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マヌカハニーとシクロデキストリンの相乗効果(2)

マヌカハニーは「抗菌活性物質MGO」と「抗酸化物質SAME」を含む唯一のハチミツ

1988年、過酸化水素の作用に続くマヌカハニーの強力な抗菌性を示す科学的根拠として、ニュージーランドのモーラン教授により、あるひとつの物質の存在が明らかにされました。しかし、それが何であるかを特定することはできなかったために、抗菌性のレベルを示す指標として「UMF(ユニーク・マヌカ・ファクター)」と名付けられました。そして、21世紀になって、ドイツのヘンレ教授により、このナゾの物質が「MGO」であることが、ついに突き止められます。
どのようにしてMGOを発見することができたのか、また「UMF等級」と「MGO分析法」の違い、さらにマヌカハニーに特異的なもうひとつの成分、抗酸化物質のSAMEなどについても話が及びました。

広域な抗菌スペクトルをもつマヌカハニーをニュージーランドでは医療用に使用

寺尾:マヌカハニーの抗菌活性に関する研究は、ヘンレ教授の画期的な発見へ到達するまで長い道のりがあったわけで、120年近く前に端を発しています。

ポール:この分野の学術論文の第1号が発表されたのは、1892年のことです。1960年には、ハチミツの抗菌物質として、ブドウ糖から発生する過酸化水素が確認されました。そして1988年、ワイカト大学(ニュージーランド)のピーター・モーラン教授の研究チームが、過酸化水素とは別に、もうひとつの抗菌作用物質の存在することを発見したのです。
過酸化水素がブドウ糖から発生するには、ハチミツが体液で希釈され、かつ中和されるという条件が求められます。それに対して、このもうひとつの抗菌作用物質は、ハチミツ中に常在しているため、より強力な抗菌効果が期待できることになります。ただし、この抗菌作用物質が何であるかは特定することができなかったため、「UMF(Unique Manuka Facter:ユニーク・マヌカ・ファクター)」と名付けられました。

寺尾:そもそも過酸化水素は太陽光や熱、体内酵素のカタラーゼなどにより分解され、抗菌活性を失いやすいことが確認されています。にもかかわらず、マヌカハニーは抗菌性を保つわけで、それはなぜかということから、別の抗菌活性物質の存在が問われたわけです。

シュミット:過酸化水素以外にも、浸透圧効果や酸性度の影響など、マヌカハニーの抗菌作用に関与すると考えられる要素がありますが、もちろん、これらについても検討されたわけですね。

寺尾:ハチミツは糖の飽和溶液で、糖分子と水分子の強い相互作用により、微生物に利用可能な水分子はほとんど残されていません。しかし、マヌカハニーは希釈しても、強力な抗菌作用が認められます。つまり、浸透圧効果とは無関係なことがわかります。
また、ハチミツは酸性(pH3.2~4.5)で多くの病原体を殺傷することが可能です。しかし、希釈した場合、pHは上昇するので、そうなると、細菌の増殖阻止因子とは考えにくくなります。さらに、これまでにハチミツ中の抗菌活性成分として、ピノセンブリン、リゾチーム、ベンジルアルコールなど、さまざまな物質が発見されていますが、その含有量は少なく、有効な抗菌活性を示すには程遠いものです。

ポール:モーラン教授は、マヌカハニーの抗菌作用に関する効力査定のために、「UMF等級」を考案しました。これは、標準的な生体消毒薬のフェノール(石炭酸消毒薬)の抗菌効力と比較し、等級の数値を決定する方法です。たとえば、「フェノール10%溶液」の抗菌効力と等しければ、「UMF10」となります。数値が大きいほど抗菌作用が強く、一般的なハチミツは「UMF0~1程度」、マヌカハニーでUMFの含有量が少ないものは「UMF0.5~4程度」、含有量が多いものは「UMF10以上」を示します。

ヘンレ:モーラン教授はまた、20年以上にわたる熱心な研究によって、マヌカハニーにさまざまな有害菌に対して殺菌作用のあることを立証し報告してきました。黄色ブドウ球菌、ヘリコバスター・ピロリ菌、ストレプトコッカス・ミュータンス菌、大腸菌、サルモネラ菌、霊菌、化膿連鎖球菌、緑膿菌など挙げていったらキリがないほどです。

ポール:「UMF10以上」のマヌカハニーは、ニュージーランドで医療用に使用されています。具体的には、「創傷治療」「口臭治療、歯周病、口内疾患、扁桃腺炎の治療」「皮膚疾患(ニキビなどを含む)の治療」「十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃がんの予防・治療」「糖尿病の併発症、長期療養患者の床擦れによる皮膚疾患の治療」などが挙げられます。

