株式会社シクロケム
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高分子微粒子とシクロデキストリンの関係(2)

高分子微粒子の新たな使い方の先導的な研究者でありたい

第2回目は川口先生の研究の足跡を振り返っていただきました。研究者としてのスタートは、高分子微粒子の生成方法や、そのプロセス及びメカニズムの研究でした。その後、生成した高分子微粒子の有効活用の研究に移行します。表面にタンパク質がくっつかない高分子微粒子をつくったのが、新しい仕事の入り口だったとのこと。そして、これまで、いわゆる“硬い粒子”を相手にしていたのに対して、温度をはじめ、pHや塩などの刺激に対して応答する、“柔らかい粒子”を新たに扱うようになります。なかでもユニークなのが、高分子微粒子の表面にヘアをはやしたヘア粒子をつくり、それを駆使した刺激応答性の研究です。高分子微粒子の新たな使い方について先導的な研究者でありたいという思いのもと、まさに「高分子微粒子の総合研究所」を体現している川口先生です。

水とのからみが肝要ということで高分子微粒子とシクロデキストリンは近い存在

寺尾:川口先生は当初、高分子微粒子ができてくる経過を研究の対象にしていて、できてきたものにはまったく興味をもたなかったということでしたね。

川口:そうなんです。それが、前回もお話したように、高分子微粒子の表面を使っていろいろなことを調べた研究成果を知るにつれて、高分子微粒子そのものに関心をもつようになりました。高分子微粒子の表面はどうなっているのだろうか。表面を希望のカタチに設計するにはどのようにつくり方を変えていったらいいのだろうか。そうしたことに、研究のテーマがシフトして行きました。

寺尾:ある種のセレンディピティが発揮されたということですね。ご承知のように、セレンディピティとは、研究をしているなかで、あらかじめ推測したものと異なる現象や物質などに出くわしたとき、それをそのまま捨ててしまうのではなく、「イヤ、待てよ」とひとまず留まり、別の方向から見直すなりして、そこに新しい何かを見出す能力のことです。日本語には、「掘り出し物の才能」などと訳されています。私どものラボのスタッフには、セレンディピティの大切さをよく話しています。

川口:血液などに裸の高分子微粒子を入れると、いろいろなタンパク質がくっ付きやすいという現象がみられます。そこで、タンパク質がくっ付かない高分子微粒子をつくろうというのが、私の新しい仕事の入り口でした。いろいろな表面をもつ高分子微粒子をつくり、それぞれ、どういうタンパク質がくっ付くのか、それともくっ付かないのかを厳密に調べていきました。
ちょうどその頃、タイミングよくというか、日本赤十字社の研究者から、「一緒に仕事をしませんか」と共同研究の申し出がありました。彼らは、血液の付かないプラスチック容器をつくりたいと研究していたのです。

寺尾:タンパク質のくっ付かない高分子をつくるという点で研究が重なり合うわけですね。

川口:微粒子は広い表面積をもつ材料ですから、吸着の場、反応の場、あるいは触媒として使うときも、その広い表面積を有効に活用することが大きな武器となります。つまり、高分子微粒子を使うことで、精度の高い吸着の研究ができますから、彼らが声を掛けてきたのは正解なのです。結果的に、成果をあげることができました。

寺尾:それは、親水性と疎水性をうまくコントロールできるようにしたということですか。

川口:おっしゃる通りです。

寺尾:私どもはシクロデキストリンを扱っているので、何か問題があるといつでも、シクロデキストリンを使うとしたらどういうことになるだろうか、という見方をしてしまいます。かつて、飲料のなかの脂溶性物質がプラスチックの容器に吸着してしまい問題になったことがあります。このときも、プラスチックの高分子側ではなく、飲料のほうに注目しました。
飲料のなかの脂質でも、タンパク質でもいいのですが、疎水性の部分を抑えることができれば、問題の解決に結びつきます。それには何といっても、シクロデキストリンの包接作用が有効に働いてくれます。つまり、ここでも親水性と疎水性をうまくコントロールすることがカギを握るというわけです。

川口:水とのからみが肝要ということでは、高分子微粒子とシクロデキストリンはたいへん近い存在といえますね。高分子のほとんどが炭素を含みます。つまり、疎水的な色彩が必ずあるということです。ここに親水基が入っているかどうかで、高分子の特徴が決まります。それだけに、親水基と疎水基のバランスが大切になります。

グラフト重合で伸ばしていく温度応答性のヘア粒子を精製

寺尾:川口先生の研究は、温度応答性粒子の研究に及んで、さらにまた新しい扉を開けたことになりますね。

川口:温度はもとより、pHや塩などの刺激に対しても応答する微粒子について研究するようになりました。こうした刺激に対して微粒子全体が膨らんだり縮んだりしますから、“柔らかい粒子”を扱うようになったという意味では、新しい分野に踏み入ったといえるでしょうね。それまではオーソドックスな方法で高分子微粒子を生成したり、その表面を利用したりということで、いわゆる“硬い粒子”に取り組んでいたわけです。

