株式会社シクロケム
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サイエンストーク科学の現場
スーパービタミンE“トコトリエノール”の可能性(3)

安全性と安定性の確立を進め、予防・治療まで視野に入れた製品化を

トコトリエノールについては、分子レベルでのメカニズム解明と併せて、実際の予防・治療を視野に入れたプロトコールづくりを進めていく段階にあると話す矢野先生。ふたりが出会ったプロジェクトから時を経て、さらに純度が高いアナトー由来のトコトリエノールが作れるようになったこともあり、一気に製品化への道筋もできてきました。ただし、いかに生体での安全性が確かな成分であっても、サプリメントとして作るからには安定性の高さを十分に追及するべきという点を揃って強調しています。そして、具体的な次なる一歩に向けて、再び協力し合って研究を進めていくことを約束して、熱い「サイエンストーク」は幕となりました。

酸化活性の高さは壊れやすさとイコール 包接化によって機能性をさらに高める

寺尾:今までトコトリエノールの優れたところばかりを見てきましたが、生体におけるデメリットなどはないのでしょうか。

矢野:マイナス部分はほとんどないといえますが、国立衛生試験場の食品医薬品安全研究所の安全研究の毒性学グループによる研究では、ラットに通常の数百倍の量を2年くらい継続して摂取させると、肝臓の前癌病変ができるというデータがありました。しかし、それだけ大量のものを数年にわたって摂取すれば当たり前のことで、常識的に考えて安全です。また、脂溶性ビタミンであるビタミンEは脂成分を多めに摂ることになるので、大量・長期摂取で脂肪肝リスクが若干上がるという報告もあります。しかし、これも人では問題なく、ラットで実験した場合の結果ですから、やはり安全だと言えます。
ただし、その成分自体は安全だとしても、複合曝露されたときの安全性まで担保できるのかどうか、毒性学的視点から見てみることも大切です。私は薬物代謝について研究していたこともあるので特に気になるのですが、異物であるトコトリエノールを多量に長期間摂取すると、肝臓の薬物代謝機能のパターンが変わってしまう恐れがあります。そのとき出てきた分子種のパターンによっては、本来なら誘導されない前癌病変を活性して発がんリスクを上げてしまうということもゼロだとは言い切れません。とはいえ、これはかなり非現実的な話で、現実的にはほぼ安全だといえます。
トコトリエノールについてはすでに人でも試験がされていますし、私が知る限りネガティブなデータはありません。私がトコトリエノールで研究しようと思っている理由も、こうした安全性の高さからです。ほかのファイトケミカルでは分からないところがたくさんありますし、食経験もそれほどないから安全を担保できる摂取量を設定することができません。それではサプリメント化は難しい。それならば、レスベラトロールに匹敵する機能性を持つトコトリエノールを開発して製品化したほうが安全で、かつ早く世の中に供給できます。それは私のポリシーでもあるのです。

寺尾:トコトリエノールは、すでにDHCや小林製薬で製品化されていますね。

矢野:サントリーでもセサミンプラスでごく少量トコトリエノールが添加されていますが、それらにはαトコフェロールが含まれていると思います。

寺尾:やはりトコフェロールを取り除いて、できるだけピュアなトコトリエノールであることが理想です。日本ではまだほとんど知られていませんが、アナトーならばトコフェロールを含まないピュアな状態で生成できる。これは製品化を進めるうえで大変大きなポイントになると思います。

矢野:工業面でもそうですが、アカデミックの世界でもトコトリエノールへの注目度は急激に高まっています。トコトリエノール関連の論文は、ここ数年で数十倍にも増えています。がんとトコトリエノールに関する論文は、以前であれば年数編ほどだったのに、今では月に数10編出ているような印象があります。それだけトコトリエノールの機能性が多様で面白いということ、さらにトコトリエノールが生成されて研究レベルでも入手しやすくなったことが影響していると思います。先ほど申し上げたように安全性も分かっているから、利用しやすいという点もメリットのひとつでしょう。寺尾さんに聞いて今日初めて知りましたが、美白効果があるのなら、今後さらに製品化が進むでしょうね。

