株式会社シクロケム
日本語|English
知る・楽しむ
サイエンストーク科学の現場
10周年特別企画 シクロケムの「科学」を紹介(2)

繊維やフィルムなどシクロデキストリン(CD)の可能性を広げる研究【前編】

シクロケムの10周年を記念して行われた、シクロケムの研究者たちによる座談会の第2弾です。シクロケムでは、コエンザイムQ10やリポ酸などの機能性材料のシクロデキストリン(CD)包接化を中心に研究開発を展開してきましたが、CDの機能を活かして、応用分野を拡大。CDを固定化させた繊維で消臭効果を発揮するなど、食品・化粧品分野とは異なる様々な機能を発揮しています。また、ニュージーランド産マヌカハニーの高い抗菌作用のメカニズムも徐々に分かってきており、こちらでもCDと組み合わせた応用の可能性が広がりつつあります。

2013年5月掲載(この記事の内容は取材当時の情報です。)

(株)シクロケム代表取締役 工学博士 寺尾啓二

'86年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は有機合成化学。ドイツ ワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、'02年(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工業会副会長などを兼任。'12年から神戸大学医学部客員教授と神戸女子大学健康福祉学部客員教授を兼任。趣味はテニス。

石田善行

同志社大学大学院工学研究科博士課程(後期)修了。大学の研究員を経て、 (株)シクロケムバイオ入社。現在は、シクロデキストリンによるポリフェノールの安定化、植物の葉などの天然物から特定の機能性成分を抽出する技術を研究。

吉田佳珠

京都工芸繊維大学繊維学部卒業。繊維会社を経て、(株)シクロケムバイオ入社。現在は、MCT-β-CDの品質管理や繊維への固定化、マヌカハニー関連製品の品質管理に関する検討を中心に研究。

大西麻由

近畿大学農学部応用生命化学科を卒業。(株)シクロケムバイオ入社。現在は、シクロデキストリンを用いてレスベラトロールや他の水に溶けにくい有効成分の可溶化を中心に研究。

上野千裕

宇都宮大学院修了。(株)シクロケムバイオ入社。シクロデキストリンを用いたダイコンの辛み成分の安定化、マヌカハニーの抗菌性の検討などを中心に研究。

繊維にシクロデキストリン(CD)を固定化し加齢臭やアンモニア臭を抑える

寺尾:次に集まってもらったのは、機能性食品・機能性化粧品とは別のアプローチからCDの機能を活かす研究をしている研究員の人たちです。主任研究員の石田さんは、学生時代はCD学会長もやられた同志社大学 加納航治教授の研究室に在籍し、当社の研究の全体を見てくれています。CDはもちろん、様々な成分に対しての知識も経験もありますし、加納先生から「いい人がいるよ」と言われて入社してもらっただけあって、とても頼りになる存在です。

石田:ありがとうございます。大学の研究室配属のときにCD研究をしている先生のところに入り、博士号取得までの6年間CDに関わる様々な研究に携わってきました。現在は、CDによるポリフェノールの安定化の検討をしています。特に、ポリフェノールの酸化をいかにして抑制するか、反応の速度などを実験を通して調べています。

