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αリポ酸
R-αリポ酸、R-αリポ酸包接体

αリポ酸は優れた抗酸化物質であり、サプリメントや化粧品に広く利用されています。
αリポ酸には、天然型のR-αリポ酸と、工業的に製造される際に作られる非天然型のS-αリポ酸が存在しています。本来は天然型であるR-αリポ酸のみを摂取することが望ましいのですが、以前はR-αリポ酸の安定性などに問題があるなどの理由によってS-αリポ酸が半分含まれた製品のみが流通していました。しかし、現在では技術の進歩によってR-αリポ酸の純度を極めて高くした製品も販売されるようになっています。

R-αリポ酸は、ヒトの生体内に存在する天然型のαリポ酸であり、細胞のミトコンドリアに存在する補酵素として働くことで糖代謝やエネルギー産生を促進するヒトケミカル(ヒトの生体内で作られている生体を維持するための機能性成分)の1つです*1。一方、非天然型のS-αリポ酸はR-αリポ酸と比べて機能性が低かったり、条件によっては負の効果を示すことが報告されています(後述)。

[機能性]
R-αリポ酸またはαリポ酸にはエネルギー産生効果*1をはじめ、抗糖化や抗酸化作用*2、神経保護作用*2、抗糖尿病効果*2、抗アルツハイマー病効果*2、抗肥満効果*2、肝臓の保護作用*2、抗心血管疾患効果*2、抗ガン作用*2、月経時の血流改善効果*2、血圧低下効果*3、運動における筋肉の保護や回復促進効果*4、骨量の減少抑制効果*5、腸肝循環の促進作用*6、目の健康の維持効果などが報告されています。目の健康に対する有効性については、老眼の改善効果*7や糖尿病網膜症の治癒効果*8、白内障の発症抑制作用*9、ドライアイの改善効果*10、糖尿病網膜症のコントラスト感度改善効果*11などが報告されています。また、R-αリポ酸は体内の脂肪細胞が分泌している生理活性物質であるアディポネクチンの増加効果を持つことが報告されています*12。アディポネクチンの体内での産生量が減少すると、ガンや肥満、動脈硬化、高血圧、糖尿病などの生活習慣病に関連すると考えられているため、アディポネクチン産生量を高く維持することは健康の維持につながります。

肌の健康に関して、R-αリポ酸は抗糖化作用と抗酸化作用を併せ持ちますが、糖化反応や酸化反応は肌や髪の健康を損なう要因として考えられています。肌の弾力性はコラーゲン線維が重要な役割を担っていますが、コラーゲン線維が良質な状態で維持されなければ肌の弾力性は損なわれてしまいます。その大きな原因がコラーゲン線維の糖化による最終糖化産物(AGEs)の生成です。さらに、活性酸素は肌や頭皮の老化の原因となる酸化ダメージを与えます。そのため、R-αリポ酸には肌や髪の健康を維持する効果が期待されます。

ミトコンドリア機能に関係した機能に関して、αリポ酸は片頭痛の改善効果を持つことが報告されています*13。片頭痛は脳のエネルギー不足が1つの原因であるため、エネルギー生産に関わるミトコンドリア機能が片頭痛の病因において重要な鍵を握っていると考えられています。そのため、αリポ酸はミトコンドリアにおけるエネルギー生産と活性酸素消去などの作用を介して片頭痛の改善に寄与したものと考えられています。さらに、ミトコンドリア機能の低下によって起こる病気「ミトコンドリア病」の症状の1つに精神疾患が挙げられますが、正常なミトコンドリア機能の維持に重要な体内のR-αリポ酸量は加齢とともに減少していくため、R-αリポ酸の補給はミトコンドリア機能の維持ともに精神疾患予防のためにも有用です。

体温の維持機能に関して、αリポ酸には一時的な体温の冷えに対する回復促進効果が認められています*14。そのメカニズムについてはAMPK活性化によるエネルギー産生促進作用が関与している可能性が考えられますが、R-αリポ酸は工業的に製造されるS-αリポ酸を含むαリポ酸よりも高いAMPK活性化効果を持つことが報告されています*12

