株式会社シクロケム
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サプリメントの現代事情とシクロデキストリン(1)

Coq10とγ-シクロデキストリンは絶妙無比な組み合わせ

健康食品の品質を高めたり、環境汚染の改善に貢献したりとシクロデキストリンの応用範囲は広い。薬剤の専門家でありサプリメントにも詳しい堀美智子先生をゲストに迎えた第1回目の今回は、サプリメントの位置づけやγ-シクロデキストリンで包接されたCoQ10の特性などを中心に話し合いました。

2008年6月掲載(この記事の内容は取材当時の情報です。)

堀 美智子さん

医療情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役 医薬情報部門責任者

名城大学薬学部薬学科卒業・同薬学部専攻科修了。名城大学薬学部医療情報室・帝京大学薬学部医薬情報室に20年間勤務の後、'98年医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー設立に参加。東京都八王子市にアンテナショップとして開設した公園前薬局を運営しながら、各種データベースの作成や書籍の執筆に携わっている。'98~'02年日本薬剤師会常務理事を務める。現在、東北薬科大学非常勤講師。ラジオや新聞でも活躍。著書に『サプリメント大辞典(保健同人社刊)』『OTC 薬ガイドブック(じほう刊)』などが多数がある。

寺尾啓二

(株)シクロケム代表取締役 工学博士 

'86年京都大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は勇気合成化学。ドイツワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、'02年(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工業副会長などを兼任。趣味はテニス。

サプリメントは足りない物質を補うモノ 摂り続けて健康の保持に役立てるのが基本

寺尾:周知の通り、近年ますます、一般の人たちのサプリメントへの関心は高くなっています。しかし、医薬品と混同している人も少なくないようです。そういう人はサプリメントを摂り続けているうちに体調が改善されると、「あの“薬”のおかげで、治ることができました。助かりました」といって、それっきり摂取するのを止めてしまうんですね。

堀:サプリメントは加齢などに伴い、体内での生成量が減ってきたり、食事の量が少なくなったりすることで必要な物質が不足する場合、それを補うものです。薬ではなく、あくまでも『食品』に分類されます。ですから、体調の変化に注意しながら摂り続ける(補い続ける)ことが大切になるわけです。

寺尾:サプリメントは医薬品に近い働きをするものであっても、“足りない物質を補うモノ”という認識が肝要。摂り続けて、健康の保持に役立てるのが基本と考えてほしいですね。

堀:私自身、更年期を迎えて、CoQ10(コエンザイムQ10)と大豆イソフラボンを摂りはじめました。間もなくすると、ちょっと動いても心臓の動悸を強く感じていたのが改善されて、やはり不足していたのだと実感しました。

寺尾:CoQ10の2大作用は「エネルギーの生産を促し、細胞を活性化する」、「強力な抗酸化作用があり、活性酸素を除去する」こと。つまり、私たちの体を構成する各細胞を活性化・強化する働きがあり、“100年に1度の逸材”と称されるほどの素晴らしい素材です。
日本でも数年前にブームになり、年間約40t消費されていました。しかし、現在ではその半分ほどに落ちています。それに対して米国では190~200tに及び、しかも毎年10%ほどの上昇をみています。
この違いはどこからくるからというと、何といっても1日の摂取量の違いにあると思われます。米国では1日300~500mgを摂取するので、その効力をつぶさに体感できるわけです。それに対して、日本では通常、1日30mgに留まります。かつてCoQ10は医薬品の扱いで、2001年に食品として利用が認められました。医薬品としての投与が1日30mgであったことから、食品となっても、これまでのところ、この摂取量が好ましいとされているのです。もちろん、メーカー側から厚生労働省に、1日800mgの摂取でも安全であることを示す評価データなどを提出していますが、なかなかラチが開かないという事情があります。

