脳機能改善のための栄養素について(2)n-3多価不飽和脂肪酸の有効性|株式会社シクロケムバイオ
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2014.1.16 掲載

脳機能改善のための栄養素について(2)n-3多価不飽和脂肪酸の有効性

前回、認知症にはアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の2つのタイプがあること、そして、双方のタイプの認知症の予防・改善のために、n-3多価不飽和脂肪酸(n-3 Poly Unsaturated Fatty Acid, 以下、n-3 PUFA)の摂取が有効であることについて触れました。ここでは、n-3 PUFAの更なる有用性について、幾つかの学術論文を、より判りやすく、噛み砕いて紹介していきます。

n-3 PUFAは、海洋プランクトンによって生産される物質ですので、海で獲れる魚介類が最も重要な供給源となっています。このn-3 PUFA摂取による血漿トリグリセリド値の低下や心臓リズムの安定化など循環器系疾患に対する予防・治癒効果は既によく知られていますが、残念ながら、日常の食事では、n-6 PUFAを過剰摂取しているものの、n-3 PUFAは不足しがちなようです。

そこで、n-3 PUFAの効能について語る前に、少し、リノール酸やアラキドン酸などのn-6 PUFAについて最近判ったことを紹介しておきます。古代では、n-6 PUFAは、①餓死に備えて脂下に貯えることができる、②止血に関するホルモンの原料となる、③急激な炎症を起こして寄生虫が重要臓器に入り込まないようにする、④ホルモンの原料となる、といった理由で有用とされていました。しかし、現代の生活様式においては、次の三点が、問題視されています。その三点とは、①肥満を招く、②血栓や動脈硬化の原因となる、③家ダニや花粉を寄生虫と間違えて炎症を起こすことからアレルギーやアトピーの原因となっている、ということです。

よって、「第6次改定日本人の栄養所要量」において、PUFAはn-6系:n-3系=4:1とされているものの、最近はn-3 PUFAの有用性が示されている為、2:1が推奨されています。

次に、n-3 PUFAの有用性について、実は高齢者の認知症予防や治癒効果だけではなかったことを示す注目すべき臨床報告例を紹介します。

アトピー性皮膚炎の改善
渡辺俊之・香川県立小児科部長は、アトピー性皮膚炎の難治例に対して、DHA、EPAを含有した軟膏を使用し、顕著な改善を報告した。

神経疾患への効果・抗ストレス作用
富山医科薬科大学、浜崎教授は、「DHAで学級崩壊やキレの問題に迫れるか?・・・十代の若者と食事」と題した興味深い研究報告を行なっている。以下は、その報告の概要。

小学生や中学生が突然キレて、暴力事件を起こすことがたびたび報道されているが、キレの主な要因として日常摂取する油の質的、量的な変化がある。リノール酸の過剰摂取は体内でDHAの利用を妨げ、動物やヒトの行動に影響を及ぼす。6~12歳の子供で、かんしゃく持ちや睡眠障害など問題がある場合、血中のDHAおよびその関連脂肪酸(n-3 PUFA)が健児に比べ低下しているとの海外の報告がある。浜崎氏は大学生41人に3ヶ月間、DHAか植物油のカプセルを摂取し、その服用期間の前後でPFスタディをして、攻撃性、敵意性の変化をみている。結果明らかなDHAによる抗ストレス作用が確認された。

図1. DHA摂取による敵意性の変化
図1. DHA摂取による敵意性の変化

高齢者の視力改善
農水省食品総合研究所は被験者15人にDHAを540mg含有するカプセルを1日に6粒3ヶ月投与した結果、11人に0.2以上の改善が認められたと報告をしている。

妊娠・授乳期の女性へのn-3 PUFA摂取の必要性
授乳期のヒトの母乳に含まれる成分を調べたところ、アラキドン酸は時間が経ってもあまり量的に変化しないのに対し、DHAの量は8週、16週と日が経つにつれ徐々に減少していった。DHAとアラキドン酸はともに人間に重要な物質であることは知られており、授乳期の母親が魚食を心がけ、乳児用粉ミルクに配合することは有効であるとの報告がある。また、米国の研究グループはDHA高含有卵の研究結果を報告では、妊娠中の女性を①一個当り135mgのDHAを含有する「DHA高含有卵」を1週間に10個前後食べるグループ、②普通の卵を食べるグループ、③卵を食べないグループの3グループに分け、3ヶ月後の様子をみたところ、グループ①は、血中のDHA量が高まっていたほか出産後の胎盤が大きく、さらに妊娠中に起こる糖尿病に似た血糖値の上昇の発生率も明らかに少なく、自然分娩も多かった、と報告している。

DHA不足によるアルツハイマー型認知症の危険性
(米国人研究者、カイル博士らの研究グループの報告)アルツハイマー型認知症患者を含む高齢者1200人(平均75歳)の血中DHA量の測定結果から、血中の低DHAレベルはアルツハイマー型認知症の危険因子であるとの結果が出た。(米国研究者、コナー博士らの研究グループの報告) 5,6年前から高齢者85人について研究。そのうち28人がこれまでに認知症になり死亡。これら28人の血液検査結果から認知症と死亡は血漿中のn-6 PUFAレベルがn-3 PUFAレベルよりも高い場合に多かったと報告している。

以上のように、n-3 PUFA摂取の有用性は、高齢者に限ったものではなく、日常摂取する脂肪酸の質的、量的に問題のある子供、妊婦、中高年に至るまで示されています。QOLの向上のためにもn-3 PUFAの積極的な摂取に努めましょう。

コラム①

n-3 PUFAは、空気中の酸素で酸化を受けやすい物質です。株式会社シクロケムでは、γ-シクロデキストリン(γ-CD)によるn-3 PUFAの安定化に成功しています。(図2)に示すように2分子のγ-CDでn-3 PUFAのトリグルセリドは完全に包まれ、空気中の酸素から守られることが分かっています。さらに、最近ではn-3 PUFAと抗酸化物質の双方をγ-CDで包接するとさらに空気酸化に対する安定性が高まることも確認されています。
研究成果:第51回 シクロデキストリンと抗酸化物質を併用したω3系脂肪酸の安定性改善

図2. n-3 PUFAトリグリセリドのγ-CD2分子包接による空気酸化に対する安定化
図2. n-3 PUFAトリグリセリドのγ-CD2分子包接による空気酸化に対する安定化

コラム②

アトピー性皮膚炎に対する治癒そして予防効果はδ-トコトリエノールやα-シクロデキストリン(α-CD)にもあります。これらの成分をn-3 PUFAとともに摂取することをお勧めします。尚、δ-トコトリエノールの効能に関しては、以下のURLを、ご参照ください。
スーパービタミンEによるアレルギー症状の低減効果について

そして、α-CDに関しては、以下のURLを、ご参照ください。
研究成果:第50回 α-シクロデキストリンの抗アレルギー作用

尚、α-CDは、食事中の過剰な脂肪酸を排泄する作用がありますが、体にとって摂取すべきでない飽和脂肪酸を排泄するだけで、n-3 PUFAの体内吸収に影響を与えないことが分かっています。以下のURLをご参照ください。
研究成果:第5回 α-シクロデキストリンによる飽和脂肪酸の選択的排泄