寺尾:吉田さんは、繊維会社に勤務していたという、研究員のなかでもユニークな経歴の持ち主でもありますね。

吉田:確かに、珍しい経歴かもしれません。私は大学のときに繊維に興味を持ち、大学卒業後は繊維工場の品質管理課で働いていました。しかし、できあがったものを評価するだけでなく、製品を作り上げることにも関わりたいと思ってこちらに転職しました。前職とは仕事内容も環境もまるで違いますが、当社のラボは設備が整っていて、新しいものを作っていく検討が出来るのが面白いです。現在担当しているのは、繊維にCD固定化して洗濯しても機能を維持している特別なCD誘導体(化学修飾体)であるMCT-β-CDです。
MCT-β-CD は90年代に開発されたものですが、新規化学物質を日本で作ったり輸入したりできない化審法(化学物質審査規制法)という法律があるため、長年日本では扱うことができませんでした。化審法で認められたのは2004年で、それ以降日本でも自由に利用できるようになったのです。繊維にCDを固着させるというのはまったく新しい発想で、取り組み始めたのも比較的最近のことです。
繊維にCDを固着させる一番の目的は消臭です。CDの空洞部分は、加齢臭の原因のひとつであるノネナールという成分を包接します。ノネナールは皮脂が酸化分解された揮発性物質で“おじさん臭”と呼ばれるものですがCDを用いれば、その臭いを抑えることができます。
もう一つ、このMCT-β-CDを固定化した繊維で抑えることができるのがアンモニア臭です。アンモニア自体は水溶性なのでCDでは包接できません。MCT-β-CDは、モノクロロトリアジノ化したβ-CDで、その原材料であるトリアジンに結合した3つの水酸基のうちの1つにアンモニアが反応して臭いを抑えているのではないかと現在考えています。当初はその機能に気づかず、MCT-β-CDで取れるのは疎水性の臭いだけだとお客様に伝えていたのですが、先方からアンモニア臭も取れたというご報告を頂き、新たな機能が分かりました。この繊維はスポーツウエアメーカーを中心にかなり注目を集めていて、消臭ウエアなどが開発されています。

寺尾:大西さんには、繊維との共通点もある、フィルムにCDを練り込む研究などもしてもらっていますね。

大西:私は、水に溶けにくい成分をCDを用いて可溶化する研究などを行っています。応用としては飲料用途などが考えられていて、たとえば最近注目のレスベラトロールは水に溶けませんが、水に溶かして飲料にすることができないかといったことを検討しています。食品以外では、虫がつきにくくなったり卵を産み付けにくくなるなど害虫忌避効果のあるサルチル酸アルデヒドという成分を練り込んだフィルムを作る研究もしています。あくまでも殺菌効果ではなく、虫が寄ってこないような臭いを発する成分を使います。DEETやユーカリなどは蚊が寄ってこない成分として知られていますが、常時虫が寄ってこないように香りを出し続けることはできません。そこで、東京農工大学との共同研究として、そういった香り成分をCDで包接してフィルムに練り込んで、ゆっくりと徐放させることを検討しています。

石田善行さん

吉田佳珠さん
大西麻由さん

ニュージーランド産マヌカハニーの高い抗菌作用を口腔ケアに応用

上野:私は、他の研究員の方がされている研究とは少しタイプが異なっていて、マヌカハニーの研究を担当しています。

寺尾:上野さんは、現在CD学会長を務める宇都宮大学の池田宰教授と加藤紀弘教授のもとで研究をしていて、国際学会での当社の発表に興味を持ってくれたんですよね。

上野:はい。こちらは研究をメインでやっている会社とのことだったので興味を持ちました。大学時代に所属していた加藤研究室はCDを扱っていたのですけれど、私自身はCDではなく、新しい機能性ポリマー・ゲルの検討をしていて、あまりCDには詳しくありませんでした。しかし、入社してからCDのことを深く知り、食品や化粧品、繊維など、いろいろな製品に広く利用されている面白い物質だと分かりました。現在は、マヌカハニーの抗菌性を中心に研究しています。口腔ケア商品では虫歯菌に着目したものが多く、最近では歯周病原菌をターゲットにしたものも増えていますが、マヌカハニーはその両方に抗菌効果を示すので、今後は口腔ケア製品に発展させていきたいと思っています。通常、歯磨きは朝晩しかしませんし、昼食後はなかなか億劫なので、いつでも口腔ケアができるようにガムを開発しています。

石田:マヌカハニーとCDを関連付けた研究も行っていますよね。

上野:そうですね。シクロケムとしてはCDなしには進められません(笑)。マヌカハニーにはメチルグリオキサール(MGO)という抗菌物質が含まれていて、そこがほかのハチミツとの一番の違いです。その抗菌力は口腔細菌をはじめ、胃の中ではピロリ菌、腸内では悪玉菌に対して効果を示します。面白いのは、腸内細菌のなかでも悪玉菌だけを減らし、善玉菌は増やしてくれるということ。ピロリ菌の場合、当初は3種類の飲み薬(胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質)で除菌率は約90%でしたが、現在は耐性菌が確認されており、60~70%に低下しています。しかし、マヌカハニーは天然食品ながら薬で除菌できなかった人に対しても、いくつかの改善効果が報告されています。また、α-CDには口腔細菌などの菌の細胞壁を溶かす溶菌作用があることが分かっています。これはMGOとは全く異なる抗菌作用機序なのですが、この2つを組み合わせてみたところ、α-CDとマヌカハニーの相乗効果で、ピロリ菌に対する除菌レベルがかなり向上することが最近になって分かりました。この技術に関しては、マヌカハニーの研究・製造を行うニュージーランドのマヌカヘルス社も注目しています。

