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スーパービタミンE“トコトリエノール”の可能性(2)

神経細胞防御、美白効果、抗炎症など 知られていないトコトリエノールの力

非常に強力な抗酸化力を持つトコトリエノールは、肌の美しさ維持や脳の神経細胞の老化抑制にも効果があると言われています。また、抗酸化に依存しない部分での抗がん活性、放射線障害の低減・改善、抗炎症作用など、さまざまな健康増進効果があることも分かってきました。しかも、γ-シクロデキストリンによる包接化を行い、トコトリエノールの安定性と吸収性を高めることで、これらの効果を高めることが可能になるのです。あまりに多様な機能を示すトコトリエノールだけに、分子レベルでのメカニズムはまだ解明されていませんが、アイデアとヒントは多数あると話す矢野先生。アカデミックと企業それぞれの立場から、トコトリエノール研究に取り組んでいる様子がよくわかる対談となりました。

フリーラジカルに対する強力な抗酸化力が生活習慣病全般の予防に役立つ

寺尾:私は昨年出版した『肌と心と体の健康増進に包接トコトリエノール』という本を書いた際に、一般の人にもわかりやすいようにかなりかみ砕いて説明していますが、タイトルにもあるとおり、特に皮膚と神経細胞への効果がポイントになるのではないかと思っています。
紫外線を浴びると皮膚の脂質が酸化するだけでなく、フリーラジカルの産生を促進することで周辺物質も酸化させてしまいます。こうした酸化的障害が皮膚のシワやタルミの原因になるのですが、このような紫外線による障害から皮膚を守るのがトコトリエノールの強力な抗酸化力です。なかでもδトコトリエノールは、メラニンおよびメラニン合成に関与する酵素であるチロシナーゼの合成を抑制するため、シミやソバカスの予防・改善に有効で、美白効果も期待できるといわれています。
また、酸素消費量が多い脳もフリーラジカルの一種である活性酸素などの酸化的損傷を受けやすいのですが、脳内に張り巡らされた神経細胞の保護にも、トコトリエノールは有効です。
もちろん、矢野先生が研究されている抗がん活性やコレステロール低減の効果も注目すべきものですし、特にすごいと思ったのは放射線(γ線)を照射したモデルにトコトリエノールを与えると生存率が明らかに違うというデータです。

矢野:これは私も意外です。トコトリエノールにはDNAの修復酵素があるということでしょうか。もしくは、単純にトコトリエノールが持っている抗酸化作用によるものかもしれません。

寺尾:チェルノブイリ事故後には、リポ酸などいくつかの成分で放射線障害の低減・改善に効果があったという評価がされましたが、それはどれも高い抗酸化力で知られる成分ではありました。

矢野:私がマイクロアレイで調べた限り、トコトリエノールはかなり幅広い範囲での遺伝子発現に関わっていて、しかも重要なポイントをいくつも抑えているので、フリーラジカルのシグナルをコントロールしている可能性もあります。ただし、そのシグナルコントロールがサバイバルに働くものなのか、防御的に働くかものなのか、遺伝子レベルでまだまだ調べてみる必要があるでしょうね。抗がん作用について調べたときも、増殖に関わる幅広い部分を抑制していることが分かりましたが、同時に、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を進めるようなシグナル系を動かしているということも明らかになっています。そういったことが放射線に対して偶然良い方向に作用したという見方もできるでしょう。
もう一つの見方としては、フリーラジカルをコントロールしているのではなく、ダメージが起きた後のシグナル系をうまく修飾して、細胞のアポトーシスをうまく防いでいるという可能性です。トコトリエノールは様々な炎症に関わるメディエーターのレベルをうまくコントロールしていますから、放射線障害として起こる遅発性の炎症による細胞死を防いでいる可能性もあるかもしれません。

寺尾:抗酸化とは別に、炎症をコントロールするという機能も考えられるわけですね。

矢野:動脈硬化などを予防する強い抗酸化力はトコトリエノールの非常に優れたところではありますが、炎症性疾患をコントロールすることも重要かと思います。生活習慣病の最大公約数的病態は慢性疾患です。がんや生活習慣病を予防する際には、慢性炎症が増えないようにすることが非常に重要なのです。トコトリエノールが慢性期の病態に効果があるかどうかはまだ分かりませんが、少なくとも急性期の炎症に対しては、先ほどお話したとおりエンドトキシンモデルで炎症が収縮されるということが分かっています。ただ、トコトリエノールの多様な生理活性を見る限り、慢性疾患に対しても希望的観測を抱いてしまう部分があり、慢性病態を制御することで生活習慣病全体にわたって何らかの予防効果を示し、リスクを減らすことに貢献できるのではないかと、漠然と思っています。

