パーソナル化サプリメントのトッピング機能性成分(17)睡眠の質の向上のために|株式会社シクロケムバイオ
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2023.2.20 掲載

パーソナル化サプリメントのトッピング機能性成分(17)睡眠の質の向上のために

このシリーズではパーソナル化サプリメント(PS)における各個人の目的のためのトッピング機能性成分の科学的根拠を説明していきます。今回は睡眠の質の向上のためのトッピング成分であるグリシン、セサミン包接体、クロセチン包接体、5-ALA、そして、キウイフルーツαオリゴパウダー(KAP)を紹介します。尚、キウイフルーツを除くこれらの成分はいずれも『睡眠の質の向上』を表示できる機能性表示関与成分でもあります。

図1. 睡眠の質向上のためのトッピング成分
図1. 睡眠の質向上のためのトッピング成分

睡眠は、近年、世界的に重要視されてきている中、日本は睡眠時間の短い国の一つとなっており、日本人の4人に1人は睡眠障害に悩まされているとの報告もあり、日本において特に深刻な問題となっています。睡眠の質の向上作用の知られている上記のPSのトッピング成分はすべてその作用のメカニズムが異なっており組み合わせて摂取することで睡眠障害を克服できる可能性が期待できます。

まず、グリシンの睡眠の質の向上作用について説明します。グリシンは機能性表示関与成分としてこの作用で受理された最初の成分でもあります。グリシンを摂取すると、グリシンは血液を介して脳内に移行します。脳内に移行したグリシンは1日の睡眠・覚醒のリズムを司る視交叉上核(しこうさじょうかく)のNMDA受容体に作用し、NMDA受容体の活性を高めます。その結果、深部体温を低下させ、深い睡眠を誘導し、睡眠の質が改善されます。そして、グリシン摂取の翌日は日中の眠気や疲労感が軽減されて、作業効率も改善されることが報告されています。

深部体温は、体内時計によるコントロールを受け、概日リズムを刻んでいて、睡眠にも深く関わっています。通常の睡眠においては入眠すると1℃ 程度、低下し、 睡眠中はその体温を維持し、起床に向かって徐々に上昇することが分かっています。

図2. 人の体温変化と眠気のリズム
図2. 人の体温変化と眠気のリズム

ラットにグリシン2g/kgを経口投与すると、コントロール群と比較して顕著に深部体温が低下することが確認されています。深部体温の低下の原因を検討するため、ラット足底の血流量を測定したところ、グリシンの経口投与によって、体表面の血流量が上昇することが分かりました。したがって、経口投与されたグリシンは体表面の血流量を上昇させて、深部体温を低下させる効果を有することが明らかとなったのです

図3. グリシン摂取による血流量の増加と深部体温の低下
図3. グリシン摂取による血流量の増加と深部体温の低下

また、経口投与したグリシンは脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)に到達することも明らかとなっています。

図4. 経口投与後のグリシンの脳脊髄液中濃度変化
図4. 経口投与後のグリシンの脳脊髄液中濃度変化

したがって、経口投与したグリシンは脳の視交叉上核にあるNMDA受容体に結合し、表面の血流量を上昇させることで、深部体温を低下させて、睡眠の質を改善したものと考えられます。

また、グリシンの睡眠への効果を検証するために、ラットに深部体温測定用のプローブと脳波、筋電測定用の電極を留置し、回復したラットにグリシンを経口投与、睡眠の記録を行っています。その結果、軽度のストレスを負荷した状態において、グリシン経口投与によりノンレム睡眠量の増加、目覚めている時間の減少が観察されています。このように、睡眠を妨害した(ストレスのある)状態においてグリシンは睡眠を改善することが示唆されました。