寺尾:ヘリコバクター・ピロリ菌は胃に生息する細菌で、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの原因となります。マヌカハニーのピロリ菌に対する抗菌作用を調べた、次のような試験が報告されています。
胃潰瘍の人の胃から得た5つのピロリ菌分離株を96時間培養して、一般のハチミツ(40%溶液)とマヌカハニー(20%溶液)を用い、寒天平板法による抗菌性試験を行なったものです。一般のハチミツ(40%溶液)では抗菌作用は認められませんでしたが、マヌカハニーでは3つの分離株で増殖が完全に阻止され、残り2つについても抗菌性が示されました(表-1参照)。

そこで今度は、7つのピロリ菌分離株を使用して、マヌカハニーの寒天培地封入による最少阻止濃度の評価が行なわれました。その結果、7つのピロリ菌分離株はすべて、5%濃度のマヌカハニーの存在下、培養72時間で増殖が完全に阻止され、マヌカハニーのピロリ菌に対する抗菌作用が示されました(表-2参照)。

ポール:通常、ピロリ菌の除菌は、抗生物質などを3種類併用して行なわれています。しかし、除菌期間中に抗生物質による副作用の生じる心配があります。それに対して、マヌカハニーはあくまでも食品ですから、副作用はほとんど認められません。
胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの疾患をもつ人たちから、マヌカハニーの効果に対する感謝の手紙をよくもらいます。一例として、米国のキャッシーという女性からの手紙を要約して紹介しましょう。
“1年前のこと、私の主人はオフィスで突然倒れ、病院に運ばれました。検査の結果、ピロリ菌による出血性十二指腸潰瘍であると診断されました。通常の治療法として、三種混合の抗生物質が投与されましたが、ピロリ菌は陽性のままでした。そのとき、担当の医師が、マヌカハニーの情報を提供してくれました。以来、主人はマヌカハニーMGO250を摂取するようになりました。いかなる抗生物質も服用せず、マヌカハニーのみを摂取して3ヶ月後の検査で、嬉しいことにピロリ菌が陰性になっていました。12ヶ月後の検査でもピロリ菌は陰性でした。現在も、マヌカハニーを1日に2回、摂取しています。私の主人を再び健康な状態に戻してくれて、たいへん感謝しています”というものです。

寺尾:虫歯の原因菌のストレプトコッカス・ミュータンス菌や歯周病の原因菌のギンギバリス菌に対しても、マヌカハニーはすぐれた抗菌効果を示すことがわかっています。次のような試験からも、それが認められます。
30人の被験者を無作為に15人ずつのグループに分け、一方のグループには「ハニーレザー(マヌカハニー含有棒状ガム)」を、もう一方のグループには「シュガーレスガム」を与え、1日3回、食後に10分間、21日間にわたって噛んでもらいました。そして、試験期間の前後での歯垢と歯肉炎出血スコアを比べました。
その結果、ハニーレザーグループでは平均の歯垢スコアと出血部位%で有意な減少を示しましたが、シューガレスグループでは、有意な変化は認められませんでした(図-1、図-2参照)。

マヌカハニーの抗菌性によって、歯垢と歯肉炎を減少させていると考えられます。また、ハニーレザーグループの歯肉炎出血スコアにおける著しい減少は、マヌカハニーの抗菌作用と併せて、抗炎症作用も示しているものと推察できます。

ポール:こうした作用に注目し、マヌカハニーを配合した歯磨き剤などが開発されています。ちなみに、マヌカハニーに加えて、ニュージーランド産プロポリスを配合した、より強力な口内ケア歯磨きも市販されています。このプロポリス中のフラボノイド類にも、ミュータンス菌に対する殺菌作用が認められることが、多くの研究で明らかになっています。

最新の研究結果をプレゼンテーション

MGOの抗菌力とSAMEの抗酸化力がマヌカハニーの健康改善効果・美肌効果の秘密

寺尾:前回の話にも出てきたように、このUMFと名付けられた“未確認物質”の正体が明らかにされる日がやってきます。2008年1月、ヘンレ教授によって発表された論文のなかで、それは「MGO」であることが明らかにされたのです。

ヘンレ:長年にわたって、マヌカハニーの強力な抗菌活性がどんな物質によるものかを特定できなかったのには、それなりの理由があります。MGOは求電子物質であるため、求核種との結合形成反応や2量体、3量体など多量体の形成反応によって、そのカタチが変化してしまっています。そのため、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるMGOの同定は困難でした。
しかし、ここが肝要なところですが、これらの反応は可逆反応なので、MGOはなくなったわけではなく、MGOは再生します。そこで、MGOをo-フェニレンジアミンという分子と反応させてキノキサリンに変換し、MGOの含有量を容易に測定することに成功したというわけです。

