株式会社シクロケム
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農学とシクロデキストリンの接点(2)

イネの改良種として「イネの大木」をつくりそのバイオマス利用でエタノールを生産したい

シクロデキストリンは包接作用によって、ゲスト分子に対して光や熱などの影響を抑えたり、分子レベルですぐれた効果を発揮できるようにしたり、有効成分を徐々に放出し長時間利用することを可能にしたりします。このシクロデキストリンの包接作用を、農学に応用する方法について、ふたりは以前から話題にしてきたこともあり、次々に飛び出して話に熱が入りました。

人間と植物の活動のバランスが大きく崩れると光合成のシステムが破綻をきたすことに

寺尾:現在のところ、太陽エネルギーを有機物が利用するエネルギーに変換できるのは植物だけですから、この植物のもつ光合成のしくみは素晴らしいといわざるを得ませんね。

平田:光合成がはじまり、大気の成分が窒素約80%・酸素約20%に安定してきたのは、いまから4億年ほど前のデボン紀からのことです。それ以前は、嫌気性の微生物が、海底火山などの高熱のなかで物質変換した炭酸などの有機物をエネルギー源にして生きていたと考えられます。この地球エネルギーともいえる有機物が枯渇するようになると、次に採られた手段が、呼吸を逆回転して、有機物を合成して利用するということだったのです。つまり、エネルギー(ATP)をつくるために、呼吸をするようになり、その結果、二酸化炭素が排出され、光合成がはじまるようになったのです。あくまでも、「最初に、呼吸在りき」で、ここが大きなポイントです。

寺尾:私ども(株)シクロケムの手掛ける「シクロデキストリン(環状オリゴ糖)」は、ブドウ糖が6~8個連なって形成されており、その化学構造をよくみると、二酸化炭素と水分子によるブドウ糖の一つ目の“環”に連なって二つ目の“環”が出来ています。一つ目の“環”は太陽エネルギーを封じ込めるということで理解できるのですが、二つ目の“環”の意味がいまもってナゾです。ただ、「シクロデキストリン」が 220 ℃の高熱にも耐えられることを考えると、遥か遠い昔、高熱の環境に棲息した微生物が利用できるためだったのかも知れないとの説はあります。

平田:4億年前から利用してきた光合成のシステムですが、永遠に続くかというと、そうとはいい切れないわけです。私たち人間の活動と植物の活動のバランスが大きく崩れるようになれば、破綻をきたすのは自明の理です。これからも二酸化炭素が増え続ければ、光合成以前の環境に逆戻りするかもしれません。その意味で、環境問題は、人類の存亡に関わっているといっても決して過言ではないのです。

寺尾:環境問題といえば、シクロデキストリンの原料はトウモロコシですが、シクロデキストリン製造後のデンプン由来の廃棄物はすべて、エタノールに交換され、排気ガスの排出を抑制するガソリンに利用されています。

平田:僕はいま、ベトナムの研究機関と協力して、イネの改良種として「イネの大木」をつくって育て、そのバイオマス( ※エネルギーや物質に再生が可能な動植物から生まれた有機性の資源。ただし化石資源は除きます )利用でエタノールやディーゼルの生産を研究したいと考えているところです。これなら、食品の分野で競合することなく、日本にとってもベトナムにとっても役立つこと間違いないと思うのですよ。

寺尾:「イネの大木」ですか。平田先生ならではの独創的な発想ですね(笑)。

平田:ココナツやキャッサバ(=タピオカ)、サトウキビ、メラルーカ(樹木)などでもエタノールを生産することに成功しています。また、熱帯地方のバイオマス研究では、川や沼などに棲む淡水魚ナマズが利用されています。それまで捨てられていた腹身(脂身)でディールオイルを生産する技術を開発し、すでに製品化されています。このように資源を効率的に循環させることは―循環のサイクルは大きければ大きいほどいいと思います―、環境問題の環だろうと思います。


忌避剤やプロテアーゼの問題点もシクロデキストリンの包接により解決

寺尾:以前、「平田先生の取り組んでいる研究のなかには、シクロデキストリンを活用することで、より素晴らしい成果が期待できるものが少なくない」という話になったことがありましたね。

平田:そのひとつは、忌避剤でした。野菜や果物を無農薬や減農薬などで育てるときに避けて通れないのが、虫対策です。農業に携わる人たちは、たとえば、マリーゴールドの花を土中に鋤き込むことで、それが線虫(原虫)の忌避剤になることを経験的に知っています。こうした忌避効果のある成分を解き明かしていった結果、害虫の多くはニオイ成分、つまりモノテルペン類などアロマ(精油)を嫌うことがわかるようになりました。

寺尾:ところが、モノテルペン類などは揮発性のため、その有効性が長続きしないのが難点なわけです。これを容易に解決してくれるのが、シクロデキストリンです。モノテルペン類をシクロデキストリンで包接することで、有効成分を徐々に放出し長い時間にわたって効果を示すことを可能にします。

平田:忌避剤は害虫を殺すのではなく、寄せ付けないようにするだけですから、環境にやさしい害虫対策を実現することになります。すばらしいことですね。

寺尾:プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の難点も、シクロデキストリンで包接すれば、簡単に解決することができます。身近な例を挙げると、パイナップルがステーキに乗っていたり、酢豚に入っていたりするのは、パイナップルに含まれるプロテアーゼが牛肉や豚肉のタンパク質を分解して、柔らかくしてくれる効果を期待するものです。ところが、プロテアーゼは熱に弱い(果物の中に存在しているときは熱に強い)という弱点があります。シクロデキストリンで包接すると、熱の影響を抑えることができますし、またナノサイズ(1nm=10億分の1m)に分散することができるので、肉がより柔らかくなるうえ、栄養分が吸収されやすくなるという効果を発揮します。

平田:プロテアーゼはパイナップルに限らず、多くの果物に含まれています。僕の研究室で学んでいる学生のひとりが、ベトナムの古都フエで、現地の果物を使用してこのプロテーゼの研究していたことがあります。実験器具がなかったこともあり、やむなく長期滞在し、プロテアーゼを自然乾燥させてから粉末にして使用していました。シクロデキストリンと組み合わせれば、そうした苦労もしなくて済むというわけですね。

寺尾:それに、果物をそのまま輸入するにはいろいろ面倒な手続きの問題もありますが、プロテアーゼを抽出してシクロデキストリンで包接して粉末化すれば、品質をきちんと保持できますし、輸入もスムーズにいきますから、いいことずくめですよね。これからも、シクロデキストリンの応用についていろいろなカタチで検討することを楽しみにしています。

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