がんの補完・代替医療の医師が注目したシクロカプセル化コエンザイムQ10
2010年12月掲載(この記事の内容は取材当時の情報です。)
福田 一典さん
銀座東京クリニック院長
1953年福岡県生まれ。'78年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、'81年~'92年久留米大学医学部第一病理学教室助手。その間、北海道大学医学部第一生化学教室('84年~'85年)と米国バーモント大学医学部生化学教室('88年~'91年)に在籍。'92年~'94年(株)ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に、'95年~'97年国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長としてがん予防の研究に、'98年~2002年岐阜大学医学部東洋医学講座助教授として東洋医学の臨床および研究、教育に従事。'02年銀座東京クリニック開設し、現在に至る。がんの漢方治療を基本に補完・代替医療を実践している。著書に『あぶない抗がんサプリメント(三一書房)』『漢方がん治療のエビデンス(ルネッサンス・アイ)』など多数。
寺尾啓二
(株)シクロケム代表取締役 工学博士
'86年京都大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は勇気合成化学。ドイツワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、'02年(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工業副会長などを兼任。趣味はテニス。
シクロカプセル化コエンザイムQ10は吸収性や安定性、安全性にすぐれた物質
寺尾:福田先生と知り合うきっかけになったのは、先生からシクロカプセル化コエンザイムQ10に関する問い合わせのメールをいただいたことでした。
福田:メールの履歴を調べましたら、4年前の2007年5月になっていました。「臨床データが実証する『シクロカプセル化コエンザイムQ10』のちから」(長崎出版、2006年)を読んでたいへん興味をもち、入手する方法を教えてほしいとメールさせていただいたのです。
寺尾:ご存知の通り、シクロカプセル化コエンザイムQ10とは、γ-シクロデキストリン(8個のブドウ糖が環状につながったオリゴ糖)でコエンザイムQ10を包接したものです。γ-シクロデキストリンは底のないバケツのような形をして、外側は親水性、内側は親油性です。油性物質をこの空洞内(ナノサイズ)に取り込む性質をもちます。それによって、油性物質を水に溶かしたり、物質の安定性を高めることができるのです。
つまり、このコエンザイムQ10包接体は、1分子ずつ分散した形で身体に入り、とてもよく水に分散するので、腸壁からの吸収性が飛躍的に向上するのです。また、他のビタミンや脂肪酸などと一緒になっても、配合変化を回避することができるというわけです。
福田:まさしくそこですね、興味を引かれたのは。従来のコエンザイムQ10の欠点に挙げられるのは、脂溶性のため水溶液のなかで凝集してしまい、腸管からの吸収が低いということ。不安定な物質で、熱や紫外線に弱く、保存中に分解して体に有害な物質の変わる危険性があること。また、他のビタミンや脂肪酸などと一緒になると分解して効力を消失しやすい心配もあるということ。こうした弱点を、γ-シクロデキストリンで包接することでことごとく克服できるというのは素晴らしいと思いました。
寺尾:コエンザイムQ10はそもそも、私たちの体内で産生される補酵素です。食事で摂取した糖分や脂肪は体内で分解され、細胞内のミトコンドリアという小器官でATP(アデノシン3リン酸)と呼ばれるエネルギー物質に変換されますが、このATP産生の過程で補酵素として働きます。また、体内の活性酸素を除去する強力な抗酸化物質としても作用します。そのため、コエンザイムQ10が不足すると、産出されるエネルギーが低下したり、酸化が促され、組織や臓器の働きが弱まり体調を崩したり、老化が進んだりします。20歳を過ぎると、体内での産生量が減少してくるとされます。
福田:私がメールさせてもらった当時、がん患者はコエンザイムQ10の血中濃度が低いという報告がありましたし、コエンザイムQ10の摂取により、乳がんが縮小したとか、がん治療の副作用が改善されたとか、延命効果があったとかいろいろ症例報告もありました。そして、日本では医薬品として許容基準は1日30mgでしたが、米国では1日300~600mg、ときには1000mg以上が使われていたりしました。そんなこともあり、シクロカプセル化コエンザイムQ10を知るまで、私のクリニックでは、含有量の多い米国製の製品を個人輸入していました。といっても、世界中で販売されているコエンザイムQ10製品の原料は全て日本製なんですけどね(笑)。