寺尾:メラニン合成に関与する酵素であるチロシナーゼとその関連タンパク質を減少させるため、シミやそばかすの予防と改善、さらに美白効果も期待できるのです。しかも、名古屋学芸大学の池田教授の研究によると、トコフェロールを摂取後肌に吸収される割合は1%であるのに対して、トコトリエノールの場合は15%が吸収されるのだそうです。その中には色素細胞に有効に働いているというデータもありました。そういった研究成果からも、肌に対するトコトリエノールの有効性が見えてきます。もちろん、肌にとってもトコトリエノールの抗酸化力は有効ですし。

矢野:今後ますます老齢化が進むことを考えると、脳疾患に対する効果にも期待したいですね。アルツハイマーの発症とトコトリエノール摂取の関連を調べた疫学調査はないので実際には分かりませんが、理論的にはアルツハイマーをはじめとした脳の老化に対する予防効果など、何かありそうな気がしますよね。

寺尾:ですから、私が書いた本では、タイトルに「肌と心と体の健康増進に」と付けたのです(笑)。しかし、機能性および抗酸化力が高いということは、それだけ酸化還元反応が起こりやすいということ。これはトコトリエノールに限らずあらゆるサプリメントにおける課題でもあります。サプリメントとして摂取される前は十分に安定性を保っておき、摂取して体内に吸収された後、体内でのみ必要とされる酸化還元反応を起こさなければいけません。ところが、不安定な抗酸化物質、たとえば、還元型コエンザイムQ10など常温で空気中に放置するだけで酸化されてしまうし、ほかの物質に変化する可能性も高くなってしまう。つまり、抗酸化力が高ければ高いほど壊れやすいのです。そういう問題に対して、効果を発揮するのがシクロデキストリンによる包接化です。
一般的にサプリメントメーカーは「こんなに効きます」といったプラスのポイントしかアピールしませんが、私は「還元型は壊れやすい」というマイナス部分を明らかにしたうえで、「シクロデキストリン包接なら安定化できる」と伝えるべきだと思っています。私たちがやっているのはネガティブなものをノン・ネガティブにする技術で、世の中的には大したことではないと思われがちですが、実はとても大切なことです。医薬品であれば、製剤化するときの安定性は必ずクリアしておかなければ販売できませんが、機能性食品やサプリメントでは「これは効く」という部分だけで作って販売できてしまう。たとえばコエンザイムQ10とコラーゲンなどを混ぜたタブレットなどが多数販売されていますが、コエンザイムQ10はアミノ酸などに大変反応しやすいため、タブレットを作って1ヶ月もすればコエンザイムQ10の割合は70%程度まで減少しているはずです。そういったことは今後トコトリエノールでも起こりうるはずですから、包接化によって安定的な製品を作っていかなければいけません。


単一成分では安全だと分かっていても異なる条件下で安全性・安定性を確認

矢野:トコトリエノールはトコフェロールに比べて、in vitroで50倍もの抗酸化能があると言われていて、その分生体内でも酸化されやすいという特性があります。そして、側鎖に肝臓や小腸などで分解されてしまう部分があり、酵素系による分解は防げません。私は化学の専門家ではないのでその辺は詳しくないのですが、栄養学の常識からすると、脂溶性のビタミンEの酸化還元反応が起こるときには、ビタミンCやグルタチオンといった水溶性ビタミンが必要だとされています。栄養士さんに指導する際にもよく話すことで、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンをサプリメントで与えるなら、その5倍程度の水溶性のビタミンCを一緒に摂る。そういったことが安定な還元型構造を保つ一つのヒントになるのではないでしょうか。