堀:CoQ10がブームで終わってしまった最大の理由は、若い人をターゲットに美容効果をアピールしたことにあると思います。20代は若さの盛りで、そもそもCoQ10を補う必要がほとんどない方たちが使用し効果をあまり実感できなかったのではないか、と思います。ところが、中高年になり、体内でのCoQ10の生成量が減少してくると、たとえ1日30mgでも補給を続けていくことで、その力を体感できることになります。太って息切れしやすくなったり、足がむくみやすくなったりしたら、それはCoQ10が不足している可能性を示しているのかも知れません。
さらにもうひとつ、ブームが去った理由に、サプリメント業界の問題があります。いろいろな調査結果から、表示通りに成分が入っていなかったり、まったく溶けないものだったり、製剤的に不良品が判明したことがありました。もちろん、医薬品並に臨床試験を行ない安全性をチェックしているメーカーもあるのはいうまでもありません。こうした業界の玉石混淆ぶりが、ブームに水を掛けたであろうことは十分に推測できます。

寺尾:薬事法の関係で、いかにエビデンス(科学的根拠)をとっていても、サプリメントの効果・効能を表現することはできません。その結果、消費者にきちんとした情報が伝わらないことになります。ここが、悪徳業者のつけいる点でもあるわけです。だからといって、頭を抱えているだけでなく、メーカー側でもホームページを立ち上げて素材や加工技術などについてわかりやすく説明するなど、できる範囲で前向きな対策を講じることが不可欠だろうとは思います。


CoQ10はγ-シクロデキストリンに包接されることでその弱点をほとんど克服

堀:例えばCoQ10にしても、各社から販売されており、どれを選んだらいいか、悩むところです。きちんとしたカタチで補いたいと思うと、薬剤師の視点から、どうしても医薬品的な情報が欲しくなります。溶けるのだろうか、吸収されるのだろうか、血液の中に入っていくのだろうかと。シクロデキストリンで包接されたCoQ10が、その他のCoQ10とどれだけ違っているかを知ったとき、本当に驚き、感激しました。

寺尾:シクロデキストリンはブドウ糖が環状に連なり、ちょうどフタと底のない小さなカップのような構造になっていて、その内部空洞に中にさまざまな分子を取り込む性質をもっています。この現象が『包接』です。CoQ10はγ-シクロデキストリンに包接されることで、CoQ10の問題点のほとんどを克服することを可能にしました。ちなみに、シクロデキストリンにはα、β、γの3種類あって、ブドウ糖が6つ連なって環状になったものがα-シクロデキストリン、7つ連なったものがβ-シクロデキストリン、8つ連なったものがγ-シクロデキストリンです。

堀:CoQ10は脂溶性なので、水に溶けにくいため、体内での分散が悪く、吸収性がよくないといわれます。それが、γ-シクロデキストリンに包接されることで、吸収性を大幅に改善させることができるということでしたよね。

寺尾:γ-シクロデキストリンはカップ状であると述べましたが、その内側は親油性で、逆に外側は親水性というつくりになっています。ですから、γ-シクロデキストリンは、内部空洞に脂溶性のCoQ10を取り込み、しかも胃腸内の水分によく分散することができます。
なお、γ-シクロデキストリンには、包接された物質を徐々に放出する『徐放』という働きもあります。腸内ではこの徐放の作用により、CoQ10を包接したγ-シクロデキストリンからCoQ10が飛び出し、腸壁から吸収されることになります。これが、γ-シクロデキストリンに包接されたCoQ10が優れた吸収性を発揮するしくみです。CoQ10を放出したγ-シクロデキストリンはやがてアミラーゼによって消化されてしまいます。

堀:CoQ10が光や熱に非常に弱かったり、また他のビタミン類や抗酸化物質と一緒になると配合変化を招きやすいといった問題点も、γ-シクロデキストリンに包接されることでほとんど改善されるという事実には驚きました。

寺尾:ありがとうございます。CoQ10とγ-シクロデキストリンの合体は絶妙無比な組み合わせであり、多くの人の健康に役立つものであると確信するものです。シクロデキストリンの素晴らしさを如実に物語る開発であったと自負しております。次回は、γ-シクロデキストリンに包接されたCoQ10の特徴をより詳しく、話し合ってみたいと思います。

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