小型LDLコレステロールについて(5)医薬品による小型LDLの減少|株式会社シクロケムバイオ
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2019.10.21 掲載

小型LDLコレステロールについて(5)医薬品による小型LDLの減少

このシリーズでは、小型LDLコレステロールとは、いったいどのようなものか、そのリスクマーカーとしての鋭敏さはこれまでの研究からどこまで分かっているのか、小型LDLコレステロールが多いとどれほど危険なのか、小型LDLコレステロールが多いために冠動脈疾患(CHD)を患った際の医薬品による対処法にはどのようなものがあるか、そして、小型LDLコレステロールが多いことが健康診断で判明した際の未病患者に対する機能性食品による対処方法にはどのようなものがあるかなどについて、医師や薬剤師等の専門家に向けてではなく一般の方々に分かりやすく概説しています。(1)では小型LDLコレステロールとはどのようなものかについて説明しました。(2)では小型LDLコレステロールはどのようにして作られているかについて説明しました。(3)では、真の悪玉コレステロールはLDLではなく、小型LDLコレステロールであることを示すため、小型LDLコレステロールのCHD発症に及ぼす影響を説明しました。(4)では、小型LDLコレステロールはCHDのリスクマーカーだけではなく、糖尿病のリスクマーカーでもあることを示す論文、そして、小型LDLコレステロールとメタボリックシンドロームの関係を示す論文について紹介しました。今回から、小型LDLはどのようにすれば下げることが出来るのか、その方法はどこまで分かっているのか、について紹介していきます。まずは、小型LDLコレステロールが原因で既に血管疾患になっている患者に対する小型LDLを下げる治療薬についての紹介です。

脂質異常症の患者に対する治療薬として、フィブラートとスタチンが知られていますが、その作用機序は異なります。フィブラートは核内受容体(PPARα)を活性化して、脂質代謝を改善します。すなわち、血液中のトリグリセリドやコレステロールを低下させ、HDLコレステロールは増加させます。一方、スタチンはHMG-CoA還元酵素阻害薬としてコレステロールの生合成を阻害して、コレステロールを低下させる治療薬です。どちらの治療薬も小型LDLを減少させる効果が示されています。

Tokunoらの報告(J Atherososeler Thromb 14 (3) 128. 2007)によりますと、スタチン系薬剤としてピタバスタチンを低用量の1mg/日投与で12週間後、LDLコレステロール、小型LDLコレステロール、そして、大型LDLコレステロールもすべて20%低下することを明らかとしています。一方、フィブラート系薬剤のフェノフィブラートは投与量100mg/日でTGを40%低下させることがわかりました。TGの減少により、小型LDLコレステロールは低下するのですが、大型LDLコレステロールは増加して、全体のLDLコレステロールは増えています。このように、フェノフィブラートも小型LDLコレステロールが低下しているので治療効果は期待できます。

図1. 脂質異常症治療薬で小型LDLは低下
図1. 脂質異常症治療薬で小型LDLは低下

スタチン系薬剤の効果としては強力なスタチンほど小型LDLコレステロールを低下させることがSakumaらの報告(Progress in Medicine 2004)で明らかとなっています。アトルバスタチン(リピトール)を10mg/日摂取した場合とプラバスタチン(メバロチン)を10mg/日摂取した場合の小型LDLのそれぞれの変化について比較していますが、強力なスタチンであるリピトールの方がスタンダードのスタチンであるメバロチンに比べて大きく小型LDLを減少させることが分かりました。

図2. 強力なスタチンほど小型LDLは大きく低下
図2. 強力なスタチンほど小型LDLは大きく低下

糖尿病の治療薬の中にも小型LDLを低下させる作用のある治療薬があります。SGLT2阻害薬です。SGLT2阻害薬は血液中の過剰な糖を尿中に積極的に排出させて血糖値を下げる治療薬です。2015年にZinmanらはヨーロッパ糖尿病学会で糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬投与がEMPA-REG OUTCOME試験において心筋梗塞などの心血管疾患の死亡率を低下させることを発表し、NEJM誌に報告しています。(Zinman et al.,N Engl J Med. 373(22) 2117 (2015))エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)を2年間投与したところ、プラセボ群に比べて、心血管死発現率は38%有意(P < 0.001)に低下することがあきらかとなりました。

図3. SGLT2阻害薬による心血管死亡率の低下
図3. SGLT2阻害薬による心血管死亡率の低下

ここで、大変興味深いことは、この試験においてエンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)の投与により、LDLコレステロールの上昇が観られることです。しかしながら、この上昇によって動脈硬化が増えることはないことも確認されました。このことは『LDLコレステロールは悪玉のコレステロール』というこれまでの常識を覆すこととなります。

図4. SGLT2阻害薬によるLDL値の上昇
図4. SGLT2阻害薬によるLDL値の上昇

実際に、林らの研究報告(Hayashi T, et al: Cardiovasc Diabetol 2017)では、心疾患治療効果が認められたSGLT2阻害薬を投与した20名の小型LDLコレステロールは20%減少していますが、大型LDLコレステロールは53%増加しており、全LDLコレステロールは14%増加していることを確かめています。つまり、LDLコレステロールは悪玉コレステロールではなく、真の悪玉コレステロールは小型LDLコレステロールであったことが、SGLT2阻害薬投与の研究によって明らかとなっているのです。

図5. SGLT2阻害剤の投与でのLDL変化
図5. SGLT2阻害剤の投与でのLDL変化