
αリポ酸
R-αリポ酸、R-αリポ酸包接体

αリポ酸は優れた抗酸化物質であり、サプリメントや化粧品に広く利用されています。
αリポ酸には、天然型のR-αリポ酸と、工業的に製造される際に作られる非天然型のS-αリポ酸が存在しています。
R-αリポ酸は、ヒトの生体内に存在する天然型のαリポ酸であり、細胞のミトコンドリアに存在する補酵素として働いています。
R-αリポ酸は、生体内においてグルコースからエネルギーを作り出し、糖代謝を促進します。様々な健康効果が報告されており、サプリメントや化粧品としても利用されています。3大ヒトケミカルの1つです*1。
R-αリポ酸包接体は、環状オリゴ糖(γオリゴ糖)を用いて天然型のR-αリポ酸を包接※した製品です。包接体にすることでR-αリポ酸の胃酸に対する安定性や吸収性の改善が期待できます。
環状オリゴ糖の空洞に有効成分が取り込まれることを包接、環状オリゴ糖に有効成分が取り込まれたものを包接体と言います。
- 抗糖化効果(抗糖尿病作用)
- 抗酸化効果(抗炎症作用)
- エネルギー産生、PDCの活性化
- γオリゴ糖による吸収性改善
- 吸収性改善
- 安定性改善

*1:寺尾啓二, 健康・化学まめ知識シリーズ9 ミトコンドリアとヒトケミカル, 健康ライブ出版社(2019)
原料の詳細情報
αリポ酸は細胞内のミトコンドリア内に蛋白質に結合した形で存在し、エネルギー産生において補酵素として作用する物質です。抗酸化作用、抗加齢作用を有し、近年では抗糖化素材としても注目されています。αリポ酸は不斉炭素を有し、R体とS体の2種類の光学異性体が存在していますが、生体内にはR体のみが存在します。
工業的にはR体とS体を等量ずつ含むラセミ体が製造されており、市販されているαリポ酸を配合したサプリメントの多くは、このラセミ体が使用されています。R体はラセミ体に比べ融点が低く極めて不安定で、酸や熱によってポリマー化しやすいためにR-αリポ酸を安定に配合することは困難でした。そこで、R-αリポ酸の安定性改善と生体内への吸収性向上を目的として、γオリゴ糖を利用したR-αリポ酸包接体を開発しました*2。
*2:上梶友記子、環状オリゴ糖シリーズ5 γオリゴ糖の応用技術集、健康ライブ出版社(2019)
R-αリポ酸の効果についての研究情報
R-αリポ酸摂取による抗糖化作用
グルコースは体内の様々な場所で必要とされていますが、R-αリポ酸にはグルコースを細胞内ミトコンドリアに届ける作用があります。脳ではグルコースのみがエネルギー源であり、筋肉や肝臓ではグルコースを取り込み、すい臓のβ細胞もグルコースを取り込んで代謝することでインスリンを分泌しています。このグルコースの移動に関与しているのが、グルコーストランスポーター(GLUT)です。
2001年に特許化されたドイツ・アスタメディカ社の特許情報では、糖尿病モデルマウスを用いてGLUTの膜移動と合成量における、R-αリポ酸とS-αリポ酸の影響を評価しています*3。
グルコース輸送体の一種であるGLUT4は、通常は細胞内の特殊なGLUT4小胞に蓄積しています。インスリンが細胞膜に存在する受容体に結合すると、それがシグナルとなってGLUT4が細胞膜へと移動し、血中のグルコースを細胞内に取り込むことが分かっています。
この研究では、L6筋管細胞を2.5mMのαリポ酸で1時間処理し、細胞膜のGLUT4をウエスタンブロッティング法にて測定しました。その結果、R-αリポ酸はGLUT4の細胞膜への移行を促すことが分かり、糖代謝を促進することが示されました(下図)。そして、その効力はインスリンと同等でした。一方で、S-αリポ酸はGLUT4の膜移行を阻害する傾向にあることが判明しました。つまり、R-αリポ酸は糖尿病を改善し、S-αリポ酸は糖尿病を悪化させることが示唆されました。

