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スーパービタミンE“トコトリエノール”の可能性(1)

抗酸化作用だけにとどまらないトコトリエノールの多様性に着目

今回のゲストは、東洋大学生命科学部食環境科学科で「がん補完・代替医療に有効な食品機能性成分の検索とその作用機構の解明」という研究テーマに取り組んでいる矢野友啓先生。前職の国立健康・栄養研究所では、約20年にわたってがん制御遺伝子の機能解明や食品由来成分による新たな予防・治療法について研究してきた矢野先生は、栄養学的・薬理学的な視点でのサプリメントの有効性についても研究を進めています。そういった研究のなかで近年注目しているのが、抗酸化力の高さで知られるスーパービタミンE「トコトリエノール」。第1回目では、矢野先生がトコトリエノール研究に至った経緯を紐解きつつ、トコトリエノールの魅力を明らかにしていきます。

矢野 友啓さん

東洋大学 生命科学部 食環境科学科 教授・薬学博士

1987年、千葉大学大学院薬学研究科総合薬品科学専攻博士課程修了。薬学博士取得。横浜市立大学医学部を経て、1991年、国立健康・栄養研究所応用食品部に入所。研究員、主任研究官、室長を経て、1998年から2年間、仏リヨンのWHO・国際癌研究機構(IARC)に客員研究員として出向。帰国後、独立行政法人国立健康・栄養研究所 食品保健機能研究系室長、食品健康保健機能プログラムプロジェクトリーダーとして従事。2011年、東洋大学生命科学部食環境科学科教授に就任し、現在に至る。現在の専門分野は「がん病態生化学」「がん補完代替医療学」「食品機能学」で、「がん補完・代替医療に有効な食品機能性成分の検索とその作用機構の解明」「がん抑制遺伝子機能に立脚したがん予防・治療法の構築」といった研究テーマに取り組んでいる。「ビタミンEのシクロデキストリン(CD)包接による生理活性増強効果」(「生化学」2009年)など、シクロデキストリン包接に関する研究論文も数編発表している。

寺尾啓二

(株)シクロケム代表取締役 工学博士 

'86年京都大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は勇気合成化学。ドイツワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、'02年(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工業副会長などを兼任。趣味はテニス。

抗がん活性をはじめとしたビタミンEの新たな機能性を探索

寺尾:まずは矢野先生のこれまでの経歴などを教えていただけますか。

矢野:千葉大学大学院で薬学博士を取得しました。私がいた研究室では、薬理学と毒性学をやっていて、私は抗うつ薬の副作用を調べていて、抗うつ薬から出る毒性が影響するのがたまたま肺だったために肺に興味を持つようになりました。その頃、知り合いをがんで亡くしたりもしたので、そこからがんに関する研究を始め、横浜市立大学で肺がんの動物モデルを研究している先生のところで2年ほど勉強させてもらい、その後、予防医学を志すようになって厚生労働省の栄養研究所(現健康・栄養研究所)の食品部門で20年近く研究をさせてもらっていました。
その間、ビタミンEや大豆由来の機能性成分を中心に研究し、その後2年間フランスの国際がん研究センターでがん抑制遺伝子の機能や分子生物学的手法などを学び、トータルでがんの病態制御を研究してきました。平成23年に東洋大学に来てからは、がんの予防や代替医療成分を少し変えたような形など、新しい切り口での治療法の開拓などを行っています。

寺尾:かつてビタミンEといえばトコフェロールが主役でしたが、近年ではもうひとつのビタミンE(構造類似体)である“トコトリエノール”の注目度が大いに高まっています。矢野先生もトコトリエノールに関する研究をされていますが、どういった経緯でトコトリエノールを研究するようになったのですか。

