株式会社シクロケム
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植物のニオイとシクロデキストリン(3)

大学発ベンチャー企業のフロントランナーとしても活躍

2000年4月に産業技術力強化法が成立し、「産学共同」が社会的に認知される3年前(1997年)にすでに、北海道で初めて大学発ベンチャー企業を起こしており、この分野のフロントランナーとしても活躍される西村先生。ベンチャーに取り組むことになったいきさつや、その事業内容、そしてトラブルなどについても話が及びました。
また、西村先生が副学長を務める東海大学では、学生発のベンチャー企業も設立されており、付属の幼稚園から「知的財産教育」を実践しているとのご紹介も。「研究に裏づけされた安心・安定を提供する製品を開発・販売し、社会に貢献する」というスタンスに共通点を見出し、研究や事業での今後の協力が大いに期待されるふたりでした。

研究の成果を社会に還元するために自ら社会貢献する道を歩むことに

寺尾:西村先生は大学発ベンチャー企業を3つ起こし、取締役なども務めているということですが、そのきっかけはどんなことだったのですか。

西村:もともとは研究一筋で、北大時代(‘69年~‘88年)は学会発表をガンガンしていましたし、英語論文も100本以上書きました。‘85年には、「植物フレーバーの化学ならびに生物活性に関する研究」で日本農芸化学会奨励賞をもらいました。そんな私が、ベンチャーに踏み出すことになった大きなきっかけは、‘88年に北海道東海大学に移り、工学部生物工学科教授に就任すると間もなく、新技術事業団(JST<科学技術振興事業団>の前身)による15~18億円規模の大型プロジェクトのグループリーダーを務めたことでした。これは私の恩師である北大の水谷教授も参画された、創造科学研究を手掛けるプロジェクトでした。
もちろん北大に在籍していたときも、何億円もの予算を掛けた研究に携わることがありました。こんなに国民の税金を使わせてもらって、では、その研究の成果はどうなっているのかと改めて振り返ってみると、たくさんの論文が図書館に埋もれたままになっている現実に気づき、愕然としました。本当にこれでいいのだろうかと自問自答し、熟慮の末に出した結論が、社会に還元しないのはおかしい、自ら社会貢献する道を歩もうということだったのです。

寺尾:そこから、大学発ベンチャー企業のフロントランナーとしてスタートが切られたのですね。

西村:2000年4月に産業技術力強化法が成立したことで、「産学共同」は社会的に認知されるようになります。私はそれより3年以上前から、ベンチャー企業を起こしていたわけで、最初の会社で取締役になったとき、文部省(現・文部科学省)の人から、「法律的には問題はまったくないのですが、取締役ではなく、“技術顧問”といった立場ではだめなのですか」と変更をもち掛けられたことがあったぐらいです(笑)。

寺尾:幸いなことに、私大だからできたということもありますよね。国公立の場合は、国家公務員法により、特定の企業に加担して一緒に仕事をするのは制限されているわけです。

西村:東海大学は知的財産に対する管理システムがきちんと構築されています。たとえば、特許による収益のうち45%が、発明者に分与されることになっています。ベンチャー企業に関することはすべて、大学側に上申していますし、役員手当てを含めて収支面については理事の承認を得ています。そして、万が一、経営が立ち行かなくなったときは、大学を辞職する覚悟を胸のうちにもっています。

寺尾:研究者が“産”を知っている意味は大きいと思います。私の場合は逆で、ビジネスに重心を置く一方で、10数年に渡って中央大学では工業有機化学の授業を担当しておりましたし、現在も東京農工大の客員教授を務めています。私の“産”の研究の進め方に興味を持ってくれて、共同研究してくれている大学の先生方も多くいらっしゃいます。

