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今、シクロケムが注目していること
R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察

その9

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、糖尿病網膜症に対するR-αリポ酸の治癒効果です。

糖尿病網膜症は、眼に入る光を信号に変え、視覚にとって重要な役割を果たしている網膜に障害の出る病気です。失明や視覚障害を起こす病気であり、日本では緑内障に次いでその原因の第2位となっています。

血糖コントロールが不良な状態が続くと糖尿病網膜症を発症するのですが、糖尿病合併症の中でもこの発症率は高く、生活の質を著しく低下させ、場合によっては生命に危険をさらすなど、大きなダメージをもたらす病気です。特に、この病気による症状の一つである失明は深刻で、生活のすべてを変えてしまうことになります。

ここでは、J. Linらの研究グループの2006年の研究報告を紹介します。

Effect of R-(+)-α-lipoic acid on experimental diabetic retinophathy
(糖尿病性網膜症に対するR-αリポ酸の効果)
J. Lin et al., Diabetologia 49, 1089-1096 (2006)

高血糖によって引き起こされるミトコンドリア内の活性酸素の過剰発生は、糖尿病において内皮障害の原因となっています。R-αリポ酸はミトコンドリア内に分布する抗酸化物質ですので、糖尿病性網膜症に対するR-αリポ酸の効果を検証したものです。

健常なラット群(N)(5匹)と糖尿病モデルラット群(D)(8匹)、そして、糖尿病モデルラットにR-αリポ酸を60 mg/kg bwを投与した群(D+Dex)の3群に分け30週間飼育しています。

まず、周皮細胞と無細胞毛細血管の数を調べています。

R-αリポ酸を投与した糖尿病群(D+Dex)の周皮細胞数は健常群(N)とほぼ同様の数で、糖尿病群(D)より顕著に多いことが確認されました。(図1)尚、周皮細胞とは、毛細血管と小静脈において内皮細胞を囲むように存在する細胞で、血管形成や毛細血管の維持、血流の調節に関与していて、脳においては神経血管単位を成して血液脳関門の維持に働いている大変重要な細胞です。

図1. 周皮細胞数の変化

無細胞毛細血管の数については糖尿病群(D)の方が健常群(N)よりも顕著に上昇し、R-αリポ酸で処理することで、88%減少することが確認されました。

図2. 無細胞毛細血管数の変化

また、糖化タンパク(CML)、NF-κB活性、そして、アンジオポエチン-2の増減も確認しています。尚、CMLは酸化ストレスの指標であり、NF-κBは活性化するとインスリンシグナル伝達障害を引き起こすことが知られており、アンジオポエチン-2は脈管形成と血管新生を促進する糖タンパクとして知られております。そして、糖尿病を発症するといずれもその発現量は増加します。

R-αリポ酸を投与した糖尿病群(D+Dex)の糖化タンパク(CML)、NF-κB活性、そして、アンジオポエチン-2のいずれの発現量も糖尿病群(D)に比べて顕著に減少していることが確認されました。

図3. 糖化タンパク(CML)の発現量の変化

図4. NF-κBの発現量の変化

図5. アンジオポエチン-2の発現量の変化

このようにR-αリポ酸には、ミトコンドリアでの活性酸素の過剰産生によって生じる反応系の下流を正常化させることによって微小血管の損傷を防ぎ、内皮保護作用のあることが確認されました。

糖尿病網膜症の予防のためにもR-αリポ酸を日頃から摂取しましょう。

その10

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、R-αリポ酸によるミトコンドリア機能改善に関する論文です。三大ヒトケミカルの一つであるR-αリポ酸のミトコンドリアに対する影響について取り上げました。

ミトコンドリアはヒトの生命活動に不可欠であり、ひとたびミトコンドリアの機能が低下すると、様々な病気となって私たちの生命活動を妨げます。このミトコンドリア機能低下に伴い、細胞におけるエネルギー生産が困難になってあらわれる病気は「ミトコンドリア病」と呼ばれています。

ミトコンドリアとヒトケミカル(その7. ヒトケミカルはミトコンドリア病治療薬)

ミトコンドリア病は生体内におけるどの細胞でミトコンドリア機能が低下するかによって様々な症状としてあらわれます。たとえば、中枢神経細胞(わかりやすくいうと脳)の場合には記憶力や認知機能の低下といった症状があらわれ、骨格筋細胞であれば筋力低下や疲労しやすくなる症状があらわれます。そして、カラダの複数の部位で症状があらわれる場合と単一部位であらわれる場合がありますが、単一部位であらわれた場合はミトコンドリア病との診断は困難になります。ミトコンドリア病は、完治する治療法がいまだに見出されておらず、厚生労働省は難病に指定しています。

ミトコンドリア病の症状

R-αリポ酸のミトコンドリア機能改善作用に関して、今回紹介する論文のタイトルは『(R)-α-Lipoic acid-supplemented old rats have improved mitochondrial function, decreased oxidative damage, and increased metabolic rate(R-αリポ酸を摂取した老齢ラットはミトコンドリア機能が改善し、酸化損傷が減少し、そして代謝速度が増加した)』FASEB J. 13, 411-418 (1999)で、カリフォルニア大学のT. R. HAGEN らによる研究報告です。

ミトコンドリアにおいてエネルギー産生のための補酵素であるR-αリポ酸を添加した飼料を老齢ラットに与えて、加齢によって観られる代謝低下に対して、R-αリポ酸の効果を調べています。

若齢 (3~5ヶ月齢) および老齢 (24~26ヶ月齢) ラットに、R-αリポ酸 (0.5 %w/w) を含むor含まないAIN-93M飼料を2週間与え、解剖し、肝実質細胞を単離しました。

未処置の老齢ラットの肝細胞は、コントロールの若齢ラットに対して酸素消費量 (P < 0.03) は顕著に低くなっていましたが、R-αリポ酸を摂取することで、加齢に伴う酸素消費量の減少は若齢ラットと同等にまで回復しています。つまり、老齢ラットのエネルギー産生能力がR-αリポ酸によって若齢ラットの能力まで戻ったことを示しています。

表1. 肝細胞におけるR-αリポ酸による酸素消費量の変化

代謝活性の指標として歩行活性を検討しています。R-αリポ酸を摂取していない老齢ラットの歩行活性は、若齢ラットの歩行活性に対してほぼ3倍低下しましたが、R-αリポ酸を摂取した老齢ラットの歩行活性はR-αリポ酸を摂取していない老齢ラットよりも2倍向上しました。(P < 0.0005)

図1. 歩行活性の変化

また、肝細胞における生体内抗酸化物質であるグルタチオンやビタミンC(アスコルビン酸)の生体内量はともに加齢に伴い減少していきますが、R-αリポ酸の摂取によって顕著に回復することが明らかとなりました。

図2. 生体内還元型グルタチオン(GSH)の変化

図3. アスコルビン酸量の変化

したがって、この論文によってR-αリポ酸の摂取は、代謝活性の指標を改善するだけでなく、加齢に伴う酸化ストレスおよび損傷を低下させることができることが判りました。

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