寺尾:上野さんには、宇都宮大学の加藤研究室にいたという経験を活かして、「制菌」という研究テーマにもチャレンジしてもらいたいと思っています。菌はお互いに会話することができませんが、クオラムセンシングというコミュニケーション機能が備わっており、「ここにいるよ」というシグナルを発すると他の菌が集まってくるのです。仲間を増やしてほしくない菌がいる場合は、コミュニケーションのためのシグナル物質をCDで包接してしまう。その物質をキャッチしないと、周りに仲間がいないと勘違いして、菌は増えていきません。この研究も、大西さんが取り組んでいる害虫忌避と同じで、菌を殺すわけではないのが特徴のひとつです。菌を殺してしまうと副作用など別の問題が発生する可能性がありますが、あくまでも殺さずに菌を増やさない。クオラムセンシング自体は世界中で研究されていますが、CDに着目して研究されているのは、世界でも宇都宮大学の池田先生と加藤先生のグループくらいなので、その研究室出身の上野さんには是非検討してもらいたいと思ったのです。

上野 :はい。頑張ってみます。また、宇都宮大学農学部には、ダイコン博士として知られる宇田靖教授がいらっしゃいます。ワサビや辛子のツンとくる成分は本来すぐに揮発してしまうもので、チューブに入れて保存することなどできませんでしたが、それを可能にしたのがCDです。CD包接した辛味成分は、醤油などにつけたときに出てきてツンとする。この仕組みができたことで、練りワサビや練り辛子ができました。ダイコンについても同様で、おろしたばかりのようにツンとした成分を残しておきたい。そこで、練りワサビと同じようにCD包接して、水を加えると辛みがさっと出てくるような技術を研究中です。将来的には、きちんと辛味を感じるインスタントな大根おろしなども作れると面白いと思います。
そういった研究と並行して、今特に注力しているのはマヌカハニーの整腸作用です。マヌカハニーではビフィズス菌が増殖しやすくなるということが報告されているので、その点について詳しく調べています。腸内細菌の中には善玉菌と悪玉菌がいて、悪玉菌よりも善玉菌を増やすべきということは広く知られています。ただし、マヌカハニーに含まれるMGOという抗菌物質は、菌であればどんなものでも殺すはずで、腸内で善玉菌は殺さず悪玉菌だけ殺すなどという虫のいい話はありません。ところが、vitro試験ではビフィズス菌などの善玉菌は増やすことが分かっています。その理由を調べてみると、ブドウ糖から酵素変換されるグルコン酸にビフィズス菌を増やすはたらきがあることが分かりました。マヌカハニーにはこのグルコン酸が普通のハチミツよりたくさん含まれていて、MGOによって全体として菌を減らすのですが、グルコン酸によってそれ以上にビフィズス菌が増えているということではないかと考えています。なので、ヨーグルトの中にマヌカハニーを入れても必要な善玉菌を減らすことはありません。そういったことを含め、マヌカハニーの不思議を解明したいと思っています。

上野千裕さん

繊維やフィルムなどシクロデキストリン(CD)の可能性を広げる研究【後編】

機能性食品や化粧品以外の、繊維やフィルム、マヌカハニーといった研究分野に携わる研究者たちによる座談会の後編。シクロデキストリン(CD)包接という働きを使って、がんに効く成分だけを選択的に取り出す研究や、特定の成分を徐々に徐放する研究についても紹介しています。シクロケムの研究の特徴は、基礎的な研究を行いながら、常に実用化を視野に入れて応用研究まで着実に進めることにあります。今回紹介されるそれぞれの研究でも、物質としての面白さを追求するとともに、世の中で広く役立てられるよう応用のための工夫を重ねる研究者たちの情熱が伝わってきます。