(*3より改変)
*3:Asta Medica, US 6,284,787 B1 (2001)
R-αリポ酸摂取による抗酸化作用
R-αリポ酸には、抗酸化作用による皮膚炎の消炎効果があります。活性酸素種による皮膚の炎症に対し、生体内の抗酸化物質には皮膚の保護作用を有する物質がありますが、R-αリポ酸は最も優れた抗酸化物質の一つです。
1994年に発表された論文では、グルコースオキシダーゼ(GOD)というブドウ糖を酸化する酵素を用いてヘアレスマウスに皮膚炎を誘発させ、R-αリポ酸とS-αリポ酸の皮膚炎の阻害効果を検討しています*4。
ヘアレスマウスに14日間に渡ってR-αリポ酸を配合した飼料を与えた群、S-αリポ酸を配合した飼料を与えた群、標準飼料を与えた群に分け、各群のGOD誘発皮膚炎の炎症反応(直径mm)を調べました。その結果、R-αリポ酸を摂取した群ではGOD誘発性の皮膚炎を有意に阻害したのに対し、S-αリポ酸群では阻害効果はほとんど認められませんでした(下図)。
このことから、R-αリポ酸はフリーラジカルや活性酸素種などによって誘発される炎症を伴う皮膚病の処置に有用だと考えられます。

(*4より改変)
*4:Jürgen Fuchs et al., Skin Pharamcol., 7, 278-284 (1994)
R-αリポ酸摂取によるエネルギー産生
R-αリポ酸には、グルコースを代謝しエネルギー産生を高める作用があります。細胞内に取り込まれたグルコースは、まず解糖系でピルビン酸に変換され、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)の働きによってアセチルCoAに誘導されます。そして、TCAサイクル、電子伝達系によって酸化され、エネルギーが産生されます。このPDCの働きを支える必須の物質がR-αリポ酸であり、エネルギー産生のために必要不可欠です。
2004年に発表された論文では、αリポ酸による血管性認知症とアルツハイマー型認知症患者のPDC活性に関して検証が行われ、その中で健常人(正常な脳の人)の評価も行われています*5。その結果、健常人(正常脳)ではR-αリポ酸がPDC活性を向上させることがわかりました(下図)。その一方で、S-αリポ酸はPDC活性を抑制する傾向にあることも確認されました。
このことから、R-αリポ酸の摂取は糖代謝を促進し、エネルギー産生を高めることが示唆されました。

R-αリポ酸の効果
(*5より改変)
*5:L. Froelich et al, J. Neural Transm 111, 295-310 (2004)
R-αリポ酸の吸収性向上
近年、(R-)αリポ酸を機能性食品素材として含む様々な製品が開発されていますが、(R-)αリポ酸は酸に対する安定性が非常に低く、摂取した後の吸収性の低さが課題となっています。
γオリゴ糖は、R-αリポ酸のように熱や酸に対して分解や重合を受けやすい成分の安定性を向上させることが知られています*6。ここでは、薬局方・崩壊試験第1液(pH1.2)を人工胃液として用い、R-αリポ酸包接体の酸安定性を評価しました。R-αリポ酸、若しくはR-αリポ酸包接体を人工胃液に加え、37℃の浴槽中で60分間撹拌し、処理前後のR-αリポ酸含有量を測定することで残存率を算出しました。その結果、R-αリポ酸では人工胃液中で大きなポリマーが生成し、残存率は43%でした(下図)。それに対して、R-αリポ酸包接体ではポリマーは確認されず、残存率は100%となり、酸に対する安定性が大きく向上しました。

(*6より改変)
更に、γオリゴ糖によってR-αリポ酸の安定性が改善されたことで、吸収性も向上することが臨床試験から明らかにされています*7。健常男性(6例、20~45歳)にR-αリポ酸、若しくはR-αリポ酸包接体(R-αリポ酸換算600 mg)を純水200mLで経口投与しました。試験デザインは2群のクロスオーバー試験にて行いました。
その結果、γオリゴ糖で包接することによってR-αリポ酸の吸収性が約2.5倍に向上しました(下図)。Tmaxが約20分であったことから、R-αリポ酸の吸収は速く、胃からも吸収されていることが示唆されました。また、R-αリポ酸、R-αリポ酸包接体共に単回投与による副作用は観察されませんでした。

(n=6, mean±S.D.)
(*7より改変)
Cmax (ng/mL) |
AUC0→180min (ng・min/mL) |
Tmax (min) |
T1/2 (min) |
|
---|---|---|---|---|
R-αリポ酸 | 1678.3 | 78043.6 | 20.8 | 38.9 |
R-αリポ酸包接体 | 4101.9** | 195884.1** | 17.5 | 23.3 |
*6:Naoko Ikuta et al., Int. J. Mol. Sci., 14(2), 3639 (2013)
*7:Naoko Ikuta et al., Int. J. Mol. Sci., 17(6), 949 (2016)