寺尾:従来のコエンザイムQ10での吸収率が悪いですから、病気の予防や治療のためとなるとやはり300mg以上を使用することになるでしょうね。コエンザイムQ10はかなりの大量を摂取しない限りほとんど副作用はありませんし。もちろん、シクロカプセル化コエンザイムQ10は吸収性や安定性はもとより、安全性にもたいへんすぐれた物質です。γ-シクロデキストリンは2001年FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)で1日許容摂取量を設定する必要のない安全な添加物と判断され、世界各国で安全性の高い食品素材として利用されています。
福田:γ-デキストリンとコエンザイムQ10の出会いはホント、素晴らしいですね。
寺尾:出会いといえば、福田先生との出会いにも不思議な縁のようなものを感じています。話はこうです。以前、プロポリス協議会から、プロポリスの製品には粘度やニオイなどに改善の余地があるので、「シクロデキストリンによるプロポリスの特性改善」といったテーマで講演してほしいと頼まれたことがあります。このとき、プロポリスについて調べていると、メルボルン在住の丸田浩博士が、NF(神経線維腫症)に有効性のある食品として、ニュージーランドのマヌカヘルス社の製品『プロポリスBIO30』を認めていることがわかりました(詳しくは「シクロデキストリン科学の現場-7」参照)。
このマヌカヘルス社は、私どもの(株)シクロケムと業務提携しており、第一弾の取扱い製品であるマヌカハニーの普及に目鼻がついたら、次はプロポリスをと話していたところでした。『プロポリスBIO30』が含有する抗がん作用のある物質、コーヒー酸フェネチルは通常、タンパク質やアミノ酸の攻撃を受けて壊れやすい性質があります。そこで、γ-シクロデキストリンで包接すると、タンパク質やアミノ酸の攻撃を防ぎ、吸収性を高める可能性が期待できます。現在、より有効なカタチに仕上げるために協力し合うことになっている段階です。
ただ、「包接プロポリスBIO30」が開発されると、まったく新しい製品として、最初から効能・効力の実験をしていかなければなりません。そこで、丸田先生が協力を頼める相手として推薦してくれたのが、産業総合技術研究所のレヌーさんでした。レヌーさんはインドの女性研究者で、本来はアシュワガンダ(インドニンジン)の抗がん作用を研究しています。このレヌーさんから、「アシュワガンダに興味をもっている医師がいる」ということで、さっそくパソコンを開いてディスプレイに映し出してくれたのですが、そこに登場したのは、何と福田先生だったのです。「偶然は必然だ」と言われることがありますが、不思議な縁を感じたというわけです。なお、アシュワガンダについては、第2回目の対談で詳しくお話することにします。
福田:これから、一緒にアシュワガンダに関わるようになるということでしょうか。浅からぬ縁を感じますね(笑)
漢方生薬やサプリメントを活用するがんの補完・代替医療のクリニックを開設
寺尾:福田先生は、漢方を中心に未認可医薬品やサプリメントなどを活用する、がんの補完・代替医療が専門ということでしたね。
福田:そうです。私は9年前の2002年に、「銀座東京クリニック(東京・中央区銀座)」を開業しました。がんの治療には大別すると、最先端医療、標準医療(手術・抗がん剤・放射線治療)、補完・代替医療、緩和医療などがあります。ひとりで全部やることはできせんから、役割分担するなかで、私は補完・代替医療に力を注いでいくことにしたわけなんです。
「補完・代替医療」には、標準治療を補う医療という意味や、標準治療の替わりの治療法という意味があります。標準医療はがん組織の摘出やがん細胞を死滅させることを目標とし、基本的にがん克服の有効な手段です。ただし、欠点もあります。手術や抗がん剤、放射線治療によって正常な細胞にまでダメージを与え、体力や免疫力の低下を招き、吐き気や倦怠感、食欲や栄養状態の低下などの副作用を起こすこともあります。体力や免疫力の低下は、がんの再発や転移のリスクを高め、感染症を引き起こす原因にもなります。このような標準治療の欠点を補ったり、標準治療の効果を高めたり、再発を予防したり、また末期の患者さんの症状改善や延命をはかることを主たる目的とするのががんの補完・代替医療です。
寺尾:福田先生のプロフィールをみせていただくと、1978年に医学部を卒業したあと、外科医からスタートしているんですね。