ポール:MGOをキノキサリンに変換する分析方法が確立されたことで、それぞれの物質中のMGO含有量を正確に測定することが可能になりました。
「MGO100」は、「マヌカハニー1kg中にMGO100mg以上」が含まれることを示します。マヌカハニー中のMGO含有量は、およそ30~700mg/kgです。マヌカハニーにおけるUMF等級とMGO含有量(mg/kg)との相関関係をみると、「UMF10」=「MGO100」、「UMF20」=「MGO400」、「UMF25」=「MGO550」を示しています。ですから、ニュージーランドで医療用に用いられている「UMF10以上」は、「MGO100以上」に相当することになります。

寺尾:「MGO分析法が正確であるのに対して、UMF等級法は不正確なグレード分けである」といった指摘が、マスコミなどで取り上げられ、物議をかもしたのはまだ記憶に新しいところです。UMF等級を決定するには、ハロー試験が行なわれるのですが、同じ量と濃度でもシャーレのなかの測定する場所の違いによって抗菌活性評価に異なる結果が出たりします。
また、まったく同じ条件で同じ操作をしても、試験のたびに抗菌活性評価に異なる結果が出たり、オペレーターの測る向きやその時のみえる具合で多少の誤差が生じたりで、評価がなかなか安定しません。そのため、pH試験紙によるpH測定と同様に、正確な数値化は困難ということになります。

ポール:その点、MGO分析法は、その抗菌活性を正確に数値化できるわけですから、ユーザーにとっても、よりわかりやすい評価法であると胸を張って明言できます。

ヘンレ:つい最近のことですが、日本のハチミツの製造会社からも、MGOの含有量を測定してほしいという問い合わせがありました。MGO分析法はますます各国の関係者の注目を集めるようになってきています。

シュミット:マヌカハニーには、抗菌物質のMGOのほかに抗酸化物質のシリング酸メチルが特異的に含まれていることも見逃せませんね。

寺尾: 私たちの体は約60兆個の細胞でつくられています。個々の細胞内に存在するミトコンドリアのなかで、ブドウ糖と酸素が反応してエネルギーを産出する際に、一部の酸素はブドウ糖から電子を奪い、活性酸素に変換されます。この活性酸素は次々に電子を奪ってカタチを変えていくのです。
まず、ブドウ糖から電子を奪った酸素はスーパーオキシドアニオンラジカルに変換され、次いでスーパーオキシドアニオンラジカルが電子を奪い過酸化水素に変換されます。そして、さらに過酸化水素が電子を奪い、ヒドロキシルラジカルへと変化します。
なかでも、このヒドロキシルラジカルは非常に活性が強く、遺伝子やタンパク質などを損傷し、病気や老化、肌のトラブルなどの原因となります。マヌカハニーに特異的に含まれるSAMEは、最初に発生するスーパーオキシドアニオンラジカルに対して消去活性を示します。その結果、自ずと凶暴なヒドロキシルラジカルの発生を抑えることができることになります。

ポール:また、肌への活性酸素の影響については次のように説明できます。肌にハリや弾力を与えるのは、真皮のなかのコラーゲンやエラスチンといった線維状のタンパク質です。これらが網状の構造体をカタチづくり、ハリや弾力を生み出し、その周辺を満たす十分な水分が潤いのあるみずみずしい肌にしています。活性酸素により、この構造体が障害されると、ハリや弾力を保てなくなるとともに、水分量が減るため肌のたるみやシワが目立つようになるというわけです。
なお、紫外線や放射線に被爆すると、ヒドロキシルラジカルや、これも活性酸素として働く一重項酸素が大量に生成され、女性の肌の大敵になるのはもちろん、皮膚がんなどを引き起こす原因になるとされます。

寺尾:そこで、我々は、シリング酸メチルを特異的に含んでいるマヌカハニーの抗酸化能が他のハチミツと比べてどのようなものかを検討しました。ハチミツ濃度40mg/mL、DPPH濃度0.2mMにおける「MGO30」「MGO100」「アカシアハチミツ」のDPPHラジカル消去活性を比較したところ、「アカシアハチミツ」に対して「MGO30」「MGO100」は著しく高いラジカル消去活性を示しました。「MGO30」と「MGO100」では、MGOの含有量の多い「MGO100」の方が高いラジカル消去活性を示しています。

DPPHは1、1-Diphenyl-2-picrylhydrazylの略で安定なラジカルを形成できる分子。DPPHはラジカル状態で517nmの極大吸収をもつが、抗酸化物質によってラジカル消去されることに伴う517nmにおける吸光度の減少をとらえて抗酸化能を評価する

ヘンレ:要するに、マヌカハニーはMGOの強力な抗菌活性と、シリング酸メチルのすぐれた抗酸化作用をもつ唯一のハチミツということができます。

寺尾:次回はいよいよ、α-シクロデキストリンによるマヌカハニーの粉末化、そしてその著しく向上する有効性などについて、いろいろ話していきたいと思います。

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