徐々に明らかになってきた分子レベルでのメカニズム

寺尾:予防医療ということでは炎症を抑制することは大変重要なことですから、効果が証明できるといいですね。

矢野:そうなのです。生活習慣病では悪性化することを防ぐこと、つまり病態が進むことを止めることが重要なので、そのカギとなる慢性炎症を制御することができれば、イコール予防になると思います。それはがんの再発でも同じですから、効果を期待しています。また、先ほど寺尾さんは線虫モデルを使った延命研究の話の中でレスベラトロールについて触れられていましたが、レスベラトロールが抗加齢的に役立つのはサーチュイン活性を上げるためだと言われていますね。実は、トコトリエノールは構造的にレスベラトロールに似ているところがあり、ターゲットとなるシグナルをうまくコントロールして老化を防いでいる可能性もあると思っています。
それと関連した研究で、ある糖類で線虫を延命する効果があるというデータがあり、そのシグナル系をマイクロアレイで調べたことがありました。その結果、抗酸化防御機構に関わる遺伝子を誘導していることと、タンパク質の変性を防いで正しい三次元構造を保つことに役立っていると分かった。この2つの結果のうち私が特に着目したのは後者のほうで、トコトリエノールにも分子シャペロンと呼ばれるタンパク質の変性を防ぐ機能があり、異常タンパクが貯まらないようにすることで結果的に老化を防いでいるかもしれないと思ったのです。現時点では全く根拠がなく、絵に描いた餅ではあるのですが、そんなメカニズムが働いていても不思議ではないという直観もあります。
現時点では、マイクロアレイで調べてもあまりに幅広いシグナル系が動いていて、はたらきまで特定するのはとても困難です。しかし、たぶんこれではないかというターゲットはあります。脂溶性ビタミンにはA、D、E、Kとあって、A、D、Kに関しては脂溶性ビタミンにくっつくリガンドとそれによる作用も分かっています。Eについては明確ではないものの、A、D、Kに似たものがあると予想されているので、そこからターゲットを絞ることはできます。ただし、フリーの状態のトコトリエノールでは活性が弱く、反応も調べにくいので、包接化することがここでもメリットとしてはたらくわけです。トコトリエノールを包接することで安定的に細胞内に取り込む量が増えれば、何らかのリガンドにくっつきやすくなり、特定の転写因子が活性化されてターゲットとする遺伝子が動くかもしれません。そうすれば、マイクロアレイで動いている遺伝子から遡って、動いている転写因子をプロファイル化できます。そういったテクニックを使って、トコトリエノールがコントロールしているシグナル系と、そこから多様な作用を生み出すまでの機序が分かってくるのではないか。全てとは言わないまでも、いくつかに集約することができれば、トコトリエノールの使い道もより鮮明になってきます。

寺尾:分子レベルでの解明となると、まだ時間がかかりそうですか。

矢野:私自身もやろうとしているのですが、マンパワーの問題もあり、なかなか進められないのです。なにしろトコトリエノールの作用は幅広すぎて、さまざまな遺伝子が動いてしまうので、もう少し絞り込んでみようとしているところです。そうやって絞り込めれば、その遺伝子を潰してみてがんの増殖抑制などを調べることができます。そして、トコトリエノールの有用性が分子レベルでの科学的根拠が明らかになって、さらに使いやすくなります。今、お医者さんや製薬会社の人たちがトコトリエノールのファイトケミカルを使いたがらないのは、作用点が分かっていないからなのです。そういう事例はいくつもあり、代替医療をする者としては常にぶち当たる壁でもあります。特許など出しても作用点がたくさんあれば「どこが作用しているかわからないということでしょ」と言われてしまえばおしまいですし。なので、そこはこれからクリアしていかないといけませんね。

寺尾:似たようなことは、私もコエンザイムQ10で経験しています。それまで医薬品だったコエンザイムQ10が2004年に食品区分になったのを契機に、一気にコエンザイムQ10ブームが起きました。この頃には包接体はできていたので、熊本大学のシクロデキストリンを専門とする先生と共同研究を進めていたのですが、包接コエンザイムQ10を与えた犬の実験で18倍の吸収性になったというデータを発表しました。ところが、まだシクロデキストリンを知らなかったコエンザイムQ10の専門家たちは、そもそもシクロデキストリンの効果を怪しいと信じてくれませんし、犬と人では違うといって聞く耳も持ってくれませんでした。もちろん、その後、人でも調べて大幅に吸収性が高まることを確かめました。しかし、矢野先生とのプロジェクトで胆汁酸がポイントになっているということが分かるまで、どうして吸収性がこんなに上がるのか、そのメカニズムが分かっていなかったのも事実です。ですから、その当時は「分かる人には分かってもらえる」という範囲で製品化したのです。結果的にはそれでもたくさんの人に理解してもらえて、シクロデキストリンの包接の有効性は広く認められましたが、はじめのうちはなかなか苦労しました。それだけに、先ほど話したように、胆汁酸というヒントを得たおかげでメカニズムを解明したというのは大いなる発見でした。

矢野:私が拝見した論文には、包接化することで非常に溶解性が上がったと書かれていましたが、胆汁酸が関与していたのですね。言われてみれば、脂溶性のものを投与するときには栄養学的には当然のことで、溶解・分散させるときに胆汁酸を補助剤として使うのは一般的なことです。ご一緒したプロジェクトで、その部分を寺尾さんが着目したとは感慨深いものがありますね。

寺尾:そこからさらに派生して、広がったものもあるんですよ。胆汁酸と同じように結合定数が高くてγ-シクロデキストリンと相性のいいものを探したところ、グリチルリチン酸が胆汁酸と近いことが分かりました。化粧品ではグリチルリチン酸ジカリウムなど利用されているので、化粧品に配合するとキレイに溶けてくれます。ということは、腸管吸収だけでなく、肌表皮での吸収も良くなるかもしれないということで、肌表皮細胞を培養した膜のモデルを作り、包接コエンザイムQ10をどれだけ取り込むか調べました。比較対象としたのは、ある化粧品メーカーのコエンザイムQ10ローションです。コエンザイムQ10を化粧品として配合できるのは0.03%とされているので、化粧品であるならば0.03%しか配合できないのですが、バイヤスドルフが0.3%配合しなければ効果はないというデータを発表したため、そのメーカーでは医薬部外品の認可を受けて薬用として0.3%配合の商品を販売しました。今回比較したのは、その0.3%配合のものです。対して、私たちの当社オリジナルのコエンザイムQ10ローションは、包接体を0.03%配合したもの。これらを並べて表皮細胞モデルで評価したところ、配合量は10分の1だというのに、8倍から9倍も取り込み量が上がりました。こうした素晴らしいデータが得られたのも、もとは胆汁酸がきっかけでした。


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