男性の性機能に関して、αリポ酸は糖尿病性の男性の性機能障害(Erectile Dysfunction: ED)の改善にも有効である可能性が報告されています*15、16。糖尿病などによるEDの発症には血管内皮から出る一酸化窒素(NO)の産生量減少が大きく関わっており、NO生産量が低下すると平滑筋の弛緩度が低下しますが、αリポ酸は平滑筋の弛緩度を改善する機能を持つことが報告されています*17(概要については、以下のリンク先*15をご参照ください)。

[非天然型S-αリポ酸の問題点]
非天然型であるS-αリポ酸の問題点については、インスリン抵抗性を持つ肥満ラットへのαリポ酸を投与した研究においてR-αリポ酸投与群ではインスリン抵抗性が軽減された一方でS-αリポ酸にその効果は認めらなかったこと*18や、糖尿病モデルマウスにおける死亡率においてR-αリポ酸は改善効果を示した一方でS-αリポ酸は逆の効果を示したこと*19など、天然型のR-αリポ酸よりも効果が劣る場合や逆の効果を示す場合があることが報告されています*20~22

[R-αリポ酸包接体について]
R-αリポ酸包接体は、環状オリゴ糖(γオリゴ糖)を用いて天然型のR-αリポ酸を包接した製品です。包接体にすることでR-αリポ酸の胃酸に対する安定性や吸収性の改善が期待できます。

環状オリゴ糖の空洞に有効成分が取り込まれることを包接、環状オリゴ糖に有効成分が取り込まれたものを包接体と言います。

R-αリポ酸の健康効果
  • エネルギー産生効果*1
  • 抗糖化作用*2
  • 抗酸化・抗炎症作用*2
  • 神経保護作用*2
  • 抗糖尿病効果*2
  • 抗アルツハイマー病効果*2
  • 抗肥満効果*2
  • 肝臓保護作用*2
  • 抗心血管疾患効果*2
  • 抗ガン作用*2
  • 月経時の血流改善効果*2
  • 血圧低下効果*3
  • 運動における筋肉の保護や回復促進効果*4
  • 骨量の減少抑制効果*5
  • 腸肝循環の促進作用*6
  • 目の健康の維持効果*7~11
  • 片頭痛の改善効果*13
  • 体温の回復促進効果*14
  • 男性の性機能(ED)の改善*15、16
包接体にすることの利点
  • 吸収性改善
  • 安定性改善

*1:寺尾啓二, 健康・化学まめ知識シリーズ9 ミトコンドリアとヒトケミカル, 健康ライブ出版社(2019)

*2:A.K. Tripathi et al., Rev Bras Farmacogn, 33(2), 272-287 (2023)

*3:S Vasdev et al., J Hypertens, 18(5), 567-573 (2000)

*4:E. Isenmann et al., J Int Soc Sports Nutr, 17(1), 61 (2020)

*5:J.L. Roberts et al., Nutrition Reviews, 73(2), 116–125 (2015)

*6:C Anderwald et al., Liver 22, 356-362 (2002)

*7:M.S. Korenfeld et al., Eye 35, 3292–3301 (2021)

*8:J. Lin et al., Diabetologia 49, 1089-1096 (2006)

*9:I. Maitra et al., Biochem Biophys Res Commun, 221(2), 422-429 (1996)

*10:A.S. Andrade et al., Exp Eye Res, 120, 1-9 (2014)

*11:A. Gębka et al., Mediators Inflamm, 2014, 131538 (2014)

*12:Y. Naito et al., Life Sci, 136, 73-78 (2015)

*13:M. Fila et al., Nutrients, 13(12), 4433 (2021)

*14:城先生と寺尾先生の知って得するかも? 健康・化学まめ知識健康編:2023年1月(livedoor.jp)

*15:精力維持と増強のための機能性素材(1)R-αリポ酸|株式会社シクロケムバイオ(cyclochem.com)

*16:C. Hurdag et al., Int J Tissue React, 27(3), 145-50 (2005)

*17:N.E. Cameron et al., Free Radic Biol Med, 31(1), 125-35 (2001)

*18:R.S. Streeper et. al., APS, 273(1), 185-191 (1997)

*19:US6284787 B1 (Patent)

*20:G. Zimmer et. al., J Mol Cell Cardiol, 27, 1895-1903 (1995)

