小型LDLコレステロールについて(6)αオリゴ糖と亜麻仁油の小型LDLの減少|株式会社シクロケムバイオ
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2019.11.13 掲載

小型LDLコレステロールについて(6)αオリゴ糖と亜麻仁油の小型LDLの減少

このシリーズでは、小型LDLコレステロールとは、いったいどのようなものか、そのリスクマーカーとしての鋭敏さはこれまでの研究からどこまで分かっているのか、小型LDLコレステロールが多いとどれほど危険なのか、小型LDLコレステロールが多いために冠動脈疾患(CHD)を患った際の医薬品による対処法にはどのようなものがあるか、そして、小型LDLコレステロールが多いことが健康診断で判明した際の未病患者に対する機能性食品による対処方法にはどのようなものがあるかなどについて、医師や薬剤師等の専門家に向けてではなく一般の方々に分かりやすく概説しています。(1)では小型LDLコレステロールとはどのようなものかについて説明しました。(2)では小型LDLコレステロールはどのようにして作られているかについて説明しました。(3)では、真の悪玉コレステロールはLDLではなく、小型LDLコレステロールであることを示すため、小型LDLコレステロールのCHD発症に及ぼす影響を説明しました。(4)では、小型LDLコレステロールはCHDのリスクマーカーだけではなく、糖尿病のリスクマーカーでもあることを示す論文、そして、小型LDLコレステロールとメタボリックシンドロームの関係を示す論文について説明しました。(5)では、小型LDLコレステロールはどのようにすれば下げることが出来るのか、その方法はどこまで分かっているのか、小型LDLコレステロールが原因で既に血管疾患になっている患者に対する小型LDLコレステロールを下げる治療薬について紹介しました。そこで、今回は、このシリーズの最終章として、小型LDLコレステロールが多いことが健康診断で判明した際の未病患者に対する機能性食品による対処方法について紹介します。

小型LDLコレステロールが増加する原因は中性脂肪(TG)の増加とインスリン抵抗性であることが判明していますので、まず、一つ目の機能性食品素材としては、そのどちらの原因にも対応できる物質である難消化性αオリゴ糖が挙げられます。そこで、難消化性αオリゴ糖の小型LDLコレステロール低減作用については、以下の記事をご参照ください。
難消化性αオリゴ糖のちから(4)悪玉LDL減少による動脈硬化予防

二つ目に注目したい機能性成分は中性脂肪低減効果のあるω3不飽和脂肪酸です。ω3不飽和脂肪酸と言えば魚油のEPA・DHAを思い浮かべる方は多いはずですが、実は、植物油である亜麻仁油やエゴマ油にもα-リノレン酸というω3不飽和脂肪酸が60%という高濃度で含まれているのです。

図1. 各植物油の脂肪酸含有率
図1. 各植物油の脂肪酸含有率

亜麻仁油かエゴマ油を毎日スプーン1杯だけ摂取すれば、中性脂肪は顕著に低減することがわかっています。そこで、当然、中性脂肪低減による小型LDLコレステロールに低減効果が期待できることが最近の研究で明らかとなっています。亜麻仁油を毎日摂取したところ、4週間後には、初期値から小型LDLコレステロールは25.8%減少し、12週間後も21.2%減少していました。その一方でプラセボとして摂取してもらったコーン油には、まったく小型LDLコレステロールの低減効果は観られていません。

図2. 亜麻仁油の小型LDL低減作用
図2. 亜麻仁油の小型LDL低減作用

このように植物油の中でもω3不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸を60%含有する亜麻仁油は中性脂肪を低減することで小型LDLコレステロールを低減出来ることが分かりました。しかしながら、亜麻仁油に含まれるω3不飽和脂肪酸は空気中の酸素によって酸化を受けやすい物質ですので、安定化の必要があります。そこで、私たちは3種の環状オリゴ糖を用いて亜麻仁油の包接体を作り、それらの酸化に対する安定性改善の検討をしました。尚、この検討にはランシマットという加熱下でさらに強制的に酸素を与えて酸化されやすい過酷な条件で安定性を検討できる機器を用いています。

図3. 酸化安定性を評価できるランシマット
図3. 酸化安定性を評価できるランシマット

その結果、(図4)のインダクション時間(Induction Time)は酸化されるまでに要する時間ですので、亜麻仁油のみであると酸化されやすい、α、β、γオリゴ糖の何れの環状オリゴ糖でも酸化安定性は高まりますが、大変興味深いことに、亜麻仁油と同様に小型LDLコレステロールの低減効果を有する難消化性のαオリゴ糖(α-CD)によって得られる包接体(FO-α-CD)が最も安定性が高くなることが分かりました。

図4. 亜麻仁油(FO)の環状オリゴ糖包接による安定性向上
図4. 亜麻仁油(FO)の環状オリゴ糖包接による安定性向上

次に、環状オリゴ糖で包接安定化した亜麻仁油のα-リノレン酸が腸管から効率よく吸収されるかどうかについてビトロ試験を検討しました。吸収率は溶解度と相関がありますので、食後人工腸液(FeSSIF)を用いて、未包接の亜麻仁油と各包接体に含まれるα-リノレン酸の溶解度を調べたところ、最も安定性の高いαオリゴ糖包接体(FO-α-CD)が最も溶解度も改善されること、つまり、腸管からのα-リノレン酸の吸収性もαオリゴ糖によって改善されると思われる結果が得られました。尚、使用した食後人工腸液は3mL中にタウロコール酸Na(30mM)、レシチン(7.5mM)、NaCl(346mM)、酢酸(288mM)、CaCl2(20mM)とともにトリグリセリドを分解するためにリパーゼ(脂肪分解酵素)の含まれるパンクレアチンを400unit/mLを加えています。亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸はトリグリセリドの形で存在していて、リパーゼで遊離脂肪酸に分解されないと吸収されなく、遊離脂肪酸となったα-リノレン酸の腸液内での溶解度を確認するためです。

図5. 亜麻仁油(FO)の環状オリゴ糖包接による人工腸液における安定性向上
図5. 亜麻仁油(FO)の環状オリゴ糖包接による人工腸液における安定性向上

このように難消化性αオリゴ糖と亜麻仁油には何れも血中小型LDLコレステロールの低下作用があり、組み合わせることによって亜麻仁油に含まれるω3不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸を酸化から守り、さらには、α-リノレン酸の吸収性を高めることが分かりました。