et al., 2006; Nohno, et al., 2012, Yoshimatsu et al., 2007)。これは、舌苔の主成分はタンパク質であるため、プロテアーゼにより効果的に除去できたと考えられます。

図2. キウイフルーツプロテアーゼによる舌苔の除去とVSCの抑制効果
図2. キウイフルーツプロテアーゼによる舌苔の除去とVSCの抑制効果

そのような理由から、今回の論文の目的は舌苔の口腔細菌とVSC濃度に対するキウイフルーツ粉末含有タブレットと舌ブラシを比較しています。

被験者は徳島大学の健常な学生32名(男性5名、女性27名、21.5±2.1歳)です。それぞれ3つの介入方法は以下に示しています。

Intervention I: 舌ブラシを用いて舌背の奥から手前に10回こすり、10mLの水ですすいだ。これを繰返して全3回行う。1時間後に測定。

Intervention II: キウイタブレットを舌背の上に置き自然に溶解させ、これを繰返して全3回行う。1時間後に測定。

Intervention III: キウイタブレットを毎食後に1粒(1日3粒)摂る。崩壊時間は1粒あたり5.4±1.5分。1日後に測定。

それぞれの介入した結果を表に示しましたが、舌ブラシよりもキウイタブレットの方が舌苔の除去と口臭の除去において有効な結果となっています。

表 舌ブラシとキウイタブレット介入試験の効果の比較
表 舌ブラシとキウイタブレット介入試験の効果の比較
舌苔の評価:Winkel tongue-coating index(WTCI)

デジタルカメラで撮影後、舌背を6分割し、それぞれの舌苔の付着状況を3段階(0:付着なし、1:薄く付着、2:厚く付着)で評価し、その合計がWTCIスコアとなる。

Intervention I(舌ブラシ)の場合には舌苔の減少のみで、口臭の抑制効果や細菌の増殖抑制には効果が観られませんでしたが、Intervention II(キウイタブレットを舌背の上で溶解させて1時間後に測定)は全測定項目において顕著に舌苔の減少とともにVSCが抑制、つまり、口臭が抑制されることが分かりました。また、Intervention III(キウイで翌日測定)の場合はメチルメルカプタンに顕著な差が観られなく、一晩で舌苔が蓄積されたものと推察されています。

このようにタンパク分解酵素であるアクチニジンを含有するキウイフルーツ粉末タブレットには舌苔の除去と口臭予防効果のあることが分かりました。