α-シクロデキストリンによりマヌカハニーを包接することで安定した粉末化が可能に
マヌカハニーもα-シクロデキストリンもすぐれた抗菌性と腸内環境改善作用をもつ
寺尾:現在、ヘンレ教授はマヌカハニーに関してはどのような研究をなさっているのですか。
ヘンレ:MGOの細胞毒性、及び毒性試験を行なっています。いま、ひとつ問題があって、MGOは牛乳に加えると、ミルクプロテインと容易に反応します。このとき、αジケトンであるMGOとプロテイン中のアルギニンが反応し、安定なイミダゾール環を形成するため、MGOの抗菌性が失われることになるのです。
ポール:マヌカハニーにα-シクロデキストリンを添加して複合粉末化し、牛乳に加えるにようにしてはどうでしょうか。
ヘンレ:「マヌカハニー&α-シクロデキストリンの複合粉末」とは、おもしろい発想ですね。
シュミット:その話の前に、α-シクロデキストリンについて、要点を整理しておいたほうがいいと思います。ご承知のように、ブドウ糖が6つ結合して輪になったものが「α-シクロデキストリン(内径0.5~0.6nm)」、7つ結合して輪になったものが「β-シクロデキストリン(内径0.7~0.8nm)」、8つ結合して輪になったものが「γ-シクロデキストリン(内径0.9~1.0nm)」です。
構造的には、ちょうどフタと底のないカップのようなカタチをしていて、内側は親油性、外側は親水性を示します。α-シクロデキストリンは水溶性で難消化性、低粘度、無吸水性、高安定性、無味、無臭、無色といった性質をもちます。熱や酸にも安定していることが認められます。
寺尾:こうした特性をもつことから、α-シクロデキストリンは新食物繊維と称され、代表的な応用利用のひとつに、透明飲料への添加が挙げられます。さらに、α-シクロデキストリンは、すぐれた抗菌性をもつことも明らかにされています。
α、β、γ、それぞれのシクロデキストリンの細菌(バチルスハロデュランス)に対する溶菌作用を調べた試験で、α-シクロデキストリンは、著しく高い溶菌率を示しました(図-3参照)。また、α-シクロデキストリンの各種細菌(ブドウ球菌、大腸菌、セレウス菌など)に対する溶菌作用を調べた試験でも、それぞれの細菌に対して抗菌作用が確認されました(図-4参照)。
シュミット:α-シクロデキストリン摂取によるビフィズス菌の増殖効果も認められています。α-シクロデキストリンを10人の人たちに、1日当たり3g、3週間にわたり摂取してもらったところ、便中のビフィズス菌の平均量が摂取前は約10%だったのが、3倍以上の約35%に増加することが確認されました。
寺尾:私たちの腸内には100~300種類、100~120兆個以上の細菌が棲息しているといわれます。これらの腸内細菌は、その働きによって「善玉菌(ビフィズス菌など)」「悪玉菌(ブドウ球菌など)」「日和見菌(大腸菌など)」に大別されました。日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のバランスに応じて強いほうに味方する、日和見な性質をもつ菌です。ビフィズス菌は善玉菌の代表格で、その大半を占めるとされます。
善玉菌と悪玉菌は常に縄張り争いしている状態にありますから、腸内環境を善玉菌優位にするうえで、ブドウ球菌など悪玉菌が減少し、ビフィズス菌が増加するのは大きな意味をもつわけです。善玉菌優位になると、免疫力の向上、病原菌の感染予防、便秘や下痢の予防・改善、アレルギー疾患の予防、発がんリスクの低下、ビタミンB群・K12などの合成といったさまざまな健康効果が期待できます。
ポール:腸内環境の改善作用ということでいえば、マヌカハニーにも認められ、悪玉菌を減少させる一方、善玉菌を増やし、腸内環境を善玉菌優位の状態に改善することが、各種の試験で確かめられています。
たとえば、[表-3]が示すように、マヌカハニーを単独で摂取しても、マヌカハニーと花粉やローズヒップなどを併用しても、プロバイオティックス(生きて腸に届く経口生菌)の乳酸菌やビフィズス菌など善玉菌は増加し、病原性細菌の大腸菌O-157やサルモネラ菌などは減少しているのがわかります。
シュミット:α-シクロデキストリンにしてもマヌカハニーにしても、このように善玉菌増加・悪玉菌減少の双方に有効に働くということは、いかに素晴らしい腸内環境改善作用をもつかを示すものといえます。
マヌカハニーとα-シクロデキストリンの合体により抗菌性に対する相乗効果を確認