*21:E.M. Gal, Nature, 207, 535 (1965)

*22:E.M. Gal et al., Arch. Biochem. Biophys., 89, 253 (1960)

原料の詳細情報

αリポ酸は細胞内のミトコンドリア内に蛋白質に結合した形で存在し、エネルギー産生において補酵素として作用する物質です。抗酸化作用、抗加齢作用を有し、近年では抗糖化素材としても注目されています。αリポ酸は不斉炭素を有し、R体とS体の2種類の光学異性体が存在していますが、生体内にはR体のみが存在します。
工業的にはR体とS体を等量ずつ含むラセミ体が製造されており、市販されているαリポ酸を配合したサプリメントの多くは、このラセミ体が使用されています。R体はラセミ体に比べ融点が低く極めて不安定で、酸や熱によってポリマー化しやすいためにR-αリポ酸を安定に配合することは困難でした。そこで、R-αリポ酸の安定性改善と生体内への吸収性向上を目的として、γオリゴ糖を利用したR-αリポ酸包接体を開発しました*23

*23:上梶友記子、環状オリゴ糖シリーズ5 γオリゴ糖の応用技術集、健康ライブ出版社(2019)

R-αリポ酸の効果についての研究情報

R-αリポ酸摂取による抗糖化作用

グルコースは体内の様々な場所で必要とされていますが、R-αリポ酸にはグルコースを細胞内ミトコンドリアに届ける作用があります。脳ではグルコースのみがエネルギー源であり、筋肉や肝臓ではグルコースを取り込み、すい臓のβ細胞もグルコースを取り込んで代謝することでインスリンを分泌しています。このグルコースの移動に関与しているのが、グルコーストランスポーター(GLUT)です。
2001年に特許化されたドイツ・アスタメディカ社の特許情報では、糖尿病モデルマウスを用いてGLUTの膜移動と合成量における、R-αリポ酸とS-αリポ酸の影響を評価しています*24
グルコース輸送体の一種であるGLUT4は、通常は細胞内の特殊なGLUT4小胞に蓄積しています。インスリンが細胞膜に存在する受容体に結合すると、それがシグナルとなってGLUT4が細胞膜へと移動し、血中のグルコースを細胞内に取り込むことが分かっています。
この研究では、L6筋管細胞を2.5mMのαリポ酸で1時間処理し、細胞膜のGLUT4をウエスタンブロッティング法にて測定しました。その結果、R-αリポ酸はGLUT4の細胞膜への移行を促すことが分かり、糖代謝を促進することが示されました(下図)。そして、その効力はインスリンと同等でした。一方で、S-αリポ酸はGLUT4の膜移行を阻害する傾向にあることが判明しました。つまり、R-αリポ酸は糖尿病を改善し、S-αリポ酸は糖尿病を悪化させることが示唆されました

R-αリポ酸によるGLUT4の膜移行促進作用(*24より改変)
R-αリポ酸によるGLUT4の膜移行促進作用
(*24より改変)

*24:Asta Medica, US 6,284,787 B1 (2001)

R-αリポ酸摂取による抗酸化作用

R-αリポ酸には、抗酸化作用による皮膚炎の消炎効果があります。活性酸素種による皮膚の炎症に対し、生体内の抗酸化物質には皮膚の保護作用を有する物質がありますが、R-αリポ酸は最も優れた抗酸化物質の1つです。
1994年に発表された論文では、グルコースオキシダーゼ(GOD)というブドウ糖を酸化する酵素を用いてヘアレスマウスに皮膚炎を誘発させ、R-αリポ酸とS-αリポ酸の皮膚炎の阻害効果を検討しています*25
ヘアレスマウスに14日間に渡ってR-αリポ酸を配合した飼料を与えた群、S-αリポ酸を配合した飼料を与えた群、標準飼料を与えた群に分け、各群のGOD誘発皮膚炎の炎症反応(直径mm)を調べました。その結果、R-αリポ酸を摂取した群ではGOD誘発性の皮膚炎を有意に阻害したのに対し、S-αリポ酸群では阻害効果はほとんど認められませんでした(下図)。
このことから、R-αリポ酸はフリーラジカルや活性酸素種などによって誘発される炎症を伴う皮膚病の処置に有用だと考えられます