矢野:初めてトコトリエノールを扱ったのは、前職である厚生労働省の国立健康・栄養研究所に勤務していた90年代後半です。といっても、当時はビタミンEというとトコフェロールが主流でしたので、トコフェロールの4つの構造類似体(αアルファ、βベータ、γガンマ、δデルタ)のなかで最も生体利用性が高かったαトコフェロールを使っていました。私は横浜市立大学で肺がんの発がんモデルについて研究していたこともあり、がん予防という観点から、優れた抗酸化成分をはじめとした多様な機能性を捉えてみようと考えたのです。そこで、ビタミンEを過剰に加えたエサを肺がん発生モデルマウスに与えてみてどのような効果があるかを調べてみたところ、従来言われてきたビタミンEの抗酸化力とは別のはたらきによって発がんリスクを抑制していることが分かってきました。ただし、そのままの状態のαトコフェロールでは効果が出ないという論文もあったため、その論文のやり方を参考にエーテル結合によってOH部分をシャットアウトしたビタミンE化合物を作って調べています。その結果、in vivoではなかなか証明されませんでしたが、コハク酸をエーテル結合させたαトコフェロールを与えた肺がんモデルの発がんの過程で、発がんプロモーションに関わるようなマーカーを抑えることが分かりました。

寺尾:その頃はまだトコトリエノールではなく、αトコフェロールで研究を進められていたのですね。

矢野:当時はまだトコトリエノールが手に入りにくいうえに、生体利用性が低いという理由もあって、トコトリエノールでの研究は難しかったですね。ですが、その後アスベスト曝露によって起こる中皮腫が社会問題になり、私もがん治療研究の一環として中皮腫をターゲットとした研究に参加したのですが、そのときにトコトリエノールを扱えるようになりました。中皮腫はシスプラチンなどの抗がん剤がまったく効かず、診断されてからの生存率が大変低い病気です。固形腫瘍のなかでももっとも悪性度が高いとされているため、代替医療として使える医療成分としてトコトリエノールを選択し、中皮腫に効くかどうかを試してみました。そのときは比較的手に入りやすいαトコトリエノールを使いましたが、αトコトリエノールはγやδに比べて抗酸化作用や抗がん作用がとても低い。しかし、それをトコフェロールのときと同じように、コハク酸によるエーテル誘導体にしてみたところ、あくまでも細胞培養での話ですが、抗がん剤がまったく効かない中皮腫であるにもかかわらず血中濃度で到達可能な数マイクロレベルで十分な抗がん作用がありました。
このように良い結果が出たものの、エーテル結合をさせた化合物の場合、たとえ予防や代替医療に使うとしても、新薬と同じ医薬品とみなされてしまいます。それをどうにかしたいと思ったときに出会ったのがシクロデキストリンによる包接体でした。包接体にすることで吸収率を高めれば、トコトリエノールの抗酸化に依存しない構造的な抗がん作用を強化できるかもしれません。そこで、いろいろな企業や先生たちに声を掛け、生活習慣病全般に対する包接トコトリエノールの効果を調べてみようと始まったのが、寺尾さんとの出会いのきっかけとなった厚生労働省の政策創薬総合研究事業における共同プロジェクトです。

寺尾:企業にとってみれば、自社だけで研究開発費を負担することなく、このような大きなプロジェクトに参加させてもらえるというのは大きなチャンスでした。といっても、あの頃の私は、トコトリエノールにはまるで注目していなくて、矢野先生とのプロジェクトをきっかけに深く知るようになりました。ある方の勧めでプロジェクトに参加することになったわけですが、参加を決めた理由としては、トコトリエノールの機能性に興味があったことはもちろんのこと、コエンザイムQ10やクルクミンのように限られた脂溶性物質だけが包接化によって生体利用能が向上するのではなく、広く様々な機能性物質に利用できるナノ技術であることを分かってもらいたいという気持ちの方が大きかったからです。実際に参加してみてトコトリエノールの面白さが良くわかりました。