寺尾:MGO、α-シクロデキストリンともに、すぐれた抗菌性と腸内環境改善作用をもつ物質なだけに、これらが合体することで相乗効果が期待できるのではと考察したのが、「マヌカハニー&α-シクロデキストリンの複合粉末化」のスタートでした。
シュミット:それは、シクロケム社がもつノウハウからするとたいして難しい話ではなく、要するに、そもそもα-シクロデキストリンは取り扱いの困難な粘性液体を吸水性の低い安定な粉末にできる性質をもっているわけです。
寺尾:その通りです。ただし、次に問題になるのが、マヌカハニー中の特異的な有効成分であるMGOやシリング酸メチルの含有量に変化がみられるかどうかということです。そこで、私どもでいろいろ試験したところ、「まったく問題ない」という結果を得ることができました。
まず、マヌカハニー中のMGO含有量に変化について調べました。「マヌカハニーMGO550」に対して、「マヌカハニーMGO550&α-シクロデキストリン粉末(SD=スプレードライ:噴霧乾燥)」「マヌカハニーMGO550&α-シクロデキストリン粉末(FD=フリーズドライ:凍結乾燥)」「マヌカハニーMGO550&γ-シクロデキストリン粉末(SD)」「マヌカハニーMGO550&デキストリン粉末(SD)」、それぞれのMGO含有量を測定して調べました。
粉末の製造方法は、MGO(45%)と各種のシクロデキストリン(55%)と水を6000rpm(回転数)で5分間攪拌後、ひと晩静置し、乾燥させています。その結果、粉末化によるMGOの減少はほとんどみられませんでした(図-5参照)。
ヘンレ:抗酸化物質のシリング酸メチルの変化についてはどのように調べたのですか。
寺尾:いずれもシリング酸メチルを14%含有するα、β、γ、それぞれのシクロデキストリン包接体を調製し、それぞれのDPPHラジカル消去活性を検討しました。その結果、「SAME-α-シクロデキストリン包接体」では抗酸化活性能の低下はみられませんでした(図-6参照)。
ポール:α-シクロデキストリンで包接されても、マヌカハニー中のMGOの量や、SAMEの抗酸化作用が低下しないというのは、粉末化に当たり、前提条件が満たされたことになりますね。
寺尾:さらなる問題として、では、マヌカハニーとα-シクロデキストリンの相乗作用は実際に実現しているのかどうかということがあります。それについては、マヌカハニーとα-シクロデキストリンの黄色ブドウ球菌に対する抗菌性の相乗効果について検討しました。[図-7]をみていただくとわかるように、「マヌカハニー(5%)とα-シクロデキストリン(8.7%)水溶液の乾燥粉末」は強力な抗菌性を示します。
また、「マヌカハニー(5%)」「α-シクロデキストリン(4%)」「マヌカハニー(5%)とα-シクロデキストリン(8.7%)水溶液」と比べて、著しい抗菌性の高さが明らかにされています。つまり、マヌカハニーとα-シクロデキストリンの相乗作用が認められることになるわけです。
ヘンレ:なるほど、このふたつの物質はとても興味深い取り合わせですね。先ほど、ケリーから提案された、「マヌカハニー&α-シクロデキストリン複合粉末を牛乳に加えることで、MGOの抗菌性消去を防ぐというのはどうか」という方法は妙案かも知れません。
それをはっきりさせるためにも、MGO&α-シクロデキストリン複合粉末により、MGOとプロテインやアルギニンとのイミダゾール化にどのような変化がみられるかを、共同研究のテーマにぜひ取り上げてほしいと思います。
その他にも、「MGO&α-シクロデキストリン粉末のOPD(オルソーフェニレンジアミン)との反応による解離速度評価」や、「MGO&α-シクロデキストリン粉末の抗菌活性評価、細胞毒性、安定性評価、生体利用能評価」といったテーマでも共同研究を進めていってはいかがでしょうか。
寺尾:アイデアがどんどん出てきますね(笑)。ここはひとまず、各人、一度もち帰って、改めてどのように進めていくのが最善であるかを考えてみることにしたいと思いますが…。
シュミット:それがいいでしょうね。
ポール:マヌカハニー&α-シクロデキストリン複合粉末の製品化に向けて、その卓越した有効性に関して科学的裏付けが明らかされていくことを考えると、これからの展開がたいへん楽しみです。
寺尾:マヌカハニーとα-シクロデキストリンの出会いをより素晴らしいカタチに成就させるために、それぞれの物質を熟知する者同士として、大いに協力していきましょう。今後ともよろしくお願いいたします。