寺尾:なるほど、それは参考になります。そういったノウハウがあれば、トコトリエノールについてさらに一歩進んだ応用範囲まで考えられるようになりますね。

矢野:そうだと思います。こういったことはまだin vitroレベルで、in vivoでは間接的な結果しか得られていませんが、理論的に配合を考えて複合的にサプリメントを摂取すれば、トコトリエノールを安定させた状態のまま生体内で機能させることができるのではないかと思っています。
少し古い話ですが、「フィンランドショック」という有名な話があります。ベータカロテンに肺がん抑制効果があるというデータを受け、1994年、フィンランドで約3万人の男性喫煙者を対象に大規模な栄養介入試験が行われました。そして、5~8年間かけて肺がんリスクを調べたところ、ベータカロテンを摂取したグループのほうが、摂取しなかったグループよりも肺がん発症のリスクが大幅に上がってしまい、この試験は中止になったのです。これにより単一成分による過剰摂取は非常に危険であると認識されることになりました。実際、日本のがん予防の大家である京都府立大学の西野先生の研究では、肝臓がんの再発リスクを低減するためにベータカロテンをはじめとした複数のカルチノイド複合体を作り少量づつ使用したところ、再発率低減につながったという結果が出ています。
複合的かつ理論的な根拠に基づいた安全なサプリメントならば、生活習慣病の予防はもちろん、場合によっては治療に役立てる可能性も出てきます。注目されるのは単一成分が持つ作用ですけれど、それだけを人の体内に入れるとその成分だけが増えてアンバランスになってしまいます。それをいかにしてうまく再利用して安定的に使えるような方法を考える。そういう組成を考え、動物実験や人での実験を進めていかなければいけません。

寺尾:予防で使うか、治療で使うかによっても考えるべき視点は変わってきますね。たとえば治療であれば短期間に集中して大量投与することも可能かもしれませんが、予防ということになれば継続して飲み続けなければならないので生体内のバランスを考えることが大変重要になるでしょうから。

矢野:その辺は特保の栄養機能性食品制度というものがあり、ビタミンEならこれくらいというように摂取量が定められていますから、その範囲内で治まるような配合で作っていくことだと思います。特にビタミンやミネラルなどある程度組成が分かっているものについては、国や厚生労働省で上限値・下限値を決めて推奨していて、その基準に基づいて市販のサプリメントも作られています。
個人的には、食事からではどうしても不足しがちな栄養素については若いうちからサプリメントなどで補っていくことで、生活習慣病予防や老化スピードを緩めることになるのではないかと期待しています。もちろん、サプリメントの過剰摂取はかえって疾病リスクを高めることもありますからダメですけれど、考えられる科学的根拠に基づいた摂取量を守り、女性であればお肌の曲がり角が気になるくらいの年齢からやっていく。それが老齢社会を迎える今にあって大事なことです。さらにトコトリエノールに関しては、日頃から摂取することで予防的に使うということだけでなく、40~60代の生活習慣病リスクが高い“グレーゾーン”の人たちに治療に極めて近い段階での予防として使ってもらえると、かなり効果的だと思います。

寺尾:私たちが出会ったプロジェクトでは米由来のトコトリエノールから始まり、最近ではトコフェロールを排したアナトー由来のものが出てきました。しかも、アナトー由来のトコトリエノールは、γ、δ、それぞれにリッチなものまで作ることができます。しかし、それぞれに対しての評価という点についてはまだまだこれからですから、ぜひともまた矢野先生にご協力いただきたいと思っています。

矢野:こちらこそ、ぜひともよろしくお願いします。私の専門で言うと、細胞培養レベルでの抗がん作用については、α、β、γ、δという4種類の異性体のなかではδが一番強いように思います。ですから、δとγを主成分とするアナトー由来のトコトリエノールのミクスチャーは非常に強い武器になると思います。ただし、残念なことに、γとδは血中濃度では上がってこないので、まず一気に上げておいて下がってきたら追加するというように、体内動態を見ながら投薬のプロトコールを作っていかなければなりません。そして、安全性に問題ないことを確認して、血中レベルを維持する投薬パターンができれば、非常に良い代替医療成分になると思います。その辺はこれからお医者さんにやってもらって、被験者の人に協力してもらった体内動態試験をする必要があります。それで一定レベルにできるプロトコールができれば問題ありませんし、そのときにも包接化が大変重要だと考えています。

寺尾:今、神戸大学の医学部でリポ酸を中心に進めている臨床研究がありますが、そこにトコトリエノールを入れ込めるといいですね。

矢野:できたら大変面白いと思います。それで血中コレステロールなどが血中レベルで問題なければ、包接体を服用した場合の体内動態とそのレベル、血中コレステロールの下がり方を見ることで、アナトー由来の包接トコトリエノールの最適なプロトコールができるのではないかと思います。

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