西村:12年前に道内で初めて大学発ベンチャー企業を立ち上げたわけですが、各種サプリメントを開発し、行者ニンニクと霊芝(れいし)とチコリを組み合わせたサプリメントもそのひとつでした。このときは、行者ニンニクのニオイを消すために、きわめて消臭効果の高い「コンフリー(※日本名は「ひれはり草」。ビタミンAやB2、カルシウムなどを含み、栄養価が高い)の葉」を加えました。
ところが、米国で、コンフリーの根っこにアルロカイドという毒性のある成分が含まれることが発見され、米国とカナダでは全面的に使用禁止になりました。私たちはコンフリーの葉を使用しており、ここにはアルロカイドのピロリジディンは検出されないくらい微量しか含まれていないのですが、厚生省(現・厚生労働省)から「何とか、自粛してくれないか」とストップが掛かり、結局、全製品を廃棄しました。
コンフリーに替わるものとして、次に選んだのはヤーコンの葉でした。ヤーコンは南米アンデス高地原産のキク科の根菜類で、栽培は北海道の涼しい気候に適しており、生理機能として、塊茎は整腸作用、茎葉部は動脈硬化予防や糖尿病予防などがあります。

寺尾:「コンフリーが駄目なら、ヤーコン」とすかさず、対応策を講じられるのは大学発ベンチャー企業の面目躍如ですね(笑)。

西村:2000年4月に設立した2つ目のベンチャー企業では、ハーブ(香草)の香りを利用して、眠気をスッキリさせたり、逆にぐっすり眠れるための製品も開発しました。眠気をスッキリさせるしくみは、衣服の襟の付け根に製品を貼り付けると、首に接する側からユーカリやホップなどの精油の香りが立ち、皮膚から神経系をたどって、交感神経を刺激するのです。それに対して、ぐっすり眠れる製品では、ラベンダーなどの精油の香りが副交換神経を刺激します。考えてみると、これらの精油はシクロデキストリンで包接すると、量的にも時間的にも、効力をもっとキメ細かくコントロールすることができるかも知れませんね。

寺尾:もちろん、可能だと思います。精油&シクロデキストリンの製品としては、私も過去に、“やる気を起こすタイプ”と“気を鎮めるタイプ”のスプレーを開発したことがあります。


東海大学では学生発ベンチャー企業を奨励 付属の幼稚園から「知的財産教育」の実践も

寺尾:東海大学の副学長としては、学生たちにどんな思いをおもちですか。

西村:大学で学ぶことの意味をしっかり自覚してほしいと思っています。社会に出て活躍できるように基礎学力を十分に身につけるとともに、世の中が求める人材像に応えられる人間力を磨いてほしいということです。

寺尾:東海大学は学生発ベンチャーを奨励していることでも知られますね。

西村:実際に、学生発のベンチャー企業が立ち上がっていますし、卒業後に取締役社長になって活躍しているケースも生まれています。何しろ、付属の幼稚園から「知的財産教育」を実践しています。モノづくりの楽しさを教えながら、豊かな発想法や創造性を育てていくことを目指すものです。
東海大の理学研究科教授であり教育開発研究所所長である数学者の秋山仁先生は付属の小学校で、遊びながら知的好奇心を促す授業を行ない、マスコミなどに取り上げられて話題にもなりました。高校生ぐらいになると、創造性と経済性のつながりを、“知的財産”というカタチで明確に理解できるようになります。そして、大学では特許や商標登録、意匠登録なども含めて、より具体的に、より本格的に学んでいきます。

寺尾:そうした教育によって、社会に対して前向きな姿勢が培われるでしょうね。

西村:ところで、東海大学は理系からスタートした学校でもあり、昨今の理科離れについてはたいへん憂慮しています。モノのとらえ方や考え方が、「文系指向の人は約80%」・「理系指向の人は約20%」と、理科離れを如実に示すデータもあります。もちろん、行政機関もただ手をこまねいているだけでなく、対策として、「理科好きの子どもを増やす」「理系の女子学生を増やす」「理系の女性の先生を増やす」といった目標を挙げています。