図5. グリシンによる目覚めている時間と睡眠時間の変化
図5. グリシンによる目覚めている時間と睡眠時間の変化

次に、クロセチンの睡眠の質向上のメカニズムの説明です。

クロセチンやクロセチン配糖体(クロシン)のマウスへの投与によりノンレム睡眠が増加し、覚醒時間が減少することが報告されています。
(Kuratsune et al., Phytomedicine, 17, 840-843 (2010))

通常の野生型マウスにクロシンを経口投与すると自発的な運動量の減少、すなわち、睡眠量の増加が確認されています。しかしながら、ヒスタミンH1受容体欠損のマウスに経口投与した場合には、運動量の減少は観られませんでした。

図6. クロシンによるマウスの自発的運動量の変化
図6. クロシンによるマウスの自発的運動量の変化

尚、クロシンは経口摂取した際、腸管吸収において糖が外れ、体内ではクロセチンの状態で存在することが知られていますので、クロシンの経口摂取もクロセチンによる作用と同じと考えて差し支えありません。

これらの結果は、クロセチンがヒスタミンによる覚醒系の調節に関与しており、中途覚醒回数、つまり、クロセチン摂取で睡眠の途中で目覚める回数が減少し、深い眠りが誘導されます。そして、睡眠の持続性が高まった結果、起床時の眠気や疲労感が和らいだものと考えられます。

次に、セサミンの睡眠の質向上のメカニズムの説明です。

酸化ストレスは、睡眠状態と関連していることが知られています。不眠症患者は酸化ストレスが高く、体内の抗酸化酵素の活性が低いとの報告があります。

メラトニンは脳内の松果体において生合成されるホルモンであり、睡眠・覚醒リズムの調節に関与しています。その量は概日リズムを呈し、夜間、特に入眠時に高くなることが知られており、メラトニン量の維持は睡眠機能にとって重要です。しかしながら、メラトニンは体内で活性酸素によって代謝分解されることが知られています。したがって、抗酸化力を向上させ酸化ストレスを軽減すると、生体内のメラトニン濃度の低下を抑え、その結果、寝つきを改善し、眠りの深さや寝覚めを良好にすることで睡眠状態を改善すると考えられています。

セサミンには、酸化反応によるメラトニンの分解を抑制する作用のあることが報告されています。すなわち、セサミンは抗酸化作用によって、メラトニンを保護し、寝つき、眠りの深さ、寝覚めという体調を良好に保つと考えられます。
(Takemoto et al., Glob J Health Sci., 7(6), 1-10 (2015))

図7. 酸化ストレス負荷によるメラトニンの減少抑制
図7. 酸化ストレス負荷によるメラトニンの減少抑制

5-ALAによる睡眠の質向上のメカニズムの説明ですが、5-ALAは精神疾患予防のためのトッピングでも紹介されております。5-ALA摂取によるセロトニンの増加が抗ストレス作用、精神疾患予防効果、そして、睡眠の質を向上させる作用機序ですので、この『今、注目していること』の『パーソナル化サプリメントのトッピング機能性成分(15)精神疾患の予防のために』をご確認ください。

メラトニンは生体内でセロトニンから生産され、1日の睡眠-覚醒を調節するホルモンとして知られています。光の当たる日中はメラトニンの産生は抑制されており、暗くなるとメラトニン合成酵素の産生が高まり、メラトニン産生量が増えることで、生体は入眠に備えます。このような睡眠覚醒の周期的な変動は概日リズムと呼ばれており、一般的には体内時計のリズムとして広く知られています。

精神疾患の予防のために』で紹介した論文で5-ALAによって脳内セロトニン量が増加することが報告されていますが、その結果、深い眠りが得られ、睡眠の質が改善されたと考えられます。

図8. 夜光に晒されストレスを受けたラットへの5-ALA投与によるトリプトファンとセロトニンの増加
図8. 夜光に晒されストレスを受けたラットへの5-ALA投与によるトリプトファンとセロトニンの増加