福田:最初の3年間は、外科医として主に消化器系がんの手術をしていました。ずっとその道を歩むつもりでいたんですが、がんの病理学を勉強しておかなければと、久留米大学医学部第一病理学教室の助手になりました。それで、肝臓がんの病理を勉強していたところ、やがて、がんの分子メカニズムに興味をもつようになり、北海道大学医学部第一生化学教室に行くことにしました。
寺尾:そのあと、さらに米国に留学しているんですね。
福田:ちょうど遺伝子組換え技術が日本に入ってきた頃で、発がんメカニズムやがんの治療法を分子生物学的レベルで研究したいと思い、バーモント大学医学部生化学教室に留学したんです。しかし、がんのことがわかればわかるほど、がんは手強い相手であることがわかるというだけで、研究成果がなかなか治療成績に直結しないんですよね。この先、研究がもっと進んでいけば、いい方法が出てくるかもしれませんが---。そんなことを痛感していたとき、ちょうど米国でがん細胞死を起こすアポトーシスの研究がはじまり、それにも興味をもち、アポトーシスを誘導する天然物質を発見しようと、ジャングルに探しに行ったりもしました(笑)。
寺尾:その経験が帰国後、(株)ツムラ中央研究所での研究へとつながっていくんですか。
福田:それも確かにありました。このツムラ中央研究所では漢方薬理の研究に従事し、がん治療における漢方治療の応用について研究しました。また、漢方生薬から抗がん作用のある成分を探索する研究も行なったのですが、結局、薬草から有効成分を分離して抽出すると、抗がん作用も強くなるけど毒性も強化されるというジレンマに陥るんですね。実際、薬草から抗がん剤になったものもありますけど----。西洋医学の医薬品が単一成分の抽出物であるのに対して、漢方治療は複数の薬草を組み合わせて薬効を高めたり、また違う薬効を出したりするものして発展してきているわけです。
たとえば、滋養強壮に高麗人参がいいからといって単一で使うのではなく、胃腸の状態をよくするものや血液循環をよくするものもうまく加味してより薬効を高め、副作用を軽減するものに仕上げていきます。その組み合わせ方は、臨床経験に基づいて決められているのも大きな特徴です。自然の成り行きというか、私にとってはひとつの転機となりましたが、このツムラ中央研究所に在籍した頃から漢方治療の勉強をはじめるようになりました。
寺尾:そこから今度は国立がんセンター研究所のがん予防研究部第一次予防研究室室長に就任することに。
福田:そうです。いまから15年ほど前になりますが、がん予防に効果のある食品成分を見つけようという研究が盛んに行なわれていた時代でした。当時は、野菜のニンジンに含まれるβ-カロテンが有効ではないかと考えられていました。しかし、β-カロテンをサプリメントにして臨床試験を行なうと、喫煙者ではかえって肺がんの発生を促進させてしまうといった結果が出たり、食物繊維の小麦フスマが大腸ポリープや大腸がんの予防にいいといわれて臨床試験で調べてみると、逆に大腸ポリープの増大を促進することが明らかになったり、良い報告がなかなか出てきませんでした。
結論として、がん予防に効く魔法の薬やサプリメントなどは存在せず、特定の食品成分に期待するのではなく、食事全般に注意を向けること。つまり野菜や果物や豆類をたくさん摂るとか、穀物は精白していない全粒穀物が良いとか、肉類や動物性脂肪を取り過ぎないようにするとか、そういった食生活の内容が大切だということです。要するに、医食同源で、いろいろ組み合わせるのがいいという漢方の考え方に重なるんですね。その後、岐阜大学医学部に東洋医学講座ができるということで、助教授として赴任し、4年間、漢方治療の研究、教育、臨床に携わりました。そして、いよいよ、自分のクリニックを開業することにしたというわけです。
寺尾:文字通り、がんに関連した研究のオールランドプレーヤーですね。外科にはじまり、病理学、生化学、分子生物学、薬理学、予防医学、東洋医学と進んでいったわけですから。
福田:西洋医学と東洋医学の両方を研究してきたことはよかったと思っています。その集積として、がんの治療において最も重要なのは、科学的な根拠に基づいた西洋医学を中心にしながらも、漢方薬やサプリメントなどを活用した補完・代替医療体によって体がもっている可能性や自然治癒力を引き出すことであるという信念をもつことができましたから。「体にやさしいがん治療」や「がんの全人的医療(患部だけを診るのではなく、体全体の症状などにも目を向ける治療)」が私のクリニックの目標です。
寺尾:次回は、R体リポ酸やα-シクロデキストリン、ω3不飽和脂肪酸(DHA、EPA)など興味深い抗がんサプリメントを取り上げるとともに、先ほど話に出た新たな抗がん物質として期待されるアシュワガンダなどをテーマに話し合いたいと思います。