寺尾:理科好きな子どもを増やすには、中学校ぐらいから、興味を喚起する授業をする必要があるのではないでしょうか。

西村:中学生ではもう遅くて、小学3年生ぐらいから始める必要があります。手足を使ってモノをつくったり、実験したり、感動を呼び起こすカリキュラムが何といっても大切だと思います。NPOでこうした取り組みを始めようとしているところがあって、小学生を対象に、大学の設備を利用して実験などが楽しめる試みが考えられています。顕微鏡ひとつにしても、大学には本格的な機種が揃っているわけで、子どもたちを大いに刺激して、ひいては理科の面白さに目覚めてもらえるに違いありません。

寺尾:小学生のときに、大学の研究室で実験などができれば、こんなエキサイティングなことはないわけで、「将来は研究者になりたい」と思う子どもも現われるかも知れません。

西村:私は終戦の半年前に横浜で生まれ、豊かな自然に恵まれた環境のなかで育ちました。幼少の頃はまだ食糧難の時代で始終、お腹が空いていたため、野山に行っては木の実やハチの子などを探しては食べ、自然に大いに親しみました(笑)。セミを取ったり、トンボを捕まえたり…、虫類も大好きでした。
小学生になると、野山の自然や生きものをみて、「なぜだろう」と考えるうちに、理科の授業も好きになっていきました。そして、中学2年生のときに出会った、授業がとても楽しい理科の先生の影響で、“僕も将来は、研究者になりたいな”と意識するようになったのです。私の父親は、“予備校”を開いていたので、数学などは、中学3年生のときには高校1年生の教科書を勉強していました。丸暗記が苦手で、応用問題が得意という生徒でしたから、いまにして思えば、枠にはまらず自由に勉強できたのはよかったと思っています。

寺尾:日本の各地で都市化にともない自然が失われつつありますが、北海道は豊かな自然にどっぷり親しむことができるわけで、それを生かした指導を行なうことにより、理科好きな子どもがたくさん生まれる可能性は大きいでしょうね。

西村:私も同意見です。北海道の大自然を活用して、経済を活性化することにも役立てていきたいと思っています。北海道は、農林水産物の生産量および出荷高が全国第1位、食料自給率も200%で、国内での食料供給基地として位置づけられています。しかし、経済的に高付加価値化が極めて弱い地域でもあります。それだけに、経済低迷の続く北海道こそ、産学官金融の連携で、一次産業から二次、三次産業まで融合して新商品開発を行ない、地域経済活性化を図ることが重要であると考えています。
そこで、目下、取り組んでいるのが、私にとっては4つ目のベンチャー企業で、道内の食資源を使用して生活習慣病予防などに効果的な加工食品、つまり、前回お話した「タマネギのもつ男性ホルモン増加効果が十分に発揮できる加工技術」を使用したサプリメントを開発し、それを事業化することです。世界的な不況のあおりで失業する人も多いこのご時世、札幌市長から「雇用の場をつくり、失業者を採用してほしい」との要請もあり、頑張って起業することにしたのです。

寺尾:各種の研究の成果を応用して、安心・安定した製品を開発・販売し、社会に貢献する…この私たちの共通するスタンスを大切にして、研究や事業などで協力し合えることがあれば素晴らしいなと思っています。最後になりましたが、北海道から上京されている忙しい最中に、時間をとっていただきまして、ありがとうございました。

終わりに

西村:タマネギの研究では、『血液サラサラ効果』『記憶障害改善効果』『男性ホルモン(テストステロン)増加効果』」に関する3つの特許を取得しています。タマネギはカットすることによって成分が変化し、丸ごとそのままの状態とでは、健康効果に違いが生じます。

寺尾:食品や食材の配合変化や過酷な加工過程による物質変化にもっと留意して、有効成分を安定した状態で腸まで届けることが重要です。口から肛門まで1本の管のようなものですから、管の中は体外につながる“外側”であり、サプリメントも含めて食品や食材は、腸に届けられるまで安定を保たなければならないことを多くの人に知ってもらいたいと思います。

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