皮膚炎症に対するR-αリポ酸の阻害効果(*25より改変)
皮膚炎症に対するR-αリポ酸の阻害効果
(*25より改変)

*25:Jürgen Fuchs et al., Skin Pharamcol., 7, 278-284 (1994)

R-αリポ酸摂取によるエネルギー産生

R-αリポ酸には、グルコースを代謝しエネルギー産生を高める作用があります。細胞内に取り込まれたグルコースは、まず解糖系でピルビン酸に変換され、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)の働きによってアセチルCoAに誘導されます。そして、TCAサイクル、電子伝達系によって酸化され、エネルギーが産生されます。このPDCの働きを支える必須の物質がR-αリポ酸であり、エネルギー産生のために必要不可欠です。
2004年に発表された論文では、αリポ酸による血管性認知症とアルツハイマー型認知症患者のPDC活性に関して検証が行われ、その中で健常人(正常な脳の人)の評価も行われています*26。その結果、健常人(正常脳)ではR-αリポ酸がPDC活性を向上させることがわかりました(下図)。その一方で、S-αリポ酸はPDC活性を抑制する傾向にあることも確認されました。
このことから、R-αリポ酸の摂取は糖代謝を促進し、エネルギー産生を高めることが示唆されました

健常人(正常脳)のPDC活性に対するR-αリポ酸の効果(*26より改変)
健常人(正常脳)のPDC活性に対する
R-αリポ酸の効果
(*26より改変)

*26:L. Froelich et al, J. Neural Transm 111, 295-310 (2004)

R-αリポ酸の吸収性向上

近年、(R-)αリポ酸を機能性食品素材として含む様々な製品が開発されていますが、(R-)αリポ酸は酸に対する安定性が非常に低く、摂取した後の吸収性の低さが課題となっています。
γオリゴ糖は、R-αリポ酸のように熱や酸に対して分解や重合を受けやすい成分の安定性を向上させることが知られています*27。ここでは、薬局方・崩壊試験第1液(pH1.2)を人工胃液として用い、R-αリポ酸包接体の酸安定性を評価しました。R-αリポ酸、若しくはR-αリポ酸包接体を人工胃液に加え、37℃の浴槽中で60分間撹拌し、処理前後のR-αリポ酸含有量を測定することで残存率を算出しました。その結果、R-αリポ酸では人工胃液中で大きなポリマーが生成し、残存率は43%でした(下図)。それに対して、R-αリポ酸包接体ではポリマーは確認されず、残存率は100%となり、酸に対する安定性が大きく向上しました。

R-αリポ酸包接体の酸安定性改善効果(*27より改変)
R-αリポ酸包接体の酸安定性改善効果
(*27より改変)

更に、γオリゴ糖によってR-αリポ酸の安定性が改善されたことで、吸収性も向上することが臨床試験から明らかにされています*28。健常男性(6例、20~45歳)にR-αリポ酸、若しくはR-αリポ酸包接体(R-αリポ酸換算600mg)を純水200mLで経口投与しました。試験デザインは2群のクロスオーバー試験にて行いました。

その結果、γオリゴ糖で包接することによってR-αリポ酸の吸収性が約2.5倍に向上しました(下図)。Tmaxが約20分であったことから、R-αリポ酸の吸収は速く、胃からも吸収されていることが示唆されました。また、R-αリポ酸、R-αリポ酸包接体共に単回投与による副作用は観察されませんでした。

R-αリポ酸血中濃度の推移(n=6, mean±S.D.)(*28より改変)
R-αリポ酸血中濃度の推移
(n=6, mean±S.D.)
(*28より改変)
Cmax
(ng/mL)
AUC0→180min
(ng・min/mL)
Tmax
(min)
T1/2
(min)
R-αリポ酸 1678.3 78043.6 20.8 38.9
R-αリポ酸包接体 4101.9** 195884.1** 17.5 23.3

*27:Naoko Ikuta et al., Int. J. Mol. Sci., 14(2), 3639 (2013)

*28:Naoko Ikuta et al., Int. J. Mol. Sci., 17(6), 949 (2016)

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