矢野:たとえば、プロジェクトのひとつとして名古屋学芸大学の池田彩子教授が行った研究では、トコトリエノールを包接化して吸収効率が上がると、栄養仕様が改善されるという結果が出ました。また、静岡県立大学の大島寛史教授の研究では、細菌毒素を注入してエンドトキシンショックを起こした場合の延命率を調べたところ、包接化したほうが明らかに効果が上がるということが分かりました。エンドトキシンショックによる炎症性疾患にはNOXなどが関係しているといわれていますが、トコトリエノールにはそういった物質を抑制する効果があるようで、包接化して吸収が良くなることで効果も高まったのだと考えられます。

寺尾:あのプロジェクトでは、オリザ油化が作った米由来のγトコトリエノールを使いました。しかし、工業化されているトコトリエノールにはトコフェロールが含まれているため、極力トコフェロールを取り除いてもらった高価なトコトリエノールを使いましたね。

矢野:トコフェロールはトコトリエノールのはたらきを阻害することが分かっているので、特別に取り除いてもらったのです。そのおかげで、純粋なトコトリエノールのはたらきを見ることができました。私が行っていた中皮腫の研究はプロジェクト終了後も継続し、良いデータを得るのに時間がかかりましたが、やはりフリーのトコトリエノールよりも包接体のほうが腫瘍組織での貯留量が45~50%ほど上昇し、腫瘍の大きさも3~4割程度小さくなるなど、貯留量との相関が認められました。また、包接トコトリエノールによって中皮腫の増殖に関わる血管新生などのパラメータが遺伝子レベルで抑えられるということを一昨年の国際学会で発表しています。
このように、あくまでも実験レベルではありますが、包接トコトリエノールはがん治療にも使えることが分かりましたし、がん以外にも急性の慢性疾患、急性の炎症性疾患、生活習慣病などにも効果があると考えられます。こうした結果が得られたのですから、プロジェクトとしては大成功だったのではないでしょうか。しかも、寺尾さんのシクロデキストリン研究に対しても波及効果があったそうですね。

寺尾:包接コエンザイムQ10もそうですが、包接化することで吸収性が高まることは明らかでしたが、実はそのメカニズムは良くわかっていませんでした。特に謎だったのが、水にまったく溶けないものが、どうして腸管吸収できるのか。そのヒントがあのプロジェクトの池田教授の研究にありました。
池田教授は腸内での吸収性の初期評価として腸内と同じ環境を試験管内に整えるために水と油のほか胆汁酸やたんぱくも加えていました。すると、胆汁酸を入れたところでガラッと様子が変わったのを見て、私はひらめいたのです。それまでは包接化して安定性を高めた結果として吸収性が向上すると考えていましたが、実際はそれだけではなかった。調べてみると、胆汁酸とγ-シクロデキストリンは非常に結合定数が高く、水の中では安定的に包接されているトコトリエノールやコエンザイムQ10といったものが、腸内では胆汁酸に入れ替わっていたのです。
胆汁酸によって入れ替わった胆汁酸の包接体は水溶性ですのでγ-シクロデキストリンは消化酵素によって分解されます。一方で、包接体から出されてしまったトコトリエノールやコエンザイムQ10はまた再び凝集してしまうはずですが、そこには胆汁酸が界面活性剤として存在するので凝集は起こらず、都合よく分子ミセルを形成し、その結果、吸収性が高まったと考えられます。本来コエンザイムQ10が吸収されにくいのは、水の中ではサイズの大きな凝集体になってしまうからです。ところが、包接体は1ナノメートルのナノカプセルです。吸収性を高めたとされている市販の油脂系乳化剤を用いた水溶性コエンザイムQ10粒子の直径は100ナノメートルですので、3次元の球体で考えると包接体はその100万分の1のサイズです。その世界で最も小さいナノカプセルの吸収性向上に胆汁酸が関与していることが池田教授の検討がヒントとなって解明されたのでした。