植物や薬草が持つ健康成分をシクロデキストリン(CD)で選択的に取り出す

石田:私は、産総研(産業技術総合研究所)と薬草に関する共同研究を行っています。薬草や植物など体にいいとされるものに含まれる成分は同じような骨格を持っていることが多く、どれもCDと相性がいいという特徴があります。そこで、CDを用いて、抗がん活性を示すなど、病気の治療や健康に役立つ植物の成分を選択的に取り出す研究を行っています。CDにはいくつかの種類がありますし、CDで取り出した後の水への溶けやすさなどの性質の違いを調べています。また、成分を取り出しやすくするために、加える方法にも工夫しています。
今ターゲットにしているのはインドのアーユルヴェーダでよく使われる薬草で、抗がん作用などがあることから、医薬品としてではなく食品として世に出していきたいということでした。その有効成分がγ-CDと相性が良いため、γ-CDを用いて選択的に取り出すことができるのではないかと検討しています。

上野:抗がん作用ということでは、プロポリスについても研究していますよね。

石田:プロポリスにはブラジル産とニュージーランド産があり、どちらもケイ皮酸誘導体であることは同じなのですが、ブラジル産はアルテピリンC、ニュージーランド産はCAPE(コーヒー酸誘導体)という違いがあり、特にニュージーランド産に含まれるCAPEはNF(神経線維腫症)という特殊ながんなどに対して効果があることが分かっています。CAPEはコーヒー酸フェネチルというくらいですから、コーヒーに含まれる成分です。ならばコーヒーを飲めばいいのではないかと思われるでしょうが、コーヒーを飲んでもそのような効果は得られません。フェネチルアルコールという脂溶性物質でエステル化して脂溶性を高めることでターゲットとしているがん細胞まで届くのです。しかし、腸の中では加水分解を受けやすいので、体内までしっかり届けるために、γ-CDで安定化させる研究を進めています。これらの研究は、「抗がん作用」という点が共通しています。
私が担当している研究では、薬草の中でもほしい成分だけを取り出すのがなかなか難しいところです。1つの薬草のなかには、がんを殺す成分だけでなく、正常細胞も殺してしまう成分もあり、どちらも似たような構造をしています。CDの作用も似ているため、いかにして必要な成分だけを取り出すかというところがかなりチャレンジングなところです。それでも、わずかな構造の違いがあり、CDならばそのわずかな違いを見つけることができます。それもCDを扱うことのやりがいのひとつといえます。

吉田:繊維に関しては、実際にお客様の製造現場でMCT-β-CDをつけて頂き、それらの性質を品質管理課で調べてもらっているところです。MCT-β-CDは他のCDとは異なる特徴を持っていて、さらに繊維の業界で必要とされる機能も持ちあわせていることが分かってきています。そのMCT-β-CDの新しい機能が、いかにして繊維業界で役立てられるか、メカニズムの解明とともに研究を進めています。

石田:繊維に効率よく固定化するノウハウを確立できれば、抽出や徐放など、ほかの技術にも応用することができます。

寺尾:繊維にMCT-β-CDを固定化することができれば、半永久的に利用できますよね。繊維に固定化したMCT-β-CDに有効成分が吸着してしまえば、そこから有効成分が徐放することができるし、有効成分だけを選択的に取り出すこともできる。そして、MCT-β-CDが空になったら、また同じように使える。これまでのCDは一度何かを包接したらそれで最後でしたけれど、繊維の場合は何度も使えるという意味ではかなり可能性を広げてくれる技術なのです。たとえばコレステロールが気になるというのなら、コレステロールだけを吸着できるフィルムを開発して、コレステロールを多く含む牛乳をそのフィルムに通せばいい。そんな使い方もできるかもしれません。