寺尾:温度応答性の高分子微粒子としてよく知られているものに、「ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)」(PNIPAM)がありますね。

川口:このPNIPAMにおいて、注目すべきは疎水部のイソプロピル基部分です。こうした疎水部は、水中で周辺の水と否応なく接触しますが、それは水にとっては迷惑な状態といえます。まったくなじみのない炭化水素がくることによって、その周辺の水はしぶしぶそれと接し、隣り合った水と水素結合を形成して、互いに不都合を慰め合いながら存在することになります。「疎水性親和」といわれる状態です。
ところが、温度を上げていくと、イソプロピル基と周りの水の運動が盛んになり、32℃付近(転移温度)で一挙に状態がばらけて水が離れ、イソプロピル基同士が接近して、いわゆる疎水性相互作用をもつようになります。PNIPAMに限らず、多くのアクリルアミド誘導体も同じような特性を示しますが、構造によって転移温度が5~80℃とかなり差があります。セルロースやポリエチレングリコールの誘導体も、ある温度で突然、相状態が転移します。

寺尾:つまり、水和していたものが、温度の上昇とともに脱水和することになるということですね。

川口:そうです。粒子が膨潤状態から収縮状態に変化すると、粒子径や含水量が変化するのはもちろん、粒子の見かけの表面電位や分散液の安定性なども変化します。また、温度が上昇して脱水和することは、粒子表面を疎水化することになり、さまざまなタンパク質や低分子化合物の吸水性などが変化します。親水性、疎水性の変化は細胞への作用にも大きく影響を及ぼすことから、細胞への刺激も温度で変化することになります。

寺尾:温度応答性粒子といえば、微粒子表面にヘアをはやしたヘア粒子をつくったのも、川口先生のお仕事ということでした。

川口:ヘア粒子の製法には、わかりやすくいうと、ヘアを粒子に植え付けていく“植毛タイプ”と、リビングラジカルグラフト重合で少しずつ伸ばしていく“育毛タイプ”があります。育毛タイプはヘアの長さを調整することのできるメリットをもちます。
私がつくったヘア粒子は育毛タイプです。転移温度よりも低いと水となじんでヘアが伸び、高くなると脱水和にともない収縮します。その結果、タンパク質の吸着を例にしていうと、転移温度よりかなり低温でタンパク質が吸着しにくく、転移温度より高温では吸着しやすくなっています。

寺尾:この温度応答性のヘア粒子は、具体的に製品化に応用されるということではどんなところまできているのですか。

川口:[資料1]を見てほしいのですが、ヘアをはやしたPNIPAMゲル粒子の分散液を基板上に落とし乾燥させると、粒子が間隔をあけて並んだ二次元配列体が簡単に得られます。粒子の間隔は膨潤状態の排除体積を反映したもので、ゲル粒子がその位置にとどまりながら乾燥に伴い収縮した結果です。

川口:ところで、基板上にこの分散液を「ABC」の字を描きながら落としていき、これを乾燥させたものに斜めから光を照射すると、ある色だけが出たり、消えたりします。同じ対象でも、色は観察する角度に応じて変化します[資料2参照]。実は、この研究に関して、米国の色彩関係の雑誌『Photonics』に、「描字・描画のための道具『コロイドインク』として使えそう」と紹介されました。雑誌が発売されたあと、問い合わせが2件ありましたが、残念ながら、そこからは発展がないままです(笑)。

寺尾:育毛タイプのヘア粒子では、ヘアの長さが調整できるということでしたが、短いヘア粒子を使用すると、どんな研究が可能になるのですか。

川口:一例を挙げてみます。まず微粒子にタンパク質を吸着させて、それから、このタンパク質の厚さに見合うような短いヘア(ナノヘア/ナノメートル=10億分の1メートル)をはやして層をつくります。このとき、ヘアを架橋して動かないようにして、タンパク質を取り除きます。こうすると、タンパク質のカタチが残りますから、そこに、同じタンパク質なら入れることができるというわけです。つまり、短いヘアは分離材料として使えるということです。これは、(株)資生堂との共同研究で明らかにしたもので、特許になっています。

川口:こうしてこれまでの研究についてお聞きかせいただくと、川口先生が何かのインタビューに応えて、「私はいってみれば、高分子微粒子の総合研究所みたいなものです」「高分子微粒子の新たな使い方について先導的研究者でありたいと思っています」と述べられていた意味が改めてよくわかりました(笑)。


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