矢野:そういえば、随分熱心に質問されていましたね。私は栄養学の授業もやっていますが、胆汁酸のポテンシャルがすばらしいとは、大変参考になります。


研究レベルから一歩進んで工業レベルでの発展にも期待

寺尾:その後再びコエンザイムQ10に立ち戻って、胆汁酸を加えて溶解度がどれくらい上がるかを調べたところ、明らかに上がるわけです。世の中では物理的に小さくしていってコーティングしたのが100ナノメートル以下であればナノテクノロジーと呼ばれていますが、1ナノメートルサイズのシクロデキストリン包接化こそ真のナノテクですと胸を張って言えるようになったのもあのプロジェクトのおかげです(笑)。
そして、3年間のプロジェクトが終わった後も、別のご縁で大阪市立大学の西川禎一教授とトコトリエノールの共同研究を行うことになりました。もとはQ10からスタートしたもので、延命効果に関する線虫を使った研究です。延命といえば今やレスベラトロールがもっとも有名ですが、延命効果となると大量に使用する必要があります。ところが、西川教授の研究ではレスベラトロールと比べても、トコトリエノールでかなりいいデータが出た。そこで、トコトリエノールについてさらに詳しく調べようということで包接化の部分で私も協力することになりました。
この共同研究でも、α、β、γ、δという4種類のピュアなトコトリエノールを用いることになりました。原料費だけでもかなり高額です。そういった材料でも大学との共同研究では使わせてもらえるので本当にありがたいものでした。材料に関してはそこからさらに嬉しいことがありました。アメリカのトコトリエノール研究会に招待された西川先生が、南米産のアナトーという植物からつくられたトコトリエノールを紹介されたそうなのですが、このアナトー由来のトコトリエノールが素晴らしいのです。現在日本で入手できるトコトリエノールは米由来またはパーム(ヤシ)由来ですが、どちらもトコフェロールが含まれています。ところが、アナトー由来のものはほとんどトコフェロールを含まず、しかもその90%は4つの構造類似体のなかでもっとも抗酸化力などが高いとされるδトコトリエノール、残り10%が次に高いγトコトリエノールなのです。ですから、今後はアナトー由来のものを使っていきたいと考えています。

矢野:それでいいのだと思いますよ。工業化と研究にはどうしてもギャップがあり、経済的な問題は絶対に存在しますが、研究者という立場では有効なものが手に入ればそれでいいのです。今ある素材ではどうしてもαトコフェロールが含まれてしまうため、私は常に効果に対しては疑問を感じています。ですから、αトコフェロールを含まないピュアなトコトリエノールがあり、それが工業的に供給できるならそれがベストではないですか。
そのトコトリエノールがα、β、γ、δのどれを主成分にするのであれ、活性が高いものが主成分であるほど効果が高く、さらに包接化することで生体利用性が向上して人でも機能性を活用できるようになる。そうなれば本当の意味での代替医療成分、予防成分として使えるようになるのだと期待しています。
基礎研究レベルならいくらでもデータは出せるでしょうけれど、それを実用化するときにはどうか。細胞レベルでOKでも、動物実験、ヒトではどうか、安全性は大丈夫なのかという段階があります。そのときにピュアな材料を使って、医薬品として保険点数をつけるというやり方もあるでしょうが、そうではなく、医療費の削減や経済的な問題をクリアするためにも企業には工業化を頑張ってもらって、普及させることが大事でしょう。機能性に関する学術研究であれば、日本は世界でもトップレベルにありますからいくらでも進められます。それをいかに素材として商品化して、多くの人に供給できるか、一番大事なのはそこだと思います。それをやる上で、工学やサイエンスを理解されている寺尾さんのような存在は、研究者としても大変ありがたい。

寺尾:今日はそのお話を聞けただけで、ずっとやってきたことが報われた思いです(笑)。では、次回ではもう少しトコトリエノールの機能性の部分についてお話を伺いたいと思います。

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