また、体内時計のリズムを保つことは、健康的で良質な睡眠やすっきり快適な目覚めに繋がるとして、厚生労働省の指針として周知されています。適度な運動がよりよい睡眠に繋がることは広く認知されていますが、これは日中の運動が夕刻のメラトニン産生量を高めることが一因であると思われます。

5-ALA摂取により運動量の増加も報告されており、メラトニン産生による体内時計リズムが調節され、睡眠の質が向上したと考えられます。

最後に、セロトニンと抗酸化物質を含むキウイフルーツによる睡眠障害の改善に関する台北医科大学の研究報告を紹介します。
Effect of kiwifruit consumption on sleep quality in adults with sleep problems

睡眠障害を抱えた20歳から55歳までの被験者24名(男性2名、女性22名)を対象に4週間、毎晩就寝1時間前にキウイフルーツ2つを摂取しました。試験デザインを図9に示します。

図9. キウイフルーツによる睡眠障害の改善に関する試験デザイン
図9. キウイフルーツによる睡眠障害の改善に関する試験デザイン

睡眠日誌、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)スコア、アクチグラフィー時計によって、睡眠開始後の覚醒時間、起床時間、総睡眠時間、介入前後の睡眠効率などの睡眠の質を主観的に、そして、客観的にパラメーター評価しています。尚、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)は、1ヶ月間の時間間隔で睡眠の質を評価する自己報告型のアンケートです。また、アクチグラフィーとは無拘束で非利き腕や足首に時計型加速度センサーをつけることで、自動的に人間の活動/休止リズムサイクルを記録し、査定する方法です。

表1. 4週間の食事介入期間後の数値変化(N=24)
パラメーター ベースライン 介入後 p値
睡眠日誌より
入眠後の起きている時間(分) 18.9 ± 4.31 12.8 ± 3.49 0.002*
入眠までに要した時間(分) 34.3 ± 3.86 20.4 ± 3.53 < 0.001*
睡眠時間(分) 354.5 ± 17.1 395.3 ± 17.4 0.007*
睡眠効率(%) 86.9 ± 1.94 91.2 ± 1.53 0.001*
PSQIスコア 10.4 ± 0.69 6.00 ± 0.45 < 0.001*
アクチグラフィー時計より
入眠後の起きている時間(分) 22.2±4.98 16.8±3.41 0.119
入眠までに要した時間(分) 16.7 ± 2.80 10.1 ± 1.77 0.089
睡眠時間(分) 361.8±14.9 416.6±16.2 < 0.001*
睡眠効率(%) 93.9 ± 1.03 95.9 ± 0.67 0.005*

*有意差判定:Wilcoxon signed rank test p < 0.05

4週間のキウイフルーツ摂取後、PSQIスコアは42.4%、入眠後の覚醒時間は28.9%、入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間)は35.4%と顕著に減少し、睡眠時間は13.4%、睡眠効率は4.41%と大幅に増加しています。

これまでにも、多くの研究によって、キウイフルーツには多くの健康増進のための成分が含まれていることは報告されていますが、その中でも、抗酸化物質とセロトニンが睡眠障害の治療に有益である可能性があるとされていましたが、この研究報告でそれらが正しいことを証明しています。尚、PSのゴールデンプレミアムベースには、キウイフルーツをαオリゴ糖でパウダー化したKAPを配合しています。

以上、睡眠の質の向上のためのPSのトッピング成分として、グリシン、クロセチン、セサミン、5-ALA、そして、キウイフルーツの効果を説明しました。この中で、クロセチンとセサミンはγオリゴ糖で包接化させて生体利用能を向上させ、キウイフルーツはαオリゴ糖で粉末安定化させたトッピング成分となっています。

また、就寝時の入眠に必要なメラトニンは朝食時に摂取したタンパク質に含まれるトリプトファンが、脳内でセロトニンに変換され、朝食から15時間後、メラトニンに変換されます。そこで、朝食にタンパク質を摂取することも睡眠の質向上には有効なのです。