吉田:ただし、そういった繊維を作るのはあくまでも繊維メーカーで、我々は原料を安定供給する立場です。しかし、繊維メーカーの方はMCT-β-CDについて詳しくありませんし、いくら工法を工夫されても繊維にMCT-β-CDを固定化できるものではなく、こちらで条件を提示する必要があります。MCT-β-CDは繊維のセルロース水酸基と反応させますが、水がじゃぶじゃぶあったら、セルロース水酸基ではなく水と反応してしまいます。そうすると、もう反応しなくなってしまうので、限りなく水を飛ばしておいて反応できる条件、物質の安定性など、まだ完全とはいえないので、まだまだ検討中です。
今は衣服などの繊維にMCT-β-CDを固定化させる目的の検討が中心ですが、今後はフィルターや工業用途の材料にも研究の幅を広げていきたいと思います。衣服の場合はアンモニア消臭、フィルターの場合は製造時に発生した副生成物の除去など、MCT-β-CDを固定化させるものによって求められる機能が全然違います。ですから、狭い範囲にとらわれることなく、MCT-β-CDの可能性がどこまで広がるか、といった視点で色々なことに関わっていければと思います。



包接した成分を徐々に放出することで様々な機能を持つ新たな製品が誕生

大西:今話に出たような繊維の仕組みは、害虫忌避フィルターにも応用できます。害虫忌避効果の研究では、β-CDの水溶液を植物に噴霧したところ、植物の成長を促進したという報告があります。そこに天然の害虫忌避効果のある成分を組み合わせた製品などができないかと思っています。
といっても、β-CDそのものに植物の成長作用があるわけではありません。化学肥料に対して有機肥料というものがありますが、堆肥などの有機肥料はなかなか扱いが難しく簡単にはうまくいきません。しかし、有機肥料の栄養分を植物がうまく吸収できるようにするのにCDが役立ちます。

寺尾:この研究成果は、シクロケム社を設立した2002年以前のワッカー社時代に私が見つけたものです。また、殺虫剤や除草などを行う農薬は、虫や植物といった生き物を殺してしまいますが、忌避剤ならば虫や菌を寄せ付けず、なおかつ殺さずに済む。こちらもCDとの組み合わせでできることなので、この二つのはたらきを組み合わせた製品づくりをしたら面白いですね。

大西:消臭効果ということだけでなく、CDは揮発性成分をゆっくりと出すこともできます。害虫を寄せ付けない忌避成分というのは、その応用事例のひとつです。そのはたらきを応用した製品としては、ペット用のトイレシートがあります。

寺尾:この製品の誕生には面白いエピソードがありまして。自身もペットを飼っている大手紙オムツメーカーの社長さんの体験例をきっかけに、担当研究員の方の問い合わせから実現したのです。同社の社長さんによれば、使用済みのペットシートを週に1度のごみ収集の日まで家で保管しておくと、だんだん匂ってきて困るとのこと。はじめのうちはシートの消臭効果も効きますが、尿たんぱくが微生物によって分解されて、徐々に匂ってくるようになるからです。そこで1週間匂わないで置いておける方法として、菌が嫌うような揮発性成分をCD包接して徐々に出るようにしておくことを提案。そうすれば、尿たんぱくを分解するような菌が1週間ぐらい近づかないので、その間は匂わないで済みます。そうしてできたのがこのペット用トイレシートです。

吉田:ここで大事なのは「揮発性成分をゆっくり出す」ということです。ヨネックスなどのスポーツウエアメーカーからは、アンモニア臭をとる以外にも、冷感や温感のスポーツウエアを作りたいという依頼もありました。CDがくっついたウエアに、冷感成分のメントールを噴霧して乾かすと、CDの中に納まります。そして、汗をかくとメントールが出てきて、涼しく感じることができるのです。温感も同じで、生姜の温感成分を入れておきます。

石田:ここまでみんなが話してきたように、CDは分野も用途もかなり広いのが魅力です。当社の研究のなかでも食品分野についてはかなり成熟してきましたが、ほかの分野では可能性が見えてきたところで、それらについてはたくさんのアイデアがありますので、今後も検討を進めていきたいと思います。個人的には、やはり分子レベルで活躍できるのが面白いと学生の頃から思っていますので、その研究の面白さをまだ知らない人に伝えられるような研究をこれからも続けていきたいです。

寺尾:石田さんの言うとおり、CDの可能性はますます広がりつつあります。それら一つひとつが確実に実用化できるよう、皆さんのこれからの活躍に期待しています。


相談コーナー

ご質問やご相談がございましたら、以下のジャンルからお